《マグノリア》 (1999年,アメリカ)


 なんとも,どう評価したらいいのか困ってしまう映画である。複雑な人間関係と複数の事件が同時進行する3時間を超える作品だが,説明不足の部分はないし,矛盾する点もほとんど見つからない。その意味では本当によくできた脚本だと思う。3時間の長丁場でありながら,見ている者を飽きさせないし,物語のテンポはいいし,本当によくできた映画である。

 だが,ちょっと見て楽しめる映画かというとそうではないのである。腰を据えて見ないと何がなんだか判らないのである。だから,映画を見る前にしっかりと人物関係の解説書を読み,事前にある程度の知識を仕入れておかないと,最初の15分あたりで「この映画は一体全体,何なんだ?」と放り投げてしまう可能性が強いと思う。

 私はほとんど予備知識なしに見たため,最初の15分が非常に苦痛だった。どうやら,複数の出来事が同時進行する映画らしいな,ということは理解できたが,どの人物が主役で,どいつが端役で,一体どの方向に物語が進もうとしているのかが全く判らないのである。

 おまけに,それぞれの事件が細切れで順不同に進むのと,それぞれの人間関係が複雑で,おまけに登場人物達が「濃ゆい」のである。濃ゆくないのは警察官と看護人くらいであって,それ以外の登場人物は各々,重くて暗い過去を背負っているのである。

 だから,この映画を楽しもうとしたら登場人物の写真付き家族関係図を片手に見た方がいいと思う。あらかじめ,どういう事件が起こるのかを知っておいて見た方がいいと思う。


 とりあえず,主要登場人物を説明すると次のようになるかな?

 この登場人物紹介だけで,十分に「濃ゆい」でしょう?

 そして,音信不通の息子探しがあったり,その息子の過去を暴こうとする雑誌記者がいたり,自分が余命2ヶ月の病気だと知って娘と和解しようとする父親がいたり,娘が家出した理由を知ろうとする母親がいたり,ヤク中の娘がいたり,彼女がヤク中だと言うことに気がつかない間抜けで人のいい警官がいたり,恋人(男)の気を引こうとして歯列矯正をする男がいたり,そいつが会社から金を盗んだり,精神不安定になって大量の薬を飲んだり,次々と事件が同時進行するわけだ。


 そして,それぞれの事件が次第に抜き差しならぬ事態に入り込み,これからどうなるんだろうと思ったその時,なんと空から大量の▼■★がいきなり降ってくるのだ。それも半端な数じゃない。町全体が▼■★で足の踏み場もなくなるくらい,ウジャウジャと降ってくるのだ。▼■★が苦手な人はこの場面でのけぞっちゃうよな。

 ちなみに,なんで▼■★が空から降ってくるのかは,一切説明なし。近くの沼を竜巻が通過して巻き上げて降ってきた,というにしても,数が多すぎ。ま,この映画の基本姿勢が「人生は偶然の連続だからね」というものだと思うから,理由なんてどうだっていいんだろうけど・・・。それにしても,▼■★って・・・。

 というわけで,▼■★がいきなり降ってきちゃったんで,それぞれの事態は何となく収まる方向に行っちゃうんだけど,根本のところが解決されるわけでないため,その後どうなったんだろうと,そちらのほうが気になってしょうがなかった。特に,あのクイズ天才少年と彼の父親の関係,それからどうなったのか心配でならないのである。


 それと,こういう複数事件同時進行コラージュ作品では,最後のところであらゆる事件が一つに融合して大円団を迎えるのかなと思っていたらそうでもないし,それぞれはやはり無関係なままで終わるのだ。ううむ,なんだかなぁ・・・。

 過去に妻と子供を捨て今は死の床についている老人と,その父を憎んでいる息子の久しぶりの対面のところなんてかなり感動的だ。特に,息子の微妙の心の変化がうまく描かれている(トム・クルーズが熱演している)。同様に,警官から「好きだ」と告白されたヤク中娘が,自分はそれにふさわしくないと逃げ出す様子もいじらしい。父親に愛して欲しくてテレビ出演を続けている幼い子供の心情が切ない。

 そういう場面で,いきなり▼■★が雨あられと降ってくるのである(一応,伏字ね)。この(強引な)終わらせ方,計算ずくなんだか,それともヤケクソだったのか,微妙なところである。


 でも,▼■★が何で出てくるんだぁ,と文句を書いても問題解決しないので,ちょっと調べることにした。欧米映画でわけのわからないシーンが出てきたら,百発百中,聖書に記述があるはずだ。というわけで,あてずっぽうに検索してみたら判りました。『出エジプト記』の第8章第2節でしたhttp://www.is.seisen-u.ac.jp/~zkohta/bible/old_t/1/exo.html#exo08を勝手に引用させていただきます)
 何でも,モーゼがイスラエル人奴隷を解放しないことに腹を立てて▼■★を大発生させ,エジプト中が▼■★で埋め尽くされる,という記述があるんですね。その後,ある映画サイトを見ていたら,映画の中のクイズ番組で客席で,「出エジプト記82」と描いたプラカードが出ているシーンがあったよ,という指摘も見つけました。そんなの,映画の中でチラッと見せられても,おら,わかんねえだよ。
 さらに,聖書の中で▼■★は「やり直し」の象徴なんだとか・・・。おら,わかんねえだよ。


 この分でいくとこの映画で何か判らないものが出てきたり,訳が判らない行動があったら,旧約聖書,新約聖書はもとより,シェイクスピアの全作品,テニスンとホイットニーの全作品・・・などを総動員しなければ理解できないのかもしれません。うひゃあ,面倒くせえ! そこまでして見なくていいや。

(2006/11/21)

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