《トランスポーター》 (2002年,アメリカ)


 この映画,作った側は格好いい映画のつもりだったのだろうか,それともギャグ映画のつもりだったのだろうか。多分,前者だろうと思う。カーチェイスシーンはあるし,格闘シーンも満載だし,主人公は次から次へとトラブルに巻き込まれるし,銃撃戦どころかミサイルは打ち込まれるし,飛行機からパラシュートで降りるシーンもあるし,主人公は孤高の戦士で,それに惚れる美女は登場するし・・・と,何でもありですからね。もちろん,金もかなりかけて作っています。

 ところが,あまりにご都合主義な展開と,あまりに都合よすぎる登場人物の行動と,あまりに大雑把なストーリーの運びのため,大笑いのジョーク映画にしか思えないんですよ。ツッコミどころ満載というか,突っ込めないところがないくらい情けない映画になっています。一体,どこでどう間違ったんでしょうか。

 もちろん,方向を間違えたのは監督(ルイ・レテリエ)と製作脚本(リュック・ベッソン)なんですが,主犯格はどう見てもリュック・ベッソンでしょう。こいつが手を出した映画はどれもこれも,「見た目は格好いいけれど,何でそこまで主人公に都合良く物語が進むわけ? 何でそこまで不自然な会話を重ねるわけ? 何でそこで都合良く,美女が主人公に惚れちゃうわけ?」という映画ばかりのようです(《WASABI》とか《レオン》とか)


 主人公フランクは元特殊部隊とかに所属していた元軍人で,現在は運び屋をしています。運び屋といっても宅急便のお兄さんではなく,ちょっとヤバイ物(ブツ)とかを運ぶお仕事ですね。もちろん報酬も高いです。で,彼には3つの原則があって,これだけは絶対に守らせるんですね。

  1. 契約変更はしない
  2. 名は伏せる
  3. 依頼品は開けない

 ところが,「長さ150センチ,高さ50センチ,重量50キロ」の物をマフィアのボス(だったかな?)に届ける仕事を請け負うんだけど,なぜかそのバッグの中に生きている人間が入っていることに気がつき,開けちゃうんですよ(自分で作った原則を映画開始から15分で破っちゃうフランク君)。するとそこには中国人美女が入っていたからさあ大変・・・ってな映画。


 映画冒頭,フランクは銀行強盗の逃走の手助けをするシーンから始まります。彼の車(BMW735)に4人の銀行強盗が乗り込むんだけど,ここでいきなりフランク君,それは契約違反だと駄々をこねます。「契約は3人で体重254キロだったはずだ。この体重では車のスピードが落ちて警察をまけない。サスペンションの効きが悪くなる」というのがその理由。しかもその車は彼でないと動かせない仕様になっているから強盗たちは動かせない。ぐずぐずしているもんだから,車の周りを警察が取り囲み,向こうからパトカーが何台もやってくる。この期に及んでもフランク君,契約違反をたてに運転しようとしない(このシーンはやはり,お笑い映画ですよね。)。しょうがないから,銀行強盗は仲間を一人撃ち殺して車の外に死体を蹴り出します。「これで3人,254キロだ」と納得したフランク君は車を急発進!

 254キロにこだわった割には,残った強盗3人の体重合計が254キロって確かめていません。ここは是非,電卓を取り出して,「お前は体重何キロ,で,そっちのやつは? お前は何キロだよ?」って計算し,「あと3.8キロ,重すぎる!」とか文句をたれて欲しかったです。もしかしたら,後部座席が体重計になっていたのかもしれませんが・・・。

 もちろん,発車したと言ってもパトカーは間近にいるわけで,254キロにこだわってないでさっさと出発したほうが楽だったような気がしますが,そこがフランク君のいいところなんでしょう。このカーチェイス,なかなか迫力があるように見えますが,よく見ていると,壊れるのは安い車で,高級車は絶対に壊れないという超常現象が起きています。階級社会ってやつでしょうか。

 そして,いよいよ周りをパトカーで取り囲まれて動けなくなり,これで屁理屈フランクちゃんもお終いかとも思ったら,ここでいきなり車を発車させると車が宙を飛び,立体交差で下の道路を走っているトレーラーの上に無事に着地するのです。あれほどこだわったサスペンションが効いています。やはり,合計254キロだった模様です。そして何故か,トレーラーにはちょうどBMW一台分のスペースが空いていたのですよ。フランク君,素晴らしい予知能力です。


 ちなみにフランク君はいつもこの99年型のBMW735を仕事に使っています。やばい仕事に使うのですから,毎回車を変えるとか,そういうことを一切考えない豪胆なフランク君です。一応,ボタン一つでナンバープレートが変わるというギミックがあるんですが,何しろあれほど派手に町中を走り回り,多数の警官に目撃されていたはずなのに,何故か警察は彼を疑いません。翌日,彼の自宅に警部が一人で聞き込みに来ますが(そう言えば,警部さんが一人で聞き込みすることってあるんだっけ? フランスでは普通?)車種と色は一致するが目撃されたナンバープレートと違っているという理由で,あっさりと引き上げます。フランスの警察を馬鹿にして作った映画のようです。


 で,今度は前述のマフィアからの依頼。依頼主が「長さ150センチ,高さ50センチ,重さ50キロ。そして受取人の名前は」と言ったところで,それを遮るフランク君。「名前は言うな。第2原則だ。名前は伏せておけ」なんだってさ。相手の名前を聞かずに大丈夫なんでしょうか。宅配便の受取人が空欄のままコンビニに運んでも,相手にされないと思うけど・・・。ま,面倒なんで,フランク君の好きにさせてあげましょう。

 でもって,ブツを運ぶ途中でバッグを開けちゃって,美女を発見。ここで彼女に逃げられそうになって,何とか捕まえて車に戻ると,警官二人が車の前で待っています。そりゃあ,当然でしょうね。ここでフランク君,さすがは元特殊部隊で,二人の警官を倒し(殺した模様です),何故か車のトランクに「警官二人の死体(?)+生きている美女一人」を入れたまま,マフィアボスのところに向かいます。あのトランクにどうやって3人の大人を入れられたのか,よくわかりません。もしかしたらあのトランク,「ドラえもんの四次元ポケット」仕様だったのかもしれません。さすがは高級車,BMW735です。

 それにしてもフランク君,警察官二人を殺して大丈夫なんでしょうか。それと,フランク君のBMWを発見した時点で直ちに本署に「運転手がいない不審なBMWを峠で発見。ナンバーは・・・」と無線連絡するのが常識だと思うのですが,こういうところを気にしてはこの映画を見ていられませんので,常識を捨てましょう。


 で,マフィアボスは金を払い,別の荷物を運んで欲しいと頼みます。実はこれ,爆薬で,中味(美女)を知ってしまったフランクを殺そうとしたわけです。ボスの家からの帰り,フランク君はコーヒーを飲むためにドライブインに立ち寄りますが,そこで車が大爆発!
 フランク君,間一髪・・・というシーンですが,なぜマフィアのボスがこんなにまだるっこしいことをしたんでしょうか。「お前は中を見たな! 契約違反だ! 死ね!」,ズドン! これで一件落着。そうすれば金を渡す必要もないし,確実に殺せます。フランクがこのボス宅に荷物を運ぶことは関係者しか知らないから,死体を海に流せば事件にすらなりません。ところが,道路を走っている車が爆発したら,これは誰が見ても事件です。当然警察が介入して,犠牲者のフランクが立ち寄ったところはどこだ,ってなことになり,面倒なことになります。マフィアボス君,ちょっと頭悪いです。

 で,フランク君は車を爆破されたもんだから,マフィアボスの豪邸に戻り(車が無いから徒歩で戻ったものと思われます),ドアの呼び鈴を押したかと思うと,いきなりドアを蹴破ります。マフィアのボスの豪邸だというのにこのドアは薄っぺらな木製です。私の安アパートのドアのほうが金属である分,頑丈にできています。ここから銃撃戦やらカンフーばりの格闘シーンやらが連続して,それなりに楽しめます。もちろん,フランク君には傷一つ付きません。お約束ってやつです。

 ちなみにこの時,美女ちゃん(ヒロイン)は手足を縛られて椅子に縛り付けられて,椅子のキャスターで移動するしかできない状況です。

 銃撃戦,格闘技戦を制したフランク君,ボス宅のガレージに並んでいる高級車の中から一台のベンツを選び,エンジンにいく電線を直結させるという「アメリカ映画の不良高校生が車を盗む手口」でエンジンをかけ,車を発車させます。ベンツって簡単に盗めるんですね・・・って,それでエンジンがかかっちゃうベンツって偽物じゃないの? 「ベンツ」だと思ったら「ベンシ」ってメーカーだった,というギャグじゃないよね。

 ま,それは忘れとくとして,何故かその車の後部座席に「椅子に縛り付けられた美女ちゃん」が乗っているのですよ。椅子に縛り付けられて歩けないのに,どうやってガレージに移動できたのか,両手を後ろ手で縛られているのにどうやって車のドアをあけたのか,何より,たくさんある車の中でフランクが選ぶ一台をなぜ予知できたのか,このワンシーンだけでも謎満載です。

 ま,それは置いとくとして,フランクは車を発進させ,ガレージのドアを突破し,豪邸の門を破壊して脱出します。どちらもペラペラの木製です。ベンツに傷をつけちゃいけない,という配慮があったためと思われます。この映画で,フランス・マフィアボスの豪邸のガレージや門は,日本の安アパートのドアよりちゃちだということを知りました。いやはや,勉強になる映画です。


 これでまだ,映画が始まって30分くらいだったかな? とにかく,ありとあらゆるシーンが,何箇所も突っ込めるんですよ。しかも,あと60分,こういうシーンが連続するんですよ。嬉しくなってきます。


 フランク君は助けた美女を自宅につれて帰ります。なぜ彼女を連れて帰ったのか,全く説明なし。警察署の前に置いて,「警察に事情を話すんだ。そうすれば君は安全だ」と言えば一件落着なんだけど・・・。

 でもって,翌朝になるとこの美女ちゃん,なぜかマドレーヌなんかを焼いちゃって,庭のお花なんかを摘んじゃって,コーヒーなんかを入れちゃって,すっかり「かいがいしい世話女房」に変身しちゃいます。知らない家でいきなりマドレーヌを焼いちゃう美女ちゃん,すごいです。男一人暮らしのフランク君だけど,マドレーヌを作る材料と道具だけは常備していたと思われます。

 でこの時,さっきの警部さん,また一人で再登場。何しろ,フランクの車が爆破され,そのトランクから警官二人の死体が発見されたんだから当然ですね。ここでさっさと逮捕するかと思ったら,「実はあの車,盗まれたんです。これから盗難届けを出そうと思っていたところです。本当です」というフランク君のとって付けたような嘘っぽい説明に納得して,あっさりと帰っちゃいます。この警部さん,人を疑うという言葉を知らない人なんでしょう。警察官としては大間抜けだけど,人間としてはいい奴かもしれません。


 警部が帰ったところで,フランク宅にいきなりミサイルが飛んできて爆発,さらに機関銃が雨あられと打ち込まれます。ちなみにフランク君の自宅は映像で見ると石造りと思われで窓もほとんど無い構造ですが,何故か逃げる二人を確実に狙って銃弾が打ち込まれます。石壁を通過する銃弾というのもすごいです。雨あられのごとく銃弾が降り注ぎますが,もちろん,2人には傷一つ付きません。お約束です。
 ちなみにミサイルは,真っ直ぐではなくカーブを描いて飛んできます。つまり,追尾型というか,感知型のミサイルのようですが,それにしても何を追尾していたんでしょうか?

 ここで2人は地下室に移動して,海に通じる穴からアクアラングを身につけて泳ぎだし,フランク君の別荘(?)に脱出します。地下室を出る時は普通の洋服を着ていたような気がしますが,別荘に到着した時は2人ともスウェットスーツみたいなのを着ています。海中で酸素ボンベを背負ったまま服を着替える,という超一流マジシャンばりの技を是非,見せて欲しかったです。


 ってなわけで,ここでもまだ45分くらいです。あと45分間,こういうご都合主義の展開が楽しめます。突っ込みどころが45分間,まだまだ続きます。これ以上ツッコミ文章を書くのも面倒になりましたので,この後のムチャクチャ展開を楽しみたい人は,映画DVDを借りてご確認ください。

 飛行機より速く走るフランク君の勇姿,飛行機からパラシュートで飛び降りて高速道路を疾走するトレーラーの後方を飛んでいるのに追いついてトレーラーに着地するフランク君の空中移動能力,トレーラーがどこに行くかを知らないのに何故か正確に追いかけられるフランク君の超能力が楽しめます。
 さらに,バス会社の倉庫で敵に周りを囲まれ,油(重油みたいです)が入ったドラム缶を倒して床を油だらけにして敵はツルツル滑り,フランク君はブレイクダンスみたいに背中でクルクル回りながら敵を蹴り倒すなんて「作用・反作用の法則」を無視しまくった超物理学もナイスですし,この油だらけの床を銃で撃っても引火しないのに,海にドラム缶をぶちまけて銃で撃つと海面が炎だらけになるというシーンも前後の整合性を全く無視していて清清しい限りです。

 路線バスの車内での格闘シーンはなかなかの迫力です。敵の命を奪わず,戦闘能力だけ奪うために大腿や下腿,前腕をナイフで刺すだけで動けなくします。ここだけ見ると,フランク君は人道主義者のように思われますが,ここに至るまで,敵を殺しまくっていたわけですから(・・・敵どころか,警察官まで2人殺している),どこでフランク君が趣旨転向したのか,見ている方にはさっぱり判りません。


 いやあ,豪華絢爛でツッコミどころ満載の映画って,いいですね。ちなみにこの監督と脚本コンビは《トランスポーター2》という続編を作っていますよ。ツッコミ・マニア,必見かもしれません。

 では,サイナラ,サイナラ,サイナラ。

(2006/08/16)

 

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