《ビヨンド・ザ・リミット》 (2003年,ドイツ)


 正直,この映画の感想を書くべきかどうか,迷っていました。人間としてこういう映画を許していいだろうか,というレベルにまで踏み込んで作られているからです。要するにこれは,金と手間をかけて丁寧に作られた犯罪スレスレのの虐殺・拷問映画です。

 映画監督はドイツの若手で,こういうグチャグチャ・ドバドバ・ギャアアーという映画を作ってばかりいる人で,彼の作品はどれもこれも,ドイツ本国では上映禁止になっているらしいです。どこかの映画批評サイトに「この監督,頭のねじがはずれているんじゃないだろうか」と書いてありましたが,まさにその通りです。この監督は人体を破壊することにだけ興味があって,それ以外はどうでもいいみたいです。人体をグチャグチャにしたいという衝動をこの映画を作ることで押さえていて,映画監督にならなければ犯罪者になっていたんじゃないか,というヤバさが漂っています。


 とにかく,いたるところでクビはちょん切られるわ,頭は叩き割られるわ,顔に斧が食い込むわ,足は斧で切断されるわ,首を針金で絞めるわ,火あぶりされるわと,ありとあらゆる残虐シーンの連続です。私は医者をやっていて,おまけに四肢と顔面の外科が専門だから,ちょっと乱暴な手術シーンみたいに見えて,最後まで見られたけど,普通なら,スプラッター映画ファン,ホラー映画ファンといえども最後まで見通すのは苦痛だろうと思います。

 スプラッターというのは基本的に,「そんなのありえねぇ〜!」というコメディー的要素があり,見ているほうも「これはお芝居で作り事だからね」と安心して見ていられる要素があるわけです。ところがこの映画では,そういう約束事がどっかに吹っ飛んじゃっていて,できるだけリアルに人体破壊の様子を再現することを主眼にしているもんだから,見ている側の逃げ場がないんですね。


 で,そういうシーンだけかというと,所々,ものすごく質の高いシーンがあるもんだから困ってしまうのです。例えば一番最後の短い地獄のシーン。まさに地獄絵を思わせる映像ですが,それが凄絶な美しさというか,そこまで踏み込まなければ描けない美しさというか,逆説的な美すら感じさせる素晴らしい映像なのです。わずか数分間のシーンで残虐と美の極致を描いてしまった監督の才能には脱帽します。この数分の地獄絵シーンはある意味,必見でしょう。それほど素晴らしいです。ここは文句なしに評価します。

 それと,剣劇・格闘シーンが本格的で楽しめます。しかも殺陣もよく考えられていて見事です。格闘技映画としても楽しめるくらい,レベルの高い画像でした。これくらいのレベルで格闘シーンが撮れるのですから,こっち方面の映画も作って欲しいです。そのほうが,世のため,人のためじゃないかと思います。


 映画は大きく二つの部分に分かれていて,前半は現代のギャングの内部抗争がらみの大量虐殺事件の様子,そして後半は中世ヨーロッパの異端とされる宗教の信者と,それを取り締まる異端審問所での拷問の様子が描かれています。二つの物語をつなぐ鍵が「永遠の心臓」なるアイテム。この「永遠の心臓」を甦らせるために,善良な人間の魂を生贄にすることが必要で,それで人間が次から次へと殺されちゃうわけですね。

 前半の麻薬取引をめぐるギャングの仲間割れ(?)での,拷問・尋問のシーンが半端じゃなくひどいです。犠牲になる側が全員テーブルの前の椅子に縛り付けられ,一人一人殺されるシーンを見せ付けられるという地獄絵図が繰り広げられます。しかも,一人一人,殺され方が凝っているというか,人体を破壊するのが楽しいというか,工夫を凝らして殺しまくります。しかも,犠牲者の半分は全く無関係の人間です。この時点で,人間として間違っています。

 間違ってこの映画を借りる人もいるかと思いますが,このシーンで見るのをやめるべきでしょう。私は意地で最後まで見ましたが,もう二度と見ないと思いますし,この映画監督(オラフ・イッテンバッハ )の作品だけは見るまいと思いました。


 この映画を見て「面白かったねぇ」といった人が周りにいたら,とりあえず近付かないほうがいいでしょう。危ない人というよりヤバイ人ですから・・・。

(2006/08/11)

 

映画一覧へ

読書一覧へ

Top Page