『物理学と神』(池内 了,集英社新書)
 ヨーロッパ文明は「キリスト教文明」と言い換えてもいい。物理学にも数学にも化学にも,その背景には必ずキリスト教があり,聖書がある。聖書の記述を証明するために物理学や数学が進歩したというのは紛れもない事実である。
 天動説を成立させるための理論的説明があまりに複雑怪奇になり,「神がこんなに混沌とした世界を作るわけがない」と考えたコペルニクスが,地動説を提唱し,美しくも単純な理論で天体の運行を記述した。しかし,「神は世界の中心にいらっしゃる」という聖書の記述からすると,神は天体の中心,すなわち灼熱の太陽に居る事になる。いくら神といっても,あの灼熱地獄に存在できるものだろうか,とコペルニクスは一時,途方に暮れたという。
 このような神と物理学とのかかわりを,永久機関,量子力学,フラクタル,果ては株取引など,実にさまざまな分野で論じる語り口の豊かさが魅力だ。

 

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