《ディノクロコ》(2003年,アメリカ)


 決してクズ映画ではありません。それどころか,モンスターパニック映画としては破綻が少ない方でしょう・・・一カ所の大ポカを除いては・・・。ストーリーはそれなりにしっかりしているし,起承転結はしっかりしているし,いい奴は最後まで生き残るし,嫌な奴は最後にはちゃんと死んでくれます。モンスターが生まれるに至った経緯も荒唐無稽なんだけどそれなりに説明しているし,モンスターを倒す手段もこれならありでしょう。モンスターの造形もそれなりにきちんとしているし,CGを使った動きも《ジュラシックパーク》に準じるくらいはいっています。人間関係もそれなりに描かれているし,主人公とヒロインが結ばれる過程もごく自然です。


 では,大体のあらすじを紹介。

 ディノクロコ(dinocloc)は先史時代の巨大ワニのことらしいです。それが地中に埋もれたまま見つかり,その体の巨大さ(体長15メートル以上)に目を付けたバイオテクノロジー会社がDNAを抽出して,家畜を短時間で成長させることができるのではないかと研究を始めたんですね。で,手始めにワニを使った実験をしたら大成功しちゃって,1日に50センチも成長しちゃう。で,培養室かなんかでワニ君が大暴れしちゃって,見に行った女性研究員が食われちゃって,そのまま外に逃げ出した,どうしよう,というのが発端です。

 研究所としてはとりあえず隠しちゃえ,というのが定石ですから,「このワニ君たちは成長は早いけど寿命が短いから大丈夫」とか発表するんだけど,案の定,湖でボートに乗っているお兄ちゃん,お姉ちゃんが食われちゃい,騒動になります。


 一方,街に12歳になる弟と暮らしている若いお兄ちゃん芸術家がいて,このお兄ちゃんと昔つき合っていたお姉ちゃんがいて,彼女の方は動物保護局かなんかに勤めています。その後,いろいろあって,お兄ちゃんとお姉ちゃんはベッドインしますが,これはお約束ってやつね。でも二人とも基本的にはいい奴なんで,許します。

 でもって,この二人が巨大ワニがいることを知り,研究所の職員と知り合って,真相を知ります。

 ところがこの弟が飼っている犬が行方不明になって,夜に一人で探しに行き,そこでワニ君に襲われます。そして食われちゃいます。ううむ,普通はこういう少年は最後まで生き残るキャラなんですが,これには驚きました。首がゴロンと転がるシーンはちょっと引きます。このあたりは,場面転換が多すぎて,何がどうなったのか,ちょっと覚えていません。

 でまあ,いろいろあって,ワニを退治しようということになって,保安官(動物保護局お姉ちゃんの父親)が動き出すんだけど,みんなが「夜間に探すのは危ないです」って言っているのに,「今やろう」と聞く耳持たず状態で命令だしちゃうもんだから,5人も食われちゃう。保安官,判断悪すぎ! ところがこの保安官,自分の判断ミスで5人死んでいるのに全然反省していません。

 で,またいろいろあって(短いシーンで場面転換が多すぎるから,よく覚えていない),結局,芸術家お兄ちゃん(ガスバーナーで鉄板を切ったりくっつけたりして作品を作っているらしい)の力を借りて檻みたいなのを作り,トンネルの中におびき出して閉じ込め,何かのガスで殺しちゃう計画を立て・・・,という映画です。

 ま,そういうわけで,バイオでDNAをいじって巨大生物を作るというのも定番なら,それを作った研究所が真相を隠すのも定番,「ワニの化け物がいるのよ,みんな,非難させて」と警告しているのに,「夢でも見ているんですか?」と取り合ってくれないのも定石。ワニ退治の名人が登場するのもいつもの展開だし,主人公が自分の才能を生かして弟の敵を討つのもよくある設定です。もちろん,主人公とヒロインがカップルにすることも忘れていないし,短いけどベッドシーンのサービスもあります。


 では,何が問題かというと,このモンスターの形です。これはワニではなくトカゲです。同じ爬虫類でも,ワニとトカゲでは体の構造がまるっきり違うのです。もしもディノクロコというタイトルを付けるなら,怪物はワニでなければいけません。

 これはですね,現代日本を舞台にした映画のはずなのに女性が十二単を着ているとか,将棋の映画なのにやっているのはチェスだとか,ハチの怪物が襲ってくる映画と書いてあるのに実際に出てくるのはチョウチョだとか,マッターホルンを舞台にした映画のはずなのに映っているのは六甲山だとか,それと同じくらいの致命的ミスなのです。

 では,ワニとトカゲでどこが違うかというと,体と足の位置関係です。ワニやトカゲの体を細長い長方形とすると,ワニの場合,足は長方形の側面から地面に平行な方向に出ています。一方,トカゲの場合は地面に垂直な方向に出ています。地面に平行か垂直かの違いであり,当然,骨盤や肩甲骨の構造も違います。

 だから,この映画でワニの化け物が,トカゲのように走っているのは,どうしても許し難いミスなのです。どうしてもトカゲの化け物を登場させたいのであれば,最初から巨大トカゲ映画にすればいいのに・・・。

(2006/06/14)

 

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