《案山子男》(2002年,アメリカ)


 B級ホラー映画マニアの間では「案山子男を見ずしてB級映画を語るなかれ」と賞賛(?)されている伝説的名作(?)。しかも,配給会社はB級の殿堂アルバトロスとくれば,これは意地でも見なければいけません・・・というわけで見てしまいましたが,さすがは伝説の怪作でした。期待を裏切らない脱力っぷりでした。


 どういう映画かというと,いじめられっ子の高校生レスター君が母親の愛人(この母親がとんでもない奴で,年中酔っ払っていて,若い男を自宅のトレーラーハウスに連れ込んじゃう)とのいさかいで殺され,その恨みがトウモロコシ畑(もちろん殺人現場ですね)にあった案山子(かかし)に乗り移り,その案山子がいじめっ子たちを殺しまくる,というストーリーです。

 いじめられっ子が復讐する,というと《キャリー》を思い出しますが,この映画はそんな立派なものじゃございません。最初のうちこそ,案山子君はいじめられっ子を殺しますが,その後は暴走し,無関係な人まで殺しています。もう,どうでもいい感じです。ストーリーも整合性もありません。だって,アルバトロスだもん。


 主人公(?)のレスター君のダメっぷりがいいです。いつもオドオドしていて,ダサくて,イジイジしていて,そのくせ,クラス一(?)の美少女に「一緒に卒業パーティーに出てくれない」なんて告白します。もちろん,案の定,相手にされず,笑いものにされます。見ているほうも,これじゃしょうがないな,と思います。そのくらい情けないレスター君です。

 このレスター君,絵の才能はあるらしく,その憤懣をぶつけて鉛筆画を書きます。不吉な感じのカラスの飛ぶ姿とかを書くんですが,これがちょっといい感じの絵です。こういう場合,この絵が後半に重要な役割を持つのが常識的映画的展開のはずですが,この映画ではこれでおしまい。何だ,そりゃ?


 レスター君は殺されてから1年後に案山子として蘇り,いじめっ子たちをやっつけるわけですが,この1年間のブランクが意味不明です。殺された直後に復讐をすればいいのに,なぜか1年間も悠長に待ち,それから復讐を始めます。復讐心を熟成・発酵させたんでしょうか?

 この案山子男,ムチャクチャ身軽です。何しろ体が藁でできていますから,身が軽いのなんのって。高い木から飛び降りる時には必ず宙返りをしてから着地するし,逃げる相手を追いかけるときには連続バック転です。登場するたびに,いつも無意味に宙返りばかりしているお茶目な案山子男です。ちょっと前に話題になった栄養サプリメント飲料のテレビ・コマーシャルを思い出してしまいました。

 この案山子男は銃で撃っても首を切っても倒せません。何しろ藁ですから・・・。「それなら燃やしちゃえばいいんじゃないの? 藁なんだから・・・」と誰しも思うことでしょう。私もそう思いました。もちろん,映画のクライマックスではガソリンをかけて燃やそうとします(・・・車の助手席になぜガソリン入りのポリタンクが置いていたかって? それを聞かないのが礼儀だよ。アルバトロスだから・・・)。その結果どうなったかくらいは,秘密にしときましょう。とはいっても,勘のいい人ならその結果はわかっちゃうでしょうが・・・。


 えーと,案山子男の武器は,なんとトウモロコシです。なぜかというと,トウモロコシ畑の案山子だったから・・・。藁でできた手にトウモロコシを持ち,いじめっ子たちのこめかみの辺りをブスっと刺しては殺します。「食べ物を粗末にするでねぇ! この罰当たりが!」という声が聞こえてきそうですが,とりあえずは気にしないようにしましょう。

 そういえば,案山子男の声(私は日本語吹き替え版で見ました)が,大昔のテレビ映画のヒーローみたいです。「ワハハ,私が案山子男だ!」という感じで大見得を切って登場するんですが,これは見ていてさすがに痛いです。

 そういえば,このトウモロコシ畑の案山子は「案山子男」になる前から,かなり不気味です,というか,邪悪な感じです。道端でこういう案山子に出くわしたら,腰を抜かして座りションベンするくらい不気味な顔かたちをしています。アメリカのトウモロコシ畑にはこういう案山子君たちが並んでいるんでしょうか。だとしたら,ホラー映画より怖いです。


 ちなみに,この「案山子男」には生意気にも続編が作られています。この映画に続編を作る勇気というか無謀さ,無鉄砲さにとりあえず拍手してあげましょう。

(2006/05/24)

 

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