肉喰怪獣キラーツリー(2004年,アメリカ)


 クソ映画,アホ映画史上にその名を残すであろう名作映画にまたぶつかりました。ストーリーと無関係のエピソードやら,取って付けたような展開やら,あまりに情けないCGやら(2004年作成というのが嘘じゃないかと思うくらい安っぽい),濃すぎる登場人物やらで,何度途中で「もう見るのを止めよう」と思いましたが,この感想を書くためだけに最後まで見ました。これは間違いなく我慢大会に使える映画です。

 おまけにこの映画,生意気にも"Part 2" です。前作の設定と登場人物を引きついているようです。でも,第1作目を見ないと判らないということはなさそうなので,ご心配は無用です。


 ストーリーはこんな感じ。

 第1作目で殺人木(キラーツリー)に親友(?)を殺され,何とかキラーツリーを倒した(?)森林警備隊体長のマークが住む静かな街ヘイゼルビルにも,リゾート開発の波が押し寄せ,活気が出てきた。そしていよいよクリスマスが近づく。
 キラーツリーは連邦森林管理局(NFS)が厳重に管理していたはずなのに,その管理森の封鎖を破って盗んだ連中がいたのだ。クリスマスツリーにちょうどいい大きさなんで,盗んで売ろうとしたわけだ。キラーツリーといっても,動かなければ単なる小ぶりの樅の木である。かくして,街のあちこちにキラーツリーが売られ,家庭に運ばれていった。
 そして,あちこちで不審死が連続する。マークはそれを見て,かつて自分を襲ったキラーツリーであることを確信する。しかし,誰もそれを信じない。それどころか,マークの捜査を執拗にNFSが妨害するのだ。そうこうしているうちに,キラーツリーの大群が人間たちを襲い始め,惨劇が幕を開ける。


 まぁ,こんな感じのストーリーですが,これで面白いホラー映画になるかB級になるかの分かれ道は,殺人木(殺人鬼?)をいかに恐ろしく,馬鹿げているんだけどリアルに描いているか,にかかっています。何しろ,木は自由に動けない生物の代表です。つまり,木としてリアルでありながら,自由に動けるという設定をどのくらいのレベルでクリアしているかにかかっているのです。さて,もしもあなたがこの映画のキラーツリーをデザインするとしたら,どんな形にするでしょうか。






 はい,皆さん,できましたか? それを見せて下さい。どれもよく考えて書いてますね。

 でもどれも間違いです。この映画に登場するキラーツリーは幼稚園児の落書きより稚拙なんですねえ。

 じゃあ,どういう形かというと,クリスマスツリーの根がカニの足になっているだけなんですね。しかも,目がついていて光っています。要するに,「イカの胴体にカニみたいな足がついて,しかも前歩きする」のですよ。しかも,元々が家庭用のクリスマスツリーですから,高さはせいぜい2メートルで,可愛いです。何でこれば人を殺せるのか,全く理解不能です。
 おまけに,このツリーが動く様子のCGが情けないほど安っぽいです。これほど稚拙なCGを見たのは20年ぶりくらいじゃないでしょうか。

 その他にも,ツッコミ所が満載,というか,突っ込めないところがないくらいです。恐らく,『死霊の盆踊り』級の伝説的B級クソ映画として,長くその座を死守するでしょう。これを凌駕するアホバカ映画はなかなか作れないんじゃないでしょうか。


 まず,主人公のマークの描かれ方が情け容赦ありません。可哀相なくらいです。第1作でのトラウマというかPTSDのため,木に襲われて友人が死ぬ場面を夢に見てはオネショするんですよ。大の男が悪夢を見ては小便でベッドは洪水状態。このため,奥さんに愛想を尽かされています。
 そこに,奥さんの高校時代の同級生が,リゾート開発をした大金持ちとして登場します。この二人,高校時代につき合っていてベッドインもした関係のようです。旦那がいる前でいきなり,「昔の君は激しかったよね」とか大勢の前でばらしちゃうんですが,マーク婦人はそれを聞いて嬉しそうです。人目も気にせず二人はイチャイチャします。やけぼっくいに火がつきまくり状態です。でも,旦那のマーク君は寝ションベンたれですから,じっと唇を噛み締めたりしています。寝ションベンたれは辛いのです。

 そうそう,途中で登場する「コンセントを抜いちゃうだけで止まってしまうスキーリフト」もすごいです。「このコードは何だ? 引っ張ってみよう」と引っ張るとスキー場にあるコンセント(何でこんな所にコンセントが?)がはずれ,リフトが止まっちゃう。当然,リフトに乗っている大勢の客は降りられなくて空中で放置プレー。ところが,あんなに大勢の人間がリフトに乗っていたはずなのに,なぜか後のシーンでは2人だけがリフトに取り残されて凍死しちゃう(!)のです。他の人,いつ降りたんでしょうか。

 「キラーツリーは高い音に引きつけられる」という理由で,ツリーをおびき寄せようとしてクリスマスツリーの鈴を鳴らすってのも,ほのぼのとして学芸会みたいです。俳優の皆様が,真剣な表情で鈴を鳴らすシーン,幼稚園のクリスマス会より演技が下手です。


 そして,キラーツリーに追われて体育館のプールに入って逃げようとするNFSの女性職員と植物学者(マークの協力者)のシーンも素敵です。プールの中に追ってきたキラーツリーが死ぬことから,キラーツリーが塩素消毒に弱いことが判るんですね。普通ならここで,キラーツリーをプールの中におびき寄せるとか,プールの水をタンクに入れてばらまくとか考えつくはずなのに,その後のシーンでは植物学者はそのことを完全に忘れています。記憶力が弱すぎます。そして,いよいよ窮地に追いつめられてから,「そういえばあいつらは塩素に弱いんだ」と思い出すのですよ。もっと早く思い出せよ!

 そして,プールに逃げたこの二人が濡れた衣服を着替えるシーンがありますが,場所が体育館ということもあり,男はアメフト,女はチアリーダーの服に着替えます(それしかなかったらしい)。見ているだけで恥ずかしいコスプレ・シーンです。ところがですね,このコスプレ二人組,お互いの服に発情したのか,大昔の青春映画みたいな大甘の愛の告白をするんですよ。この映画の白眉と言えましょう。


 そういえば,リゾート開発をした大金持ちの娘が盲目,という設定ですが,彼女は怪物退治用の塩素を浴びて白内障(と映画では説明されている)が治っちゃうんですよ。画像でもレンズの白濁が見る見る透明になっている様子が描かれていました。白内障はプールで泳げば治るのかぁ? 観客をなめるんじゃねぇ!

 そういえば,キラーツリーに噛まれた(?)傷から採取した樹液(?)から,治療用の抗体を作ろうというシーンもあったけど,その場所は台所です。鍋と釜で抗体作るのは不可能だと思いま〜す。

 そういえば,植物学者の恩師が「植物の全エネルギーを込めた命のドングリ」ってのを渡すんだけど,これも最後まで意味不明。最後のシーンで植物学者がこのドングリを巨大怪物(塩素で死んだキラーツリーの死体の中から登場する。ETみたいな格好をしている)にかざすんだけど,全く効き目なしで,逆に樹脂で固められてしまう始末。このドングリ,いったい何なんでしょうか。

 そういえば(やたらと「そういえば」が多い文章だな),この町には医者や警察官がいないんでしょうか。これほどの犠牲者が出ているのに,森林警備隊とNFSが右往左往するばかりで,警察官が登場する場面がありません。それどころか,看護師も医者も登場しません。無医村,無看護師村,無警察官村なんでしょう・・・多分。


 おまけにこの映画,生意気にも第3部,つまり次回作があるときた。

 最後の方で巨大怪物が登場して,どうしよう,絶体絶命となったら,なぜかいきなり,第1作目で死んだはずの人間がいきなり登場し,例の「はずれやすいスキーリフト用コンセント」を駆使して怪物を倒しちゃう。そこでようやくお終いかと思ったら,怪物の樹脂に固められた研究者の体が飛行機に運び込まれてその飛行機が飛び立ち,主人公がその飛行機を追っていくシーンで終わっちゃう。
 ここでなんと,画面に「とぅ・びー・こんてぃにゅー」の文字が!!!!!! 2作目というだけで生意気なのに,3作目の予告ときたもんだ。客を馬鹿にすんじゃねぇっぺよ。

 そういえば,このちょっと前に街全体が怪物に襲われているシーンがあるんだけど,市長さんは優雅にお食事をしていて,「これは事件じゃないんだ」とか言うんだけど,彼の目が怪しげに光るんですよ。この目の光り方,キラーツリーと同じなんですよ。もしかしたら,この市長が裏で何かしていたことを示すんでしょうか。

 そういえば,NFSという組織も何かを隠しているようですが,これもこの映画を見る限り全く判りません。謎が謎を呼ぶ,というか,謎ばかり投げかけてこの映画は終わります。恐らく,《キラーツリー Part 3》を見ないと,謎解きを教えてくれないようです。「命のドングリ」も多分第3作目で活躍するんでしょう。


 さあ,君にはこの映画の続作を見る勇気があるか? 市長とNFSと「命のドングリ」の謎を知りたいか? マーク君の寝ションベンが治るかどうかを知りたいか?

(2006/03/17)

 

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