《コーチ・カーター》(2005年,アメリカ)


 アメリカのスポーツ映画ってなんて面白くて素晴らしいんだろう,と誰しも感動するであろう傑作だ。こういう映画を作らせると,アメリカは本当に凄いなぁ,と感心する。最初の部分で既にこのあとどういうストーリーになるのか,最後どうなるかはミエミエだし,意表をつく展開もない。だが,ここには本物の感動がある。こうなると予想した通りの結末なのに,何度見直しても胸が熱くなる。


 舞台となるのはアメリカ最底辺のリッチモンドの高校のバスケットボールチームである。このチーム,やる気はないし,負けても気にする様子もない。そんなチームに,この高校のOBでありかつての名選手だったカーターがコーチを引き受ける。しかも,4ヶ月で1500ドル,という薄給である。彼はチームを引き受ける条件として選手と契約を結ぶ。いい成績を取ること,授業はさぼらないこと,授業は常に一番前の席に座ること,試合で集まるときは必ずネクタイと上着を着用すること,である。

 だが,この高校もリッチモンドという地域も,半端じゃないくらいに底辺をはいつくばっているのだ。黒人の生徒が多く(ちなみにカーターも黒人である),大学に進学するのは一年に一人いるかいないかだ。大学に進学するどころか,高校を卒業する事だって難しい生徒の方が多いのだ。実際,バスケチームのポイントゲッターはヤクの売人のパシリをしている。


 カーターは生徒たちに言う。「この街の黒人の3人に1人はムショにぶち込まれる。そしてヤクの打ち過ぎで死ぬか,銃で撃たれて死ぬかだ。お前たち,それでいいのか。こんな生活から抜け出したくないのか。そのためには勉強しろ。成績がよければ大学に推薦で行けるし,奨学金ももらえる。そしてこの生活から抜け出せ!」と。そしてカーターは基礎体力不足の生徒たちをまず徹底的に走り込ませ,鼓舞し,次第にやる気を引き出してゆく。やがて生徒たちの間に,チームとしての一体感が生まれてくる。
 当初,カーターのやり方に反発してチームを抜け出したポイントゲッターも,仲間が簡単に銃で撃ち殺される現場に遭遇し,現実に直面する。このままでは次に撃ち殺されるのは自分だ。そうならないためにはここから抜け出さなければ駄目だ。そして彼はカーターの自宅を訪れ,肩を抱かれて泣き崩れてしまう。これでチーム全員が揃った。

 あの負け犬チームが,戦う意志と力を持つチームに生まれ変わり,試合に勝てるようになる。こういう勢いのついたチームは怖い。やがてチームは連勝街道を突き進み,この高校を待ちのお荷物だと思っていたリッチモンドの町全体が,「町の誇り」と応援するようになる。


 だがそんな時,カーターは選手たちが授業をさぼり,卒業に必要な単位を取るのが危ないことを知る。それまで,さぼりにさぼっていた高校生たちがいきなり勉強をするわけがない。勉強なんかしなくても,バスケの試合に勝つだけでまわりはちやほやしてくれる。そして何よりそっちの方が楽だ。つまり,生徒たちは嘘をついていたのだ。

 だが,カーターは妥協しない。生徒たちの契約違反だからだ。よい成績を取ることがチームを指導する条件だからだ。ついにカーターは体育館を閉鎖し,選手たちを図書館に集め,「契約書に明記した基準を全員がクリアできない限り,バスケットはさせないし,試合にも出さない」と宣言する。そして,予定されていた試合まで辞退する。

 そうなると,選手たちの親が黙っていない。せっかく,プロチームのスカウトが見に来てくれると言うのに,試合がなければそれもおじゃんだ。息子がプロ選手になることで今の生活から抜け出そうとしている親もいるし,「せっかく試合に勝って,みんなで気持ちよくなっているときに,なんてことをするんだ」と憤る連中もいる。悪いのは石頭のカーターだと考える奴も出てくる。かくして,カーターが経営するスポーツ店に石が投げられ窓ガラスが割られる。


 しかし,カーターは一歩も引かない。バスケだけしていればいい,という考えが許せないからだ。もちろん,選手たちは大好きなバスケをしていれば幸せだし,それで女の子にはモテモテだ。バスケさえしていれば毎日がバラ色だ。
 だがそれは今だけだ。高校を卒業したらバスケで生活ができるわけじゃない。事故にでも遭ってバスケができなくなったら,彼らはどうなるか。学歴も資格も社会常識もない,ただの背の高いでくの坊でしかないのだ。カーターは,彼らにそうなって欲しくないのだ。
 そうならないためにも,大学に行って欲しいし,大学で学び,未来を切り開く選択肢を手にして欲しいのだ。選手たちの将来を思ってのことだから,カーターは退くことも妥協することもしないのだ。

 だが,そんなカーターの思いは理解されず,会議で体育館の閉鎖解除が議決される。


 自分の考えが理解されないことを知ったカーターはコーチを辞任しようと考える。そして鍵の開いた体育館に私物を取りに行く。そこでカーターは体育館に選手たちが集まっているのを見る。なんと彼らは,机を体育館の真ん中に持ち込み,懸命に教科書と格闘しているではないか。成績の良い生徒が悪い生徒に教え,理解のある教師たちが彼らに一生懸命に教えている。
 いままではコーチにおんぶに抱っこだった。しかし,今度は選手たちがカーターを助ける番だ。彼らは自らの意思でより困難な道を選んだのだ。

 全員の成績が基準に達した時,カーターは試合再開を宣言する。今までの鬱憤を晴らすように,チームは爆発し,また連勝街道を突き進む。

 そしてついに,夢にまで見た州大会に駒を進めるが,初戦の相手は州を代表する強豪チームだった。一進一退の試合が続き,意地と誇りがぶつかり合う。そしてわずか数秒を残すところで,逆転を賭けて相手の超高校級のエースが最後のシュートを放つ。


 最後にカーターが選手たちに話す言葉が最高にすばらしい。「私は選手を指導するつもりでコーチを引き受けた。しかしその目論見は外れた。君たちは勉学に励み,立派な学生になったからだ。そればかりか,最初は子供だったのに,今では立派な大人だ。君たちに感謝する」,と。

 そしてチームの6人はそれぞれ一流大学に進学し,ある者は経済学の博士号を取り,ある者は経営学を学び,あるいは大学でも活躍してチームを率いるまでになった者もいた。

 ちなみにこの映画は実話をもとにしている。

(2006/03/07)

 

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