《アライバル ファイナル・コンタクト, Alien Hunter》 (2003年, アメリカ)


 原題はAlien Hunter=Cつまりエイリアンものです。エイリアン映画というと大体は,地球を乗っ取ろうとやってきたエイリアンとの戦いとか,エイリアンが人間を乗っ取っちゃうとか,そういう敵対的な関係のものが多いです。その中でこの映画はちょっと毛色が違っていて,「エイリアンと理解しあおうぜ」というのが基本テーゼのようです。

 それはそれで面白いのですが,ストーリーそのものは何とも中途半端で,最後まで見ても解決できない疑問を残したまま終わります。見終わった後のカタルシスが得られません。最後のテロップが流れた瞬間,多くの人が「え〜! これで終わりなの?」と唖然とするんじゃないでしょうか。

 ストーリーをまとめると,南極の氷の中から電波を発している謎の物体が発見され,それが実は遭難したエイリアンが乗っている救命艇なんだけど,そのエイリアンは地球人に致死的な伝染病を持っていて,そのため南極基地の隊員が感染し,その感染が南極以外に広がるのを防ぐためにアメリカ大統領が南極基地への原爆投下を決定し,あわや全滅と言うところでエイリアンの宇宙船が出現し・・・という,判りやすいんだから判りにくいんだか微妙,というストーリーです。


 南極の氷の中から電波を出している物体(6×3×3メートル)が見つかり,その解明のために地球外生命体探索計画に携わってきたジュリアンという大学教授に白羽の矢が立てられ,南極基地に送り込まれます。このジュリアン教授,まだ37歳のイケメンで,講義を聴講している女学生に手を出すプレーボーイという設定で,南極基地に行ったら以前つき合っていた女性(当時は学生,今は研究者)に出会ったりします。この教授がプレーボーイだと言う設定,この映画に必要ないような気がしますが,気のせいかもしれません。そして,この物体から出ている電波が何かの信号ではないかと,専門の数学の知識を駆使してコンピュータで言語パターン分析を始めるんですね。

 一方,物体の周りの氷が溶けて中身が顔を出しちゃうわけですよ。宇宙船というか宇宙救助艇というか,そういうやつですね。当然,南極基地の研究者達からは,「これは地球上のものではないわ」とか,「中に何が入っているか判らないのよ」とか,「恐ろしい細菌でもいたらどうするの」というような常識的な意見が出るんですが,なぜか碌に考えもせずに,脊髄反射の如く「開けちゃえ!」って電動鋸かなんかを取り出して開けようとする奴がいるわけですよ。


 一方,電波の分析をしているジュリアンはそれを解読するんだけど,なんとコンピュータ画面には "DO NOT OPEN" の文字が! なんで英語なんだ,というツッコミはとりあえず忘れるとしましょう。親切なエイリアンが「これを開けちゃ駄目だよ」って警告していたんですね。これほど親切で,これほど高度の文明を持っているエイリアンなら,暗号混じりの電波でなく,デカデカと各国語で「これを開けるな」と最初から書けたんじゃないでしょうか。あるいは,地球人程度の技術力では開けられないくらい頑丈にするとか・・・。

 ところがそれを開けちゃったもんだから,爆発が起きて,まず2人が死亡,近くにいた3人くらいが数分後に感染症で死亡。この時点で,このカプセルの中に入っていたのが感染性の病原菌であることが判っちゃう。

 で,その物体の中に生物みたいなの(=エイリアン)がいるんだけど,死者も出ていることだし基地の隊員達は一旦退却。ここで,エイリアンが脱出して行方不明に。ここから10分くらい,暗い画面と思わせぶりのシーンが続きます。照明ケチりすぎです。


 そして,ジュリアンがエイリアンと遭遇。ここでジュリアン教授,エイリアン(「スピーシーズ」のエイリアンにそっくりなような気が・・・)に「怖がらなくていい。僕は君の味方だ」と英語で話しかけ,なぜかエイリアンに通じちゃう。英語に堪能なエイリアンでよかったね。さすがはプレーボーイのジュリアンです。初対面のエイリアンさえ口説けるんじゃないでしょうか。そうか,このために「ジュリアンはプレーボーイ」という設定が必要だったのかな?

 こういうシーンを見ると,ブッシュ君はイラク戦争の前にフセイン元大統領に向かって,「僕は君の味方だ。怖がる必要はない」と目を見つめて話し合えば,戦争をしなくてよかったんではないか,という気になってしまいます。エイリアンにさえ通じる英語なんですから,フセインに通じないわけがありませんよね。

 その感動的シーンの最中に,基地の隊員たちがやって来るんですよ。そして,「ジュリアンがエイリアンにやられている」と勘違いし,エイリアンを撃ち殺しちゃう。エイリアンとの意志疎通に威力を発揮した英語が,基地隊員同士の意志疎通には無力だったようです。


 さてその頃,ホワイトハウスではこの南極の物体がエイリアンの救助艇であり,その中に入っているエイリアンが,人間を殺す病原体の保菌者であることを知ってしまいます。なぜ知ったかというと,1947年にニューメキシコで起こった「ロズウェル事件」を傍受した記録が残っていたかららしいです。ロズウェル事件って,UFO業界では有名な事件だっけ?

 こういうわけでホワイトハウスでは,南極の基地全体が致死性の病原体で汚染されたと判断し,地球に広がらないように手を打ちます。ロシアの原子力潜水艦に核爆弾を打ち込むように依頼するんですよ。南極に原爆を打ち込んだら,南極の氷が溶けて世界中の海岸沿いにある大都市が壊滅するんじゃないか,と思うんだけど,全く考慮なしに原爆を打ち込んじゃいます。

 で,南極の基地では,「我々は汚染されている可能性があるのだから,基地の外に出ることは許されない」という意見が多数なんだけど,そこに「核爆弾を打ち込む」という政府の決定が告げられるもんだから,すぐに仲間割れ。自分だけ助かりたいという二人が銃を奪って仲間を撃ち殺し,脱出用の飛行機に向かいます。そしてそれをジュリアンが追いかけます。


 しかし,悪役が基地の外に出たところで,なぜかそこにUFOがいて,不思議な光線を悪役に浴びせ,そしてなぜか,悪役君が消えちゃいます(死んだのか,助けられたのかは不明)。そしてそれを見たジュリアンがなぜか,残っている仲間たちを集め,助かるためにはエイリアンたちに助けてもらうしかない,というぶっ飛んだ説明をして,この不思議な光線の中に皆で入っていきます。なぜジュリアンは,光線の中に入ると助かるとわかったんでしょうか。そしてジュリアン達を収容した(らしい)UFOは宇宙に飛び立ちます。
 さぁ,ここからどうなるんでしょうか。

 ところが,なんとここで映画は終わっちゃいます。ジュリアンたちが助かったかどうかも不明なら,あの悪役が本当に死んだのかも不明。エイリアンたちがジュリアンたちを歓迎しているのか,迷惑に思っているかも不明。全ては謎のままに終わっちゃいます。説明は一切ありません。ジュリアン達はいったいどこに行くんでしょうか。

 「謎のまま終わる」というのはありだけど,「謎だらけで説明不十分で終わる」というのは反則じゃないでしょうか。


 見終わった後に糞詰まりのような気分になりますが,そういう気分が好きな人にはお勧め映画です。

(2006/02/22)

 

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