《サーベルタイガー Sabretooth》


 『ジュラシック・パーク』以後,遺伝子操作で蘇らせた古代生物によるパニック映画がいろいろ作られていますが,これもその一つです。ただし内容はB級以下です。サーベルタイガーの姿は美しいけど,不自然なシーンがたくさんあります。

 ちなみに,サーベルタイガー(Sabre-toothed cat,スミロドン)は1万年くらい前に絶滅したネコの一種で,長大な上顎の牙(長さ25センチ!)が特徴。体長2メートル,肩高1メートル,体重200キロと推定されていますので,現在のトラやライオンと同じくらいの大きさです。


 映画の宣伝文ですが,かなり嘘が混じっています。騙されてはいけません。

「サーベルタイガー」ナイフのように鋭く巨大な歯を持つこの最強肉食獣を蘇らせるD.N.A.実験が成功!しかし、その獰猛・凶暴さは人知を超えていた!研究所員を噛殺して出現した猛獣のために、人々はパニック状態に!!大惨事の責任を感じた遺伝子学者キャサリンは、猛獣ハンターに助力を請い、広大な山脈に挑んでゆく…。

 まず,「人々はパニック」というほど,多数の人間は登場しません。パニックになるのはせいぜい数人です。
 それと「大惨事の責任を感じた遺伝子学者キャサリンは」というのは大嘘。このキャサリンちゃん,自分の成功しか考えていない,とんでもなく嫌なねーちゃんです。はっきり言って性格悪いです。大惨事が起きても「それは(自分の)研究のためには仕方ない。私の研究(と成功)の邪魔をしないで!」と言い放つ馬鹿女です。この性悪馬鹿女は,自分の責任なんて毛先ほども感じておりません。つまり,上記の宣伝文には重要な事実誤認があります。


 映画のストーリーは極めてシンプル。遺伝子操作で蘇ったサーベルタイガーが搬送中の事故で逃げ出し,それを知ったキャサリンら4人(研究の資金提供をした会社社長,サーベルタイガーの女性研究者,そして雇われたハンター)が生け捕りにしようと追いかけます。しかし,キャサリンは逃げた動物の正体を隠して,ハンターに「体重70キロくらいのライオンが逃げたから捕まえて欲しい」なんて嘘を言って仲間に引き入れるんですね。サーベルタイガーを自分だけの手柄にしたいだけの嫌な女です。さっさと喰われて欲しいものです。

 それにしても,たった4人で巨大ネコ科肉食獣を捕まえるなんて,最初から無理ですよ。本当に生け捕りにするのであれば,もっと人を集め,装備を完璧にしてかからない駄目です。このあたり,最初から失敗することが見えています。

 一方,サーベルタイガーが逃げ出した山中で,サマーキャンプの講習会が開かれていて,指導員2名(グラマーねーちゃんと,彼女と昔つき合っていたらしいイケメン君)と3人の参加者(オタクっぽい青年,おしゃべり黒人青年,これまたグラマーな若いねーちゃん)が山に入っているんですよ。


 そしてまず,山荘でいちゃついているカップルが襲われます。山荘に逃げ帰ってもドアを破ってサーベルタイガーが襲ってきちゃう。その後,捜索隊はこの山荘を発見し,食いちぎられた男性を発見(だったかな?)。ハンターがそのただならぬ気配を察して,「すぐに警察に連絡しろ! 俺たちだけじゃ無理だ!」と言ったのに,キャサリンちゃんたら警察に連絡できないように,命綱の携帯電話を投げ捨てちゃう。おまけに,重傷を負って助けを求めるカップルの片割れのおねーちゃんも無視して見捨てちゃう。キャサリンちゃん,性格悪すぎ!

 そういえば,キャサリンちゃん,死人が出ても行方不明が出ても,「今更,警察に連絡したところで,死んだ人が帰ってくるわけじゃないわ」と何度か繰り返すんだよ。無茶苦茶な言い訳だぞ,それは。小泉首相の答弁級の非論理性です。
 「おい,おまえは最初に体重70キロくらいと俺に言ったのに,この足跡を見ると200キロ以上はあるぞ。おまえ,何か隠していないか?」とハンターが言っても,キャサリン君は「そんなの,あなたに関係ないわ」とか「今は関係ないじゃない。とにかく生け捕りにして!」とか,あるいは「進歩のためには多少の犠牲者はしかたないわ」とか,とにかく言いたい放題です。キャサリンちゃんが何かしゃべるたびに,凄く嫌な気分になります。
 これですごい美人だったらまだ許せるかもしれないけど,こいつは単なる普通のおねーちゃんで,ただただ性格が悪いだけです。早くサーベルタイガーが喰い殺して欲しいです。キャサリンねーちゃんを食い殺す分には,サーベルタイガーは正しいことをしたと評価しちゃいます。


 この映画はそのほかにもツッコミどころが幾つもあります。

 まず,廃坑に逃げる3人と彼らを追うサーベルタイガー,というシーン。ここでは,数メートルのところにサーベルタイガーが近づいているというのに,お調子者黒人青年がなぜかナイフを振り回して倒そうとします。このシーン,絶対におかしいです。彼を止めようとする仲間が「早くこっちに逃げろ」とか言うんだけど,そのたびにこの黒人青年,振り返っては「ここは俺に任せてくれ」とか言うんですよ。それも,何度も何度も後ろを振り返っちゃう。数メートル前にいるサーベルタイガーに背中を見せるなんて,凄い勇気です。

 あのね,君の眼前2メートルのところに,牙をむいて唸っているサーベルタイガーがいるの。目をそらして後ろを向いた瞬間,サーベルタイガーは君を喰っちゃうと思います。というか,こういう状況で目をそらすのは自殺行為です。ま,その結果としてこいつは餌食になっちゃいます。これじゃ,単なる馬鹿です。


 この廃坑にキャサリンちゃんとハンターが到着するんだけど,ここでキャサリンったらさらなるお馬鹿ぶりと傍若無人ぶりを発揮します。「私のかわいいサーベルタイガーを殺さないで」という理由でハンターのライフル銃から弾を抜き取っちゃう。これでみんなが窮地に追い込まれちゃうんだよ。

 ま,最後にはこのキャサリンちゃんはサーベルタイガーの前に立ちふさがり,「おまえは早くお逃げ」とか馬鹿なことを言って,結局喰われちゃうわけですから,自業自得ってやつです。サーベルタイガーを前にして「話せば判る」っていうんですから,いかにサーベルタイガーを愛しているかがわかります。素晴らしい動物愛です。ムツゴロウさんだって言えない言葉でしょう。ですが,この愛はサーベルタイガーには全く通じていないのが最大の弱点ですけど・・・。

 さてここで冷静になって考えると,まず一番最初にキャサリンちゃんが喰われれば,それ以降の犠牲者がかなり防げたことに気がつきます。要するに,この女が全ての災厄の根元だったんだ。


 それにしても,最後のサーベルタイガーの殺され方,あまりにあっけないです。こんなんで死んじゃうんでしょうか。体重200キロの虎ってあんなに簡単に放り投げられるもんでしょうか。史上最強のトラって,こんなに弱かったんでしょうか。

 最後のシーンは見ないようにしましょう。これさえ見なければ,普通のB級映画ですから・・・。

(2006/02/06)

 

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