レイキャビークを首都とするアイスランドとは全く無関係の,南極を舞台とする巨大ヘビが登場するパニック映画です。ちなみに,こういう巨大ヘビ映画は他にもたくさんありますが,この映画の特徴は登場するヘビが既に絶滅したはずの太古のヘビだという点にあります。ストーリーを説明すると,すごく面白い映画になりそうなんですが,おかしなところでボタンを掛け違い,その結果として単なる馬鹿映画になってしまった,という好例です。
原題にあるアルカトラズ島,知っている人は知っていると思います。アメリカのサンフランシスコ湾内にある断崖絶壁の小島で,ここに1934年から63年にかけてアルカトラズ連邦刑務所がありましたが,島周囲の潮流が極めて速く,脱出不可能の監獄して囚人たちに恐れられていました。これまで記録に残っている限りでは,デューク・東郷(ゴルゴ13)が2度ほど脱出に成功していますが,それ以外は3名のみが逃げ出せたのみとされています。また,この監獄を舞台にした脱出もの映画も幾つか作られています。
で,この映画はニュー・アルカトラズです。凶悪犯を収容するために,南極点近くに作られた最新のセキュリティを誇る監獄です。もちろん,舞台は近未来です。とはいっても,このニュー・アルカトラズはできたばかりで,6人の囚人が収容されているだけです。まだ工事中なんですが,その作業の最中に中空の岩盤にぶつかるんですね。
普通なら,中が空洞の岩盤だと高圧ガスが含まれていたら突如吹き出すか,下手すると爆発ものですから,作業を止めるように判断するんだけど,何しろ,ニュー・アルカトラズの所長さんときたら,作業をスケジュール通りに進めることと人に命令することしか頭にないお馬鹿さん(こういう映画には必須の登場人物ですね)。それで,爆破しろ,って命ずるんだけど,空洞の中には98%の純度の窒素が詰まっていて,そこで古代のヘビが眠っていたんだよ。そいつが爆発のショックで2000万年ぶり(だったかな?)にお目覚めってわけだ。
2000万年ぶりに目が醒めりゃ,腹だって減っているわけで,手当たり次第(ヘビに手はないけど)にパクパク,2000万年ぶりのお食事会を始めるわけです。
普通ならここで,監獄を放棄して逃げ出すか,大部隊を派遣してヘビ退治をするはずなんだけど,なぜか,このニュー・アルカトラズの存在はまだ秘密らしく,政府(だろうと思うが,最後まで不明のまま)は「古代のヘビ研究家夫妻」に白羽の矢を立て,数人の特殊部隊と一緒に南極に送り込んじゃうんですね。そして彼らは南極に降り立つんだけど,飛行機は12時間後に出発することが決まっています(それより遅いと,燃料まで凍っちゃうから)。その次に飛行機がくるのは1ヶ月後なんで,何が何でも12時間後までに戻らないとまずいわけです。
まずこの時点で,オイオイ,という部分が幾つか。
この研究家なんですが,「2000万年前の南極は温暖な地域だったから,南極の氷の中にその頃の爬虫類が保存されている可能性がある」と主張しているだけの研究者です。古代のヘビの生態研究者ではないようです。だけどこの時点で既に,相手は全長25メートルほどの生きているヘビだということが判っているのですから,普通のヘビの研究者でよかったんじゃないでしょうか。だって,この研究者は「古代の南極に生きていたヘビ退治」が専門ではないわけです。それなら,普通のヘビの研究者,ヘビ退治のスペシャリストの方が役に立つはずですよね。
それと,この夫婦に同行する特殊部隊の人数が少なすぎるし,装備も貧弱すぎます。5,6人しかいないし,碌な装備も持ってないです。飛行機の中にはまだかなりスペースがあるんだから,あと10人くらい特殊部隊員を乗せるとか,でかい武器を積むとか工夫しろよ。相手は爬虫類なんだから,液体窒素などの冷たい物質をうまく使って動けなくする,なんて方法もあるんじゃないでしょうか。
と,ここまで書いて気がついたんだけど,相手がいくらでかくても爬虫類は爬虫類なんだから,ニュー・アルカトラズ刑務所全体の温度を5℃くらいに下げたら,いくら巨大ヘビといっても動けなくなるんじゃない? それで,厚着して半日くらい辛抱し,寝ているヘビを見つけて殺せば一件落着なんじゃないか。なんで,こんな簡単なことに誰も気がつかないんだろう? 誰か,気が付けよ。
しかし映画の中では,誰もこういうことに気がつかないわけで,ヘビが快適に動ける温度を維持しているもんだから,ヘビはここ思えばまたあちら,と神出鬼没に晩餐会を続けるわけですね。投入された特殊部隊も,「おまえら,どこが特殊なの?」といいたくなるような体たらくで,闇雲に銃を撃ってはヘビに感知され,ヘビの食料になっちゃう。この人たち,ヘビのご飯になるために登場したんでしょうか。
それで,看守もヘビ退治に加えられるけど,すぐに全滅。ヘビは振動を感知するから振動を出す乗り物に乗っちゃ駄目だ,ってせっかく教えられたのに,それを無視して乗り物に乗ってはヘビの胃袋にまっしぐら。この人たち,ヘビの食料になるために登場したんでしょうか。
そして,最期に残るのは,所長と科学者夫婦だけ(何しろ主人公様ですから,死ぬわけがない)。そこで,科学者@夫が所長に提案するわけですね。「このままでは全滅だ。囚人たちに協力してもらって脱出しよう」。
ここまできて,なぜニュー・アルカトラズに囚人が6人しか収容されていないのか,その6人のプロフィールが最初の方で説明されているのかが判った気になりました。彼らを活躍させるんだろうと思いました。なるほど,囚人が多すぎると統制が取れなくなって協力させるのが難しくなるもんね。そうか,こいつらを活躍させるための伏線だな,と思っちゃうわけですよ。
何しろ囚人たちは,IRAの女テロリストとか,天才ハッカーとか,武器密輸を企てたチェチェンの軍人とか,選りすぐりのその道のプロみたいなのが揃っているわけですよ。こういうプロたちが力を合わせれば,大蛇の一匹や二匹倒しちゃって,絶対に内側から開けられない扉も開けちゃって,無事に飛行機にたどり着けそうじゃないですか。映画としてはこっちの方が面白いでしょう?
ところが,これが大間違い。私の深読みでした。
この囚人たち,せっかく活躍の場が与えられたというのにパクパクとヘビの餌になっちゃう。性格いい奴も悪い奴も次々と餌になっちゃう。せっかく外に出られたのに,能力を発揮するまもなく食われちゃう。何なんだ,この映画は!
で,いろいろあって,科学者夫婦がアルカトラズの外に出られます。外は猛吹雪で,多分マイナス80℃くらいかな。この時点で私は,もうヘビが追ってこられないと思いました。だって,いかに全長25メートルとはいえ爬虫類は爬虫類。ヘビは熱帯から温帯にかけての生物であって,マイナス80℃では生きていけません(というか,人間だって生存が難しい)。
ところがこのヘビ君,極寒にもめげずに追っかけてくるんだ・・・南極の吹雪も極低温もものともせず・・・。君は安珍を追いかける清姫か? 皇帝ペンギンか? それとも2000万年寝ているうちに恒温動物に進化しちゃった?
まぁ,ラストシーンでは科学者夫婦も無事に帰れそうだし,囚人たちも全滅しちゃったし,その意味ではハッピーエンドかもしれないけど,これでいいのか,という感じがつきまといます。多分,この映画の原作者(あるいは監督)が,登場人物に対して愛着を持っていないからです。捨て駒の如く,登場人物が次々にパクパクと食料になっちゃうだけなんだもの。
こんなところが全く気にならない人,人がヘビに食われるシーンが好きな人だったら,十分に楽しめる映画だと思いますよ。
(2006/02/01)