『ジュラシックジョーズ』(1994年,アメリカ)


 結論から先に書きます。史上最悪のクソ映画の一つです。単なるアホ映画,手抜き映画です。こんなのを見るのは金の無駄,時間の無駄です。内容を思い出すだけで怒りがこみ上げてくるという希有の映画です。

 私はネット上のレンタルDVDショップでこれを借りました。パッケージにはものすごいサメの絵と,まさにサメに飲み込まれんとしている美女が描かれています。絵のサメが格好いいです。こういうサメが登場するんならいいかなと思いました。そして,『ジョーズ』と『ジュラシックパーク』の怖さと面白さの合体,なんてことも書かれていて,いよいよそそられます。また,そのレンタルショップには次のような魅力的な宣伝文で紹介されていました。

平和な浜辺が一瞬にして恐怖の殺戮現場に!巨大鮫との攻防戦を描いたジョーズパニック最新作。海水浴を楽しむ人々で賑わうリゾート地にすさまじい飢えに耐えかねた太古のプレデターが現れた。人々の命とビーチの平和を守るために男たちが戦いを挑む。

 この文章,みんな嘘,デタラメです。よくもまぁ,こんなに嘘が書けたものです。はっきり言って詐欺です。パッケージの絵も嘘なら文章も嘘。要するに,文を書いたやつも絵を描いたやつも,映画なんて見ていません。


 まず,サメの格好がまるで違います。出てくるのは,頭が角張ったナマズ,あるいはタラです。決してサメじゃありません。あれを見たら,誰でも笑っちゃいます。これをサメと言ったらサメが怒ります。

 そして,宣伝文中の「恐怖の殺戮現場」も嘘。水中でナマズ君(あれをサメと呼ぶのは私の美学が許さない)に襲われてもがいているかと思ったら,あとは海水が血で赤くなるシーンばかり。襲われている様子もよく判らなければ(何しろ暗い水中のシーンばかりで何がなんだかよく判らない),お約束の食いちぎられる胴体も出てこなければ,ナマズ君に飲み込まれる様子も出てきません。ナマズ君もただ背鰭を水上に出して泳ぐだけです。水上に出てくるシーンはワン・シーンのみです。あとひたすら,暗い,暗い水の中。見る側の想像力をかき立てる,ってやつだな・・・ってなわけないだろう!
 しかも,その動きのチャチなこと。プラモデルを泳がせて撮りました,というくらい安っぽいです(・・・今,思い出しても腹が立つ!)。要するに,生き物らしい動きがありません。張りぼてが動いているとしか見えません。


 「人々の命とビーチの平和を守るために男たちが戦いを挑む」というのも嘘っぱちです。確かに男たちはナマズ君狩りを始めますが,ほとんどピクニック気分です。人を殺すほどの大魚だって判っているのに,盥(たらい)のような船に乗って釣り糸を垂れるカップルまでいます。こいつら,馬鹿です。おまえら,さっさと喰われちまえ!


 それ以外にも,訳の判らないシーンが多すぎます。

 例えば冒頭,「教授」と呼ばれている男性と助手の女性が登場し,彼女が海に潜って何かを海底に置くんだけど,あれって何なの? 最期まで説明がなかったと思う。また,教授って何が専門なんだろうか。古代サメを登場させるんだったら,「古生物学の専門家」がいなければいけません。そしてその教授が「これはもしかしたらジュラ紀に生息していたサメではないか?」と謎解きをするのが定石ってものです。でもこの映画では,このナマズ君がいったい何者なのかは不明のまま終わります。どうせ殺されるにしても,せめて正体くらい明らかにするのが礼儀というものでしょう。


 また,サメが出てきてみんながパニックになるシーンがあるけど,これは騒ぎ過ぎです。確かにサメはでかいけど,相手は魚だよ。陸に上がってくるわけじゃないんだから,「見て,あの魚。映画みたい!」くらいに陸地から見物すりゃいいんです。それなら,写真やビデオを撮ってマスコミに売りつけたら一儲けできます。それなのにこのホテルの客ときたら,ゴジラが襲来したみたいに騒いでパニックになっちゃう。あんな張りぼてナマズを見てパニックになるって馬鹿です。

 おまけに,ホテル支配人は「あれは単なる魚なんだから皆で捕まえよう」とホテルの客に提案するんだけど,その賞金はたったの1,000ドル。1,000ドルって10万円ちょっと? それで人を喰っちゃう怪物を退治しようとする? 私なら嫌だね。1万ドルだってちょっと考えちゃう。でも,ホテルの客たちは余程金に困っているとみえ,1,000ドル目当てに盛り上がっちゃう。銃器店でライフルやらマシンガンやらを購入するわ(武器の値段と賞金,どちらが高いのでしょうか?),ホテルのロビーに飾ってある模造品の槍を持っていく奴はいるわ,弓矢を持っていく奴はいるわ・・・と,はっきりいって物見遊山気分です。おまけに,こいつらは小さなボートとかカヌーとかに乗り込むんだぜ。人が襲われて死んだと言う情報を知っているはずなのに,弓矢とカヌーだって。こいつら,馬鹿です。さっさと喰われちまえ!

 そういえば,客に一人日本人がいて,鈴木さんと言うんだけど,この鈴木氏,鉢巻きを巻いてふんどし姿になり,日本刀を振り回し(どこから持ってきたんだその刀?),「アイアム・ア・ジャパニーズ・サムライ」とか言って,カヌーに乗り込むの。はっきり言って,日本人に喧嘩を売っているとしか思えません。久しぶりに「国辱もの」という言葉が脳裏をよぎりました。


 あとね,音楽も安っぽくていけません。なんだかトーキー映画の音楽みたいです。


 で,最期に怪物ナマズ君,やっつけられるんだけど,その殺され方もすごく変。ちょっと説明すると,怪物退治に海に潜った教授がナマズ君に体当たりされちゃう(画面が暗くてよく判らないけど)。それで仲間たちが何とか教授を引き上げるんだけど,内臓破裂で死んじゃうの(彼以外の人は喰われて死ぬのに,なぜ彼だけが食われずに体当たりされちゃうんだろう?)。その時彼は,死ぬ前に「俺が死んでも海に投げ込まないでくれ。あの魚の餌になるのだけはごめんだ」って言い残して死んじゃう。

 ところが,ナマズ君を殺すことしか頭にない仲間たちは,「プラスチック爆弾はあるけど,どうやってあいつをおびき寄せるんだ? 餌がないぞ。餌がなければあいつを倒せないぞ」って話し合うんだよ。餌はどこかにないかなぁ,ってボートの中を見ると,そこに具合よく死体があるわけだ。こりゃあいい,ってんで,教授の死体を餌にしちゃう。オイオイ,魚の切り身を餌にするみたいに,人様の死体を餌にしちゃっていいの? 第一,ついさっき本人が,「魚の餌にだけはしないで」って遺言を残していたじゃないか。こいつら,忘れっぽいんだか,死者を馬鹿にしているんだか・・・。私が教授なら,絶対に化けて出てやるぞ。

 かくして,爆弾をくっつけ,信管を取り付け,起爆用のコードをつけた死体をボートで引っ張るわけです。ある意味,この映画で一番怖い,シュールなシーンですね。


 ここで,ナマズ君が死体に食いつき,爆破すれば一件落着なんだけど,死体に付けた線がはずれちゃうんですよ。ほらね,教授が厭がっているんだってば。そこで,海に潜り,線をつないで爆破するという計画をたてて,最終的にはナマズ君を爆破します。「ざまーみろ」とか言って,みんなが抱き合ったり,ハイタッチしたりして喜び合うシーンで終わるんだけど,これって絶対に変です。なぜかと言うと,次のような厳しい条件が同時に成立している必要があるからです。

  1. 死体をナマズ君が口にくわえているが,まだ飲み込んでいないこと。
  2. ナマズ君の口の端から起爆用の電線が垂れ下がっていること。
  3. その電線が十分に長いこと。
  4. ナマズ君の泳ぎのスピードに打ち勝ってその電線を水中を泳ぐ人間が掴めること。
  5. その電線の端を確保しつつ,船からのびている電線も掴んでいること。
  6. それを水中できちんとつなぐ間,ナマズ君が動きを止めていること。
  7. 線をつないですぐに爆破から安全な距離まで泳いで離れられること。

 どう考えても無茶です。条件がきつすぎます。

 要するに,このラストシーンを見て,「よかった,よかった」と思う人はほとんどいないはずです。むしろ,「これであのナマズみたいなのが死んじゃったの? なぜ死んじゃうの?」と狐に摘まれた気分になること,私が保証します。


 私も,いろいろひどい映画を見てきたけど,これよりひどい映画ってあるんだろうか。この映画を基準にしたら,どんな映画だって傑作に見えます。金をドブに捨てたくてしょうがない人にはお勧めの映画です。

(2006/01/30)

 

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