ある外科の先生からの症例相談です。症例の経過です。
74歳女性、カ昨年11月末に左下腿外側に直径3cm程度の表皮剥離が生じたのが始まりのようです。低温火傷ではないそうです。糖尿病、肝硬変、慢性腎不全などの内科的疾患はありません。当初外来ではデュオアクティブや穴あきポリ袋入り紙おむつで対処されたものの、次第に拡大したようです。2009年2月に一度皮膚科を受診し、悪性の鑑別に生検を勧められ、その後、局所処置としてゲーベンクリームとガーゼを3週間程度使用されています。生検では肉芽と壊死組織のみでした。4月から私が後任となり、湿潤療法に徹しています。還流障害や過湿潤が悪影響を及ぼしているように思えます。
5月2日 | 5月2日 |
穴あきポリ袋入り紙おむつで被覆して約1カ月経過。
周囲皮膚の発赤がやや目立つ。潰瘍辺縁の皮膚は軽く隆起し、肉芽の色調がやや不良。島状に赤い肉芽があるものの、潰瘍底に白色壊死組織がある。
5月14日 | 5月14日 |
被覆材をプラスモイストに変更後 3日目、以後プラスモイスト使用。
光の加減によっては周囲皮膚の発赤が消退したようにも見える。
しかし、辺縁の肉芽の色調は不良で健常な肉芽とは言い難い。
5月19日 |
潰瘍部分が縮小傾向にあるようにみえる。一方で周囲の皮膚は隆起し、肉芽過剰な状態に見える。潰瘍底の白色壊死組織は洗浄しながら軽くこすり落とすようにしてデブリした。
5月30日 |
白色の組織が潰瘍辺縁をはみ出すように存在し、病変周囲の皮膚が隆起して浮腫状になっている。潰瘍底の部分の縮小が停止したようだが、全体の深さはやや改善したようにも思える。辺縁の色調がやや不良で上皮化が期待できそうにない印象。
6月4日 | 6月4日 |
潰瘍底の縮小が停止したまま。周辺の皮膚が隆起しており、周囲からの上皮化が妨げられている印象。
白色の硬い壊死組織が深部まで不良肉芽として残っていると判断して、局所麻酔下にデブリした。
5-6mm程度の厚みで、血流のないもろい壊死組織を混じた肉芽があった。出血する層まででデブリを終了した。
6月5日 |
6月12日 | 6月12日 |
デブリ1週間後。潰瘍底の肉芽が急速に増加している。しかし、辺縁の皮膚の隆起が残り、上皮化が進まない。下腿の浮腫と発赤もある。辺縁に少量のステロイド軟膏(リンデロンV)を塗布してみた。
6月15日 | 6月15日 |
潰瘍底に深い部分が残る。 辺縁は隆起し、色調が悪く、やはり上皮化が期待できそうにない印象。周囲皮膚の発赤と浮腫が目立つ。ところどころにプラスモイスト固定用のビニールテープで、かぶれが生じている
6月19日 | 6月19日 |
下腿の熱感と痛みが強かったという訴えあり、周囲の発赤と浮腫が目立つ。周囲からの上皮化がありそうに見えるが潰瘍底が深くなっている。さらに足首にテープかぶれから小さな糜爛を新たに形成し、白苔が付着していた。
蜂窩織炎の合併を考え、抗生剤はブ菌を考慮してミノマイシンを選択。健側下肢にも浮腫があるため、利尿剤追加。患肢挙上をさらに意識してもらうよう指示。新病変が発生したことから短期間の入院を勧めた。
6月23日 | 6月23日 |
浮腫と発赤が若干軽減。黄白色の壊死組織が周囲へはみ出すように存在する。潰瘍底はやや浅くなったか。
ミノマイシンが開始されてから熱感と痛みが軽減したとのこと。
翌日から入院し、患肢挙上とリンパ浮腫を想定したマッサージによる理学療法を加えることとした。
6月26日 | 6月26日 |
入院3日目、患肢挙上の効果か浮腫は改善し、周囲の発赤も軽減している。足首の新しい糜爛にはプラスモイストをのせていたが、ほぼ上皮化した。
潰瘍周辺の皮膚隆起が平坦となり、上皮化が期待できそうな印象。
プラスモイストの網目が付いている。下腿の浮腫がひけて、潰瘍が浅くなったことで、病変は平坦になりつつある。辺縁の隆起がとれて平坦に見えるようになったのは、4月以降初めてのこと。色調も悪くなさそう。
この症例のこれまでの経過,病態,必要な検査,今後の治療方針などについて,皆様のご意見をお聞かせ下さい。⇒BBS
(2008/06/29)