47歳女性。
 10月6日,自宅の飼い犬(柴犬)に左手を噛まれ,直ちに当院ERを受診した。当直医は創洗浄を行い,ゲンタシン軟膏を塗布し,オーグメンチンを処方した。しかし,次第に痛みが強くなり,腫れがひどくなって左手が使えなくなったため,10月8日に当科を受診した。
 当科初診時,左母指球と母指に数カ所の咬創を認め,腫脹と発赤,圧痛を認めた。直ちに局所麻酔下に創の深さを調べ,脂肪組織に達する咬創(全て膿が溜まっていた)ナイロン糸を挿入してドレナージを行い,プラスモイストで被覆した。抗生剤は投与していない。
 翌日受診していただいたが,痛みがなくなり,発赤も消退していたため,ドレナージは終了とし,プラスモイスト貼付のみとした。創は3日で全て閉鎖した。

初診時の状態   ドレナージ  


 同様の経過をたどった動物咬傷の症例(救急外来では創部洗浄,消毒,抗生剤点滴/内服をしたが,翌日感染を起こして当科を受診)を以前にも紹介したが,これらの症例から次のような結論が出せる。

  1. (動物咬傷では)抗生剤の予防的投与は感染を予防できない(予防的投与をしているのに感染が起きているから)
  2. 脂肪組織に達する動物咬傷ではドレナージが必須である
  3. 動物咬傷のドレナージとしてはナイロン糸ドレナージが簡便かつ有効である
  4. 創感染はドレナージができていれば,抗生剤を投与しなくても消退する
  5. 創感染の治療に消炎剤の投与も,患部の湿布も不要である