肥厚性瘢痕・ケロイドに対するケナコルト局注治療
以下に説明する方法は,私がまだ大学の医局に所属していた大昔に,先輩医師から教わった方法であり,これが本当に正しい方法なのか,普遍的な治療法かどうかは不明だ。ただ,治療効果は抜群なので,多分間違っている方法ではないと思う。
必要な物は以下の2つ。
- ケナコルトA® 筋注用関節腔内用水懸注 40mg/1mL・・・1回に1/4〜1/2筒使用
- マイジェクター®:インスリン注射用 29G注射針付き 0.5mlシリンジ・・・圧が必要なので注射針付きの方が便利
|
|
ケナコルト |
注射針付きシリンジ |
手技は以下のとおり。
- ケナコルトをよく振って撹拌し,1/4〜1/2筒をシリンジに吸い込む。
- ケロイド内/肥厚性瘢痕組織内に直接注射する。瘢痕やケロイドが少し膨らむ程度で良い。
- 注射の間隔は1週間以上あける。
その他の注意点など。
- 注射は結構痛いようだが,通常は2度目以降になると初回よりは痛くないという患者さんが多い。これは初回の注射でケロイド/肥厚性瘢痕が軟らかくなるから。
- ケナコルトにキシロカインを少量混ぜる,という方法もあるが,どのくらい加えたら十分な鎮痛効果が得られるのかは不明。
- ケロイド/肥厚性瘢痕の痒みや痛みは,初回注射から数日で軽快することが多い。
- 主な副作用は毛細血管拡張。瘢痕/ケロイド表面に毛細血管が見えてきたら,その部位への注射はしばらく休んだ方がいい。
- 毛細血管拡張はしばらく注射を休んでいれば落ち着くが,どうしても目立つようであればレーザーで治療できるので,レーザー治療を行っている施設に紹介する。
- 治療が奏功し瘢痕/ケロイドが平坦になってくると,瘢痕/ケロイドは最初よりサイズは広がることがある。これは柔らかくなったため,周辺の組織の張力で開大することが原因。
もちろん,気にする必要はないが,そのメカニズムは患者さんに十分説明しておかないと誤解を招くことがある。
ケナコルト局注につき,形成外科の先生から有用な情報をいただきました。
ケロイド治療に日々苦戦している形成外科医です。
ケナコルト注射を行っている先生方に是非お勧めしたいのが、局所麻酔の併用です。硬いケロイド内への薬剤の注入は想像を超える痛みを伴うようです。そこで、ケロイドの下の皮下組織への浸潤麻酔を行います。私は、アイスパックなどで冷たさが痛みに変わる直前ぐらいまで冷やし、直後にケロイド直下の皮下組織を狙って局所麻酔を打ちます。脂肪の層にゆっくりゆっくり注入すれば、そこまでの痛みは感じません。その後、一旦患者さんには待合室に出て頂き、十分に麻酔が浸潤するまで10分ほど待ちます。この麻酔を行っておけば、ケナコルト注射の時には痛みは全く感じません。痛みがないので、針を何度も刺すことができ、少量ずつ何層にもまんべんなくケナコルトををケロイド内に広げることが出来ます。こうすることでケナコルトの粉末が一か所に残って出来る「粉だまり」のリスクも軽減することが出来ると考えています。
この方法は時間も手間もかかるので、特に大学病院や大きな病院では敬遠されるようです。でも痛みの為に、ケロイドの治療には非常に有効なケナコルト注射を断念する患者さん方が沢山いらっしゃいます。他院で経験して非常に痛かったので、もう二度と注射はしたくないとおっしゃる患者さんにも、沢山お会いしますが「一度だけ注射させてください」とこの方法を試みると、以後、継続される方がほとんどです。ケロイド治療を継続されている患者さんは常に「忍耐」と「根気」を持って治療に当たられています。これに向き合う医師にも、簡単に治療を投げ出さない粘り強さが求められると感じています。
また,局所麻酔にエピネフリン入りを使用すると、血管が収縮することで長く薬剤が局所にとどまるので有効ですし、ケナコルトが浸潤することで起きる周囲組織の萎縮・陥凹を予防することにもなると思います。
(2015/05/01)
左側にフレームが表示されない場合は,ここをクリックしてください