41歳女。埼玉県大里郡寄居町。
 2012年9月10日,右環指をドアに挟み指尖部切断。直ちに〇〇病院整形外科を受診し,composite graft (=切断端を元の位置に戻して縫合するだけの治療。残念ながら,多くの例は壊死する)を受けた。数日で断端遠位部が壊死したため,追加手術(骨を削って指を短くする手術)が必要と言われた。その説明に不安になり,ネットで検索して10月10日に当科を受診。プラスモイストで治療。
 再生した指尖部の知覚は正常で,知覚鈍麻なし。

2012年
10月10日
10月10日 10月10日

【環指背側】

10月16日 10月22日 11月6日 11月20日 12月6日

【環指掌側】

10月16日 10月22日 11月6日 11月20日 12月6日

【1251日後】

2016年
3月14日
   


 指尖部切断の治療は大きく次の4つに分かれる。

  1. 再接着術・・・・血管吻合,神経吻合をして指をつなぐ手術
  2. composite graft・・・・血管吻合せずに乗せて縫うだけの手術
  3. 断端形成術・・・・骨を削って指を短くして,傷を縫合する手術
  4. 開放療法
    1. 消毒して軟膏ガーゼで覆う
    2. アルミホイル法
    3. 被覆材やプラスモイストによる湿潤療法・・・・当サイトで行なっているのはこれ
 

 上述の症例で行われたのが2番めの composite graft である。再接着術のような高度な手術手技はいらないし(何しろ乗っけて縫うだけ),とりあえず局所麻酔さえできれば誰でも行えるので,広く行われているようだ。また,大人では生着率が低いが(参考文献),乳児では生着率が高いため(参考サイト)好んで行なっている先生も多い。

 だが,composite graft には致命的欠点があることに,多くの医者は気がついていない。たとえ生着したとしても知覚鈍麻が長期間(・・・おそらく一生)が残ることだ。そのため,せっかく生着したのに「感覚がないので危なくて仕事ができない。これならないほうがマシだ」と患者さんに文句を言われたことがある。恐らく,多くの患者さんは,同様の不便を感じていながらも「でもせっかく先生が頑張って付けてくれたんだから,文句を言ってはバチが当たる」と,文句を言っていないだけではないかと思う。

 その点,このサイトで推奨している湿潤治療では完全切断で断端を元に戻さなくても,ほとんど元の形に戻っているしその1その2,何より知覚は正常で知覚鈍麻の症例は過去15年間で1例も発生していない。

 私は指は「動きと知覚」の両方が正常であって初めて指として機能すると考えているので,知覚鈍麻をきたすcomposite graftは治療としては認めない。
 もちろん,「感じが悪くても動かなくても,指が付いているだけで幸せ」という患者さんもいると思うが,そういう指では仕事はできないしむしろ邪魔,という患者さんもまた少なくないと思う。

【アドレス:http://www.wound-treatment.jp/next/case/hikari/case/1793/index.htm】

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