36歳女性。
 11月28日,湯たんぽで右下腿外側遠位に低温熱傷。近くの外科クリニックに通院し,ユーパスタで治療を受けているが,12月18日の診察で,「もう私には治せないので形成外科で手術してもらって下さい」と言われた。その説明に不安になり,ネットで調べて当科を受診。
 受診時,痛みが非常に強く,普通に歩けない状態だった。
 当科では直ちに黒色壊死を切除し,アルギン酸塩被覆材で被覆。翌日からは「穴あきポリ袋+紙おむつ」での被覆に切り替えた(治療に長期間を要することが予想される場合はこの方がいい)。また,翌日の受診時には,痛みは全くなくなり,普通に歩けるようになった。

2012年12月19日 黒色壊死を切除。
デブリは出血させてはいけない
12月20日 12月28日

2013年1月15日 2月5日 2月19日 3月6日

3月21日 4月18日 6月11日 7月9日

 この症例の経過写真は,実に多くのことを教えてくれる。

  1. 上皮化は一定のテンポで起こらない。停滞と進行を繰り返して治癒に向かう。
  2. 上皮化は「運動を妨げない」方向に起こる。下腿の場合,長軸方向ではなく横軸方向に上皮化する。
  3. 下腿近位と遠位では,近位の方が早く上皮化する。これは恐らく,それぞれの部位の皮膚の緊張の度合いが関与しているのかもしれない。
  4. この症例では,上1/3のあたりの上皮化が先行して「くびれ」のような形になっていて,全周で上皮化が始まるわけではない。
 
 患者が医者にとって最良の教師であるように,傷は傷の治療をする医者の最良の教師である。

 「傷は医者が治すものだ。治らなければ皮膚移植でも手術でもなんでもしていい」と考えて治療している医者には,傷は何も語ってこないだろう。
 しかし,「医者ができることはせいぜい,傷が治るのを妨げないことくらいで,環境を整えてやれば傷は自然に治っていくものだ」と考えて治療をする医者には,傷は医者にたくさんのことを語りかけてくる。
 そして,「傷の声」が聞こえ始めると治療はとても楽しくなる。

 そして,「傷の声」は「患者の声」だ。多分,前者のタイプの医者には「患者の声」は聞こえていないと思う。聞く耳を持たない医者に,患者は語りかけようとは思わないものだ。


 この患者さんからメールをいただきました。

 全例掲載に遂に今朝追加され、その写真の凄さに驚きつつも、自分のことながらあの頃の痛みも忘れかけておりました。あの症例を見て、低温火傷の怖さが、いや、酔っ払って湯たんぽに足を乗せて寝てはいけないと少なからず警鐘になればと思います。

 もともと、湯たんぽを愛用しなおかつ足を乗せていたのは,冷え性な上に、出産前後から下肢のむくみに悩まされていたせいでした。軽い静脈瘤も始まりつつあり、足が治った今年も寒い季節がやってきて,またいろいろと試そうかという時に、もうこれしかないというものに出会いました。秋口から使用してますが、本当に寝心地が良く朝晩の冷え込みが厳しくなってきたこの頃では、湯たんぽも要らずさらにむくみがスッキリとするようになりました。
 レッグエンジェルという、所謂あしまくらなのですが、今までのとは大違いでそれぞれの足に履くまくらです。マイクロビーズで程よい着圧、ほんのりとした暖かさが寝返りを打とうがどんな姿勢で寝ようが朝まで本当に心地よいです!
 回し者みたいになってますが、読売新聞で掲載されてすぐに調べて買いました。オンラインでも買えますが、ロフトの寝具売り場で取り扱いもあります。

 冷えとむくみに悩まれる方がどうか、湯たんぽで酷い目に遭われませんように
 むくみが酷いと、色素沈着や足の怪我の傷跡も消えにくくなるそうなのですが,これで、少しでも傷跡がまともな色に早く戻らないかなぁと思っております。

 長々となりましたが、また外来に湯たんぽの患者さんが増える前にどうか、お見知り置きください。

【アドレス:http://www.wound-treatment.jp/next/case/hikari/case/156/index.htm】

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