65歳男性。
 15年前と14年前に左右の大腿骨頭置換術を受けている。
 2011年9月頃,右の手術部位(?)膿が出てきたため,近所の皮膚科クリニックに通院し,この時は問題なく傷は治癒した。
 2012年10月に再び同じ症状が再発し,10月19日から同クリニックに通院している。病的肉芽が治まらないため,肉芽を硝酸銀で焼灼して除去しようと考え,創内に硝酸銀棒を入れて肉芽を焼いたが,途中で硝酸銀が折れて見つからなくなった。1時間ほどかけて創内を探しても見つからなかったため,直ちに当科紹介となった。

 直ちに硝酸銀についてネットで調べ,水への溶解性が極めて良い物質であることを確認し(30℃では,飽和溶液100g中に73gの硝酸銀が溶けている),血液や組織液に直ちに融解して見つからなくなったものと判断し,内部を十分に洗浄したが,創内は黒色に変性した組織が充満していた。この黒色の組織は固着していて無理に取ろうとすると出血する恐れがあり,無理に切除せず,自然に融解するのを待つこととして,吸収力の良いズイコウパッドで被覆した。

2012年11月21日 4センチの深さだった 11月22日
創内は黒色の壊死組織で充満

11月26日
壊死組織は勝手に出てくる
それを除去すると中はきれいになった 12月7日
プラスモイストに切り替える

12月14日 12月21日 2013年1月9日


 紹介された皮膚科の先生は経験したことのない事態にパニック状態だったと想像する。何しろ,硝酸銀が創の中に消え,探しても探しても見つからないからだ。しかも,創内に硝酸銀が残っていた場合,どんな有害な作用が起こるかもわからない。ネットで調べたとしても,こういう症例についての対処法は見つからないと思う。
 私も,いい経験をさせていただいたと,紹介していただいたことに感謝している。

【アドレス:http://www.wound-treatment.jp/next/case/hikari/case/128/index.htm】

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