71歳女。目黒区在住。
 2013年10月17日,台所で調理中に衣服に引火して背部全体,両側上腕,頸部などに熱傷受傷。直ちに〇〇病院形成外科に入院となった。治療はワセリンとフィブラストスプレー®,モイスキンパッドだったが,毎日長い時間をかけて石鹸で洗われる激痛とフィブラストスプレー®噴霧直後の激痛で,毎日の処置が恐怖だった。また,早期に手術しないと感染を起こして死亡する,と説明されていた。
 娘さんがネットで熱傷治療について検索し,11月6日,娘さんが当科を受診。時間はかかるが手術しなくても治るし,痛い治療は絶対にしないと説明。
 11月12日,退院を強く希望。退院直後に当科受診。退院時,主治医は「この状態で退院すると傷が腐って死ぬ。臭いは傷が腐っている臭いだ。すぐに手術しないと癌になって死ぬ」と脅されたが,頑張って退院してこられたそうだ。
 創部が広く,完治までに長い時間がかかることが予想されたため,「穴あきポリ袋+紙おむつ」(勝手に鳥谷部先生のサイトにリンク)で創部を被覆。
 左腋窩は広い3度熱傷であり,患肢挙上をよく行うように指導したため,完治までに1年を要したが,両側腋窩には瘢痕拘縮はなく,両方の腕は十分に挙上できる。

【右背部〜上腕】

2013年11月20日 11月27日 12月9日 2014年1月8日

1月20日 2月7日 3月11日

2015年5月25日 挙上できる

【左背部〜腋窩〜上腕】

2013年11月12日 11月15日 12月3日 2014年1月8日

2月7日 3月3日 4月2日 5月12日

6月6日 7月2日 8月7日 9月4日

10月1日 11月4日 12月1日 2015年1月22日

2015年5月25日 挙上できる


 患者さんや患者さんのご家族は「傷跡が残るか残らないか」と気にされるが,手足の熱傷では傷跡よりもっと大切なことがあると思う。それは「普通に動く手足」かどうかだ。極論すると,次のどちらがいいか,という問題だ。

  1. 傷跡は全くないが動かない手足
  2. 傷跡はあるが普通に動く手足
 私は 1. ではなく 2. を目指すのが本当の医療だと思う。なぜなら,患者さんはこれから死ぬまでの数十年間,その手足で生きていかなければいけないからだ。その上でもっとも重要なのは,傷跡の有無ではなく,正常に動く手足があるかどうかだ。要するに,手足では傷跡(瘢痕)は二の次であり,最優先すべきは動きと機能なのだ。

 それにしても,「このままでは腐って死ぬ。手術しないと癌になる」と嘘百百を並べ立ててまで植皮手術をしようとした〇〇病院形成外科医は,形成外科医として,商売人としては優秀だが,人間のクズである。ちなみに渋谷区方面の素敵な病院なので,その辺りの方はご注意下さい。

【アドレス:http://www.wound-treatment.jp/next/case/hikari/case/1129/index.htm】

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