55歳男。
 5年前に糖尿病の指摘を受け,以後,内服薬での治療を受けている。
 2014年7月下旬に両足の靴ずれができ,左は治ったが右が治らず,8月4日から右足背が腫れてきた。翌日,〇〇病院外科を受診し入院となり,抗生剤点滴開始。8月12日,同院整形外科(△△大学整形外科から週に一回派遣)の診察を受け,直ちに下腿で切断しなければ敗血症を起こして生命が危ないと診断された。しかし,〇〇病院の院長が,以前,同様症例を当科に紹介して手術せずに治癒したことから,「練馬光が丘病院で診てもらい,そこでも切断と言われたら諦めるしかないでしょう」と言ってくれて紹介状を書いてくれ,8月13日,当科受診。
 初診時,右足背外側に膿瘍切開創があり,壊死組織が創内を埋め尽くしていた。しかし,深部で骨は露出しておらず,局所の感染症状も軽度であったため,湿潤治療の原理を説明し,同時に,「これだけ大きく口が開いているのであれば,吸収力がよくて傷を乾燥させない治療材料で覆っておけば,感染が悪化する危険性は低いと思われます。とりあえず,すぐに切断するような状態ではありません」と説明し,出血しない程度に壊死組織を切除し,ズイコウパッドで被覆した。以後,最初の1週間は2日ごとに通院してもらい,その後は週に2回の通院となった。
 2週間ほどで壊死組織はなくなり,深部から肉芽が上がってきた。途中で,第5趾の伸筋腱が露出して,宙に浮いている形になったが,深部から盛り上がってきた肉芽に飲み込まれる形で見えなくなり,腱切除しなくても創閉鎖が得られた。
 2015年1月現在,普通の靴を履いて普通に歩行している。足背の瘢痕拘縮も運動障害も認めない。

 また,初診から1週間目に,糖質制限による糖尿病治療について説明し,8月22日に芝浦スリーワンクリニックの望月先生の外来を受診。直ちに糖質制限を開始して,経口糖尿病薬を減薬。8月29日にはHbA1cが正常化し,9月9日にはすべての糖尿病薬の内服をやめても血糖値は90台を推移するようになった。

2014年8月13日 拡大 8月15日 8月19日

8月25日 8月29日 9月2日 9月9日

9月17日 9月26日 9月30日 10月7日

2014年11月26日 2015年1月14日 全体


 糖質制限による糖尿病治療ができる医者(=望月先生と,創傷治癒の基本と手足の外科がわかっている医者(=私)ががっちりスクラムを組んで治療をすると,大学病院で[これは切断」と言われた糖尿病性壊疽もきれいに治ります。糖質制限で血糖が完璧にコントロールできるようになって以後,健康な肉芽がどんどん上がってきて腱を包み込んでいった様子がよくわかります。大学病院が逆立ちしても,こんな治療はできません。
 同時に,自分の病院に勤務している大学整形外科医の意見を聞かず,私の外来に患者を紹介してくれた〇〇病院の院長先生もナイスプレーです。その後,この病院からはよく患者さんが紹介されるようになりました。

【アドレス:http://www.wound-treatment.jp/next/case/hikari/case/1084/index.htm】

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