42歳男性。三重県在住。
 1年前にローラーに右母指を巻き込まれ,奈良県の病院に救急搬送されて形成外科に入院。母指の皮膚欠損(?)に対し,同側前腕から全層皮膚移植を受けた。
 指が十分に伸びないため,湿潤治療で治らないかと三重県から当科を受診された。

掌側像 側面像

 母指末節部掌側に8×15ミリの移植皮膚があり,IP関節の可動域は45°〜80°と伸展障害を認めた。また,移植皮膚の知覚は鈍く,小さな物を摘む際に不便とのことであった。
 このような瘢痕拘縮に対しては,Z形成術などの瘢痕拘縮形成術が有効であり,全国各地の総合病院の形成外科で治療を行っている旨を説明し,帰宅していただいたが,最初から湿潤治療を受けていれば,こんな不便な思いをしなかったのでしょうか,と質問されてしまった。

 皮膚移植術の欠点についてまとめると次のようになる。

  1. 皮膚採取部(恵皮部)にも傷ができ,特に分層植皮採皮部の傷跡はかなり目立つ。
  2. 分相皮膚採皮部のトラブル(痛み,痒みなど)が多い,それらに対する根本治療法がない。
  3. 移植皮膚は最初のサイズより収縮する性質を持っているため,最初はよくても時間の経過とともに瘢痕拘縮を起こすことが多い。特に薄い皮膚を移植した場合は,術後に高度の瘢痕拘縮をきたすことが少なくない。
  4. 移植皮膚の質感や肌理,色調などは周囲皮膚と異なるため,所詮はパッチワークである。
  5. 移植皮膚には必ず知覚鈍麻が生じる(3年経過しても知覚鈍麻が改善しない症例を数例知っている。正常に戻ることはあるんだろうか?)
  6. 網状植皮の網目は,20年経っても30年経っても改善せず,おそらく生涯にわたって残存する。
  7. 移植皮膚のみ日焼けで真っ黒になることが少なくない(特に腹部を恵皮部とした場合)

【アドレス:http://www.wound-treatment.jp/next/case/hikari/case/011/index.htm】

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