犬咬傷などの動物咬傷では創感染を起こす率が高いため,私は通常,縫合せずにドレナージのみで治療しているが,この方法にしてから創感染を起こすことがなくなり,早期に治癒している。
問題は,顔面の裂創を伴う動物咬傷だ。縫合せずに治るかどうかわからないが,縫合すると感染するからだ。
症例は10代の女性。自宅で飼っていた犬に上口唇を咬まれて受診した。
初診時の状態 | 脂肪層に達する多発裂創 |
ドレーンを入れて縫合 |
そこで,創を粗く縫合してから3-0ナイロン糸を5本ほど創口から挿入してドレナージを図った。ナイロン糸は絆創膏で固定し,その上はプラスモイストで覆った。このドレナージを縫合した部位全てで行った。
なお,プラスモイストは薄くて吸収力があるため,顔面の創では非常に使いやすい。
4日目に抜糸 |
創感染を起こすことなく経過し,4日目に抜糸した。抜糸後は肌色の絆創膏でテーピング兼遮光。
14日目 | 47日目 |
1ヵ月半まで経過観察した。わずかに瘢痕を残し,気になるようなら受診するように説明したが,その後は受診していない。
このような方式にしてから,動物咬傷でも受傷直後に縫合しても感染する例はほとんどなくなった。「創内にいくら細菌がいても,細菌が増殖する場がなければ感染しない」という私の考えの間接的証明だと思う。
抗生剤は処方したりしなかったりしているが,処方してもしなくても,ドレナージができていれば感染しないようだ。逆に,他院で「ドレナージなしで縫合。そして抗生剤を点滴し内服薬も処方」という例ではほぼ全例で感染していることから,抗生剤は感染予防効果がないことがわかる。
(2008/04/08)