挫滅の高度な下腿骨折で皮膚壊死を起こした症例(投稿)

石岡第一病院 整形外科 土居先生


 私が赴任する半年ほど前の症例で,当サイトの読者だった土居先生が,骨折の観血的整復後にプレートと骨が広範に露出する症例を経験され,水道水洗浄とラップでの被覆のみで骨髄炎も起こさずに治療したという,いろいろなことを教えてくれる貴重な症例報告である。


 症例は70代の女性。バイク運転中の交通事故で,左頚骨,腓骨の開放骨折を受傷。直ちに病院に搬送され,観血的整復術を行ったが,術前より下腿の皮膚は高度の挫滅されていた。

受傷時の状態 整復後の状態

3日後 14日後 20日後

 術後は消毒は行わなかった。術後3日目で皮膚は一部黒色壊死となっている。14日目には皮膚全層壊死となり(黒色壊死となっていないのは,ラップで覆っていたために壊死組織の自己融解が起きているため),プレートが露出した。20日後にはプレートと骨が露出した状態となり,この日,壊死組織を全て除去した。
 なお,抗生剤は術後5日間点滴投与したが,それ以後は抗生剤は投与していない。理由はもちろん「感染していないから」。


デブリの翌日 デブリ1週間後 2週間後

 デブリードマン翌日の状態を見ると,脛骨(プレートの前方)が広範に露出していることがわかる。以後の処置法は次の通り。

  1. 水道水でよく創部を洗浄。
  2. 消毒薬,消毒薬含有軟膏は使わない。
  3. フィブラストスプレーを噴霧して食品包装用ラップで密封。

 デブリから1週間目で壊死組織は全くなくなり,2週間目では旺盛な肉芽の増殖が見られ,脛骨はかなりの部分が肉芽で覆われていることがわかる。プレートの露出範囲も狭くなっている。


3週後 5週後 8週後 10週後

 以後は順調に肉芽がプレート表面を取り囲んでいることがわかる。また,8週目から10週目にかけて,肉芽上に周囲皮膚からの上皮化が急速に進み,肉芽面が縮小していることがわかる。


12週後 14週後 16週後/td> 18週後

 そして,以後は肉芽面の上皮化が進み,18週後ではプレートはわずかに露出しているものの肉芽は全て皮膚で覆われていた。治療法は全く同じで,入浴もしていたようだ。また,感染症状はなく,骨折部位も順調に癒合してきたようだった。


 以後,私が同病院に赴任するわけだが,この時点では,既に退院していて,週に一度,私の外来に通院するのみであった。創部は小さな肉芽があるのみで,この肉芽から2センチのところに金属が触れていた。このため,ドレナージ口の確保のために,瘻孔部に10本ほどの3-0ナイロン糸を挿入し,滲出液を吸収するための尿取りパッドを当てるのみとした。再生した皮膚はしっかりしていて,潰瘍は認められなかった。
 あとは骨の癒合を待つだけで,骨癒合が得られたらプレートを抜去,という方針を患者さんに説明し,患者さんも納得されていた。

 しかし,患者さんの遠い親戚に医療関係者がいたらしく,そういう傷はすぐにふさがないと駄目だ,骨髄炎になると患者さんの家族を説得し(こういう余計なことを言うのは往々にして,現場を知らない遠くの親戚と相場が決まっている),同じ県内の病院を強引に受診させ,そこで診察した若い整形外科医が「手術して傷をふさぎましょう」と入院になり,手術になったという噂を聞いた。
 恐らく,手術を始めたもののプレートにぶつかり,プレートを抜こうにも抜けず,かといって傷も閉じられず,という状態になったのではないかと思われる。唯一の手段は,思い切ってプレートを抜去することだけだったはずだ。


 この症例のように,最初から皮膚の挫滅を伴う開放骨折では皮膚への循環が最初から断たれていることが多く,いくら乾燥を防いでも皮膚壊死は避けられず,プレートや骨が露出することがある。だが慌てることはない。プレートが露出しようと骨が露出しようと,ドレナージさえ効いていれば骨髄炎を起こすことはないし,骨の乾燥を防いでさえいれば骨癒合が遅れることもないからだ。

 そして,ラップや「穴あきポリ袋+紙オムツ」で覆っておけば,勝手に肉芽が上がって,数ヶ月もすればプレートは覆われる。あとは傷がふさがらないように(=ドレナージが確保されるように)ドレナージを工夫するだけでいい。あとはひたすら骨が癒合するのを待ち,骨癒合を確認したらプレーをと抜くだけ。プレート抜去術後も傷が縫えなかったら無理に縫合したりせずラップでも当てておけば,程なく傷は閉じてしまう。もちろん,骨癒合までに入院している必要はないし,外来通院は週に一度くらいでいいし,入浴も普通にできる。患者さんにとって最も負担がない治療法ではないかと思う。
 ちなみにこれまで,このような「皮膚壊死⇒プレート露出⇒穴あきポリ袋・オムツ⇒肉芽増生と皮膚再生⇒骨癒合⇒プレート抜去し傷も治る」という症例は3例ほど経験していて,治療経過で骨髄炎などの創感染を起こした例はなかった。


 「皮膚壊死が起きたときにはいち早く傷をふさぐ手術をすればいいではないか」と考える医者もいると思うが,これは絵に書いた餅である。傷が開いた直後から創面へのS aureusuP.aeruginosaの定着が始まり,プレート周囲の肉芽表面でもこれらの細菌定着が起きているからだ。これらの細菌を完全に除去することは生物学的に不可能だ。

 下腿の広範皮膚軟部組織欠損を再建するなら,通常は遊離広背筋皮弁移植が必要になるが,皮弁手術がうまくいっても,上記の理由から縫合部に瘻孔が発生し,それがプレートに通じることは往々にして起きている。つまりそれは,上記の「デブリ後18週」の状態となんら変わらない。従ってかなりの確率で「手術をしてもしなくても同じ結果」になってしまう。要するに,「傷をふさぐ手術方法がある」と「その手術で傷が治る」は同等ではないし,多くの場合,この二つには越えがたい溝がある。

(2008/05/01)

左側にフレームが表示されない場合は,ここをクリックしてください