この症例では局所麻酔下に少しずつ植皮を行ったが,その際のコツをまとめてみる。
【1. 肉芽面(移植床)の処置】
まず,肉芽面にキシロカインゼリーを塗布し,ラップで密封する。肉芽面の麻酔はこれだけで十分であり,移植皮膚の縫合固定でも痛みはない。
【2. 採皮について】
次に,10×5センチくらいの範囲を0.5%キシロカインEで局所麻酔し,採皮用カミソリで極めて薄い皮膚を採取する。採皮用カミソリは幅広い皮膚を採取できないが,幅2センチの皮膚なら簡単に採皮でき,慣れると長さ10cmくらいの皮膚を一気に取れるようになる。
また,採皮用カミソリがなければ11番メスでも十分に採皮できる。
技術的には難しくなく,専門家に教えてもらいながら2回くらい採皮すれば誰でもできるようになると思う(・・・よほど不器用でなければ)。例えて言えば,りんごの皮をメスで薄く切って剥いでいくのと同じだ。11番メスの刃をりんご表面とほぼ水平にして皮を切っていくと,実に(ほとんど)傷をつけずに皮だけ切り取れるが,その要領で皮膚を採取するだけである。11番メスでも慣れれば幅7ミリ,長さ数センチの皮膚が採取できる。わずかに点状出血するくらいの厚さがちょうどよい。左手で皮膚を持つ力の入れ具合にコツがあるが,こればかりは文章で伝えるのは難しい。
採皮部にはアルギン酸塩被覆材を貼付し,フィルム材で密封する。
【3. 肉芽面の処置】
次に,皮膚移植予定部位の肉芽表面をガーゼで軽くこする。肉芽表面の細菌数をちょっとでも少なくするため,という感じなので,軽く3回くらいこするだけでいいようだ。
【4. 皮膚を乗せて縫合固定】
採取した皮膚を数センチ大に切り分け,肉芽に載せ,5-0くらいのモノフィラメント吸収糸で3〜4箇所縫合固定する。すべての固定が終わったら,プラスモイストで覆い(植皮をした部位も植皮していない部位も一緒に覆う),包帯などで軽く圧迫する。歩行などの運動制限は必要ない。
【5. 翌日以降の処置】
翌日,プラスモイストを剥がし,皮膚が生着しているようなら直ちにシャワーで創部を洗い,新しいプラスモイストを貼付する。
【植皮前に肉芽をこする理由】
移植床(肉芽表面)の細菌数は少なくしたほうがいい。なぜかというと,肉芽表面に移植された皮膚片の下に組織液がたまるとそれが感染源になるからだ(もちろん,移植片が生着してしまえば,組織液が溜まることはなくなる)。だったら,移植片が肉芽面に完全に生着(=密着)するまでの間くらいはなるべく細菌数を少なくしておいたほうがいいだろう,ということになる。
もちろん,肉芽表面を洗ってもいいのだろうが,何しろベッドサイドで行う手術なので洗うのは大変。それで物理的にこすって落とそうというわけである。ちなみに,この方法にしてからは,どんなに小さな植皮片でも感染せずに生着しているので,多少でも効果はあるようだ。
(2008/05/09)