症例は7歳の男児。学校で遊んでいて窓ガラスに左前腕を切り,直ちに当科を受診。
受傷時:5月26日 | テーピングして圧迫 | 翌日 |
左前腕に脂肪に達する長さ5センチ,深さ2センチ以上の裂創で,一部で前腕筋膜が露出していた。患者さんが注射と聞くだけで泣き出したため,親御さんに
5月28日 | 5月30日 | 6月10日 |
テーピングを3日間続けたが,結局創はくっつかなかった。創が深いために深部の死腔が圧迫だけでは潰しきれなかったことが原因と思われた。
このため直ちにプラスモイスト貼付とし,患者さんの家族に処置の方法を指導。5月30日には創面は肉芽でかなり埋まってきた。患肢の運動制限は一切せず,創部をプラスモイストで覆うのみとし,自宅での入浴も普通に行うように指導。
6月10日には肉芽で平坦になり,長さ5センチ,幅1センチの平坦な肉芽面になった。
6月20日 | 6月24日 |
6月中旬にはほぼ完全に上皮化し,6月下旬までフォローしているが,患者さんも親御さんも「擦りむき傷のあともこれくらいになるわけだし」と瘢痕は気にしておらず,瘢痕拘縮も運動障害も生じていない。
この症例では恐らく,テーピングせずに最初からアルギン酸塩被覆材⇒プラスモイストと治療しても同じ結果になったかもしれない。逆に言えば,このくらいの深さでも縫合せずに治癒するということだろうし,縫合しなかったからといって何か不都合が起こるわけでもなさそうだ。
確かに6月24日の時点で幅8ミリの瘢痕で治癒しているが,これにしたって,縫合してそのあとテーピングなどの処置をしなければこのくらいに傷跡が広がるのは普通に見られる現象なのだから,「縫合しなかったから幅広い瘢痕になった」というわけでもないだろう。
恐らくこれから,このサイトや私の著書を見て外傷治療をする内科系の医師が増えてくると思われる。その時,「この裂創を縫合しなくても治るのだろうか?」と不安になる外傷に出会うと思う。その時,この症例を思い出して欲しい。このくらいの大きさ,このくらいの深さの創でも4週間後にはこれくらい治るのであれば,大概の裂創は縫合しなくても治るはずだ。
(2008/07/29)