60代男性。隣県在住。
作業中にシンナーを使っていて引火。左上肢と右下肢に熱傷受傷。救急車にて某病院に搬送され,同院形成外科で治療を受けている。ゲーベンクリームなどでの治療していたらしい。受傷から11日目,主治医より「感染しているために入院して手術が必要」といわれた。
しかし,以前から湿潤治療について知っていたため,主治医の説明に疑問を持ち,翌日,当科を受診した。
初診時,上肢,下肢,足背ともに感染症状は認められず,全てをプラスモイストで被覆した。
7月17日(初診時:受傷後11日目) | 7月18日 |
さて,アンケートです。この写真を見てあなたは,この熱傷は3度熱傷と思いますか?・・・アンケート結果
その後の経過です。普通に歩かせ,普通に入浴させていて,「安静にするな,よく動かせ!」とだけ指示しています。
7月22日 皮膚が斑点状に出現 |
7月25日 それが拡大 |
7月29日 そして皮膚同士が癒合 |
同日の拡大写真 拡大すると,新たに皮膚が出現しているのがわかる。 |
8月6日 島状の皮膚が拡大・癒合 写真中央左端にも皮膚が出現していることに注意 |
8月27日 一部を除いてほぼ上皮化した。 |
要するに,形成外科専門医が「これは手術が必要で,手術しないと治らない」と宣言した7月16日の時点では,2度熱傷なのか3度熱傷なのかはわからないということです。逆に言えば,7月17日の所見から「植皮しないと治らない3度熱傷だ」と診断するのは時期尚早であり間違っているということでしょう。
普通に歩いて仕事をしているということを付け加えておきましょう。このような熱傷では,関節部でも瘢痕拘縮を生じません。つまり,従来の教科書の瘢痕拘縮に関する記述はほとんど嘘です。
逆に,患部を安静にすると瘢痕拘縮,関節拘縮をきたします。
パラダイムシフトとは何か。それまでの専門家の専門知識が全く無効になる変化です。素人なら治せるのに専門家だけが治せない時代になることです。
さて,この症例の経過についてご感想がありましたら,「項目追加」に書き込んでいただいて結構です。
(2008/09/01)