症例は若い女性。仕事中に機械に左示指を巻き込まれた。右示指PIP関節背側~中節部背側にかけての10×15ミリの皮膚全層欠損であり,伸筋腱が広く露出していた(幸い,伸筋腱自体の損傷はなかった)。
さてアンケートです。この症例,あなたならどうしますか?
さて,その後の経過です。
3月3日:初診時 | アルギン酸で被覆 | 3月10日 | 3月16日 |
受傷直後はアルギン酸塩被覆材で被覆し,翌日からはプラスモイストで被覆し,一日一回,ドレッシング交換をするよう説明した。
3月23日 | 3月29日 | 3月29日 |
傷も小さくなってきたし,普通に指も使えるようになったし,仕事が忙しくてなかなか受診できないとのことで,「傷が治らなかったり,指を使って不自由があったら必ず受診してね」と説明し,交換用のプラスモイストを渡したが,それ以後は受診していない。
ちなみに,初診時の写真を見ると完全にPIP関節にかかっているが,3月29日の写真を見ると残った潰瘍はPIP関節から完全に外れていることがわかる。同様の症例はほかにもあり,どうやら,日常的に患指を使っていると瘢痕拘縮を起こさないように上皮化が進むようである。
ちなみに,示指(人差し指)は機能的な重要度は最も低い指である。実際,指5本の切断事故で,最優先するのは母指,次は小指,その次は環指で,示指は一番後回しとなる。
また,上の写真を見ると「示指が十分に曲がっていないではないか」と思われるかもしれないが,実はこれで十分に使えるのであって,示指の場合,PIPとDIPがやや屈曲位で固定されていても,MP関節が動けばかなり使えるのだ。
また,中指が充分に機能していれば,示指を完全に失っても手としての機能はほとんど失われない。
しかし,小指や環指ではどちらも十分に曲がらないと使い物にならない。物を握る際,小指と環指でしっかりと把持することが必要だが,示指は大抵浮かしているはずだ。つまり,手の機能で最も重要な把持機能で示指は必要ない指なのである。
よく,素人の方は「人差し指が一番大事」とおっしゃられるが,実は示指は細かいものを摘むときくらいしか使っていないし,それも中指で十分に代用できる。これが代用できる指がない小指や環指との最大の違いである。実際,事故で示指を切断欠失した患者さんに聞くと,「最初は不便だったけど,今は全く不自由を感じない」と答えてくれる人が大多数である。
ちなみに,一部業界では「小指の指詰め」が行われているが,詰めた人の話を聞くと握力がなくなるのが最も困ることだそうである。小指はそれほど重要な指なのだ。
(2008/09/29)