効果的な術後創感染対策とは


 先日,整形外科系の学会で講演した折,整形外科の先生から次のような質問を受けた。

人工関節などの人工物を入れる手術が非常に多く,一旦,創感染を起こしてしまうと治療は極めて困難で,人工物を除去するしかない。そうならないためにも,術後創感染を起こさないようにするしかないのだが,一体どうしたらいいのろうか? 術中の抗生剤の投与間隔とか,術後の抗生剤の投与日数とか,術野の消毒法とか,手術室をより高度な無菌状態にするとか,そういう工夫で対処できないものだろうか?

 同様の質問は非常に多いし,整形外科に限らず,脳外科でも心臓外科でも同じように考えている人は多数いると思う。


 実は対処法は簡単である。これまでの「術後創感染予防対策」をすべて忘れ,現実に起きている術後創感染のデータを取って分析し,それを元に対策を考えればいいだけのことだ。遠回りのようでも,これが一番近道であり,これ以外の道はない。

 具体的にどのように分析するかであるが,例えば整形外科の人工関節手術がらみのあらゆる術後創感染の症例を集めて,次のようなデータを取る。

  1. 手術からどのくらいたってから発症したか(術後,数年を経て発症したものも含めてデータを取る)
  2. 検出された細菌の種類は何か
  3. 膿の色,性状から感染源は何だったと考えられるか(⇒血腫なのか,組織液なのか,縫合糸なのか・・・)
  4. 細菌の侵入経路として何が考えられるか(⇒創からか,血行性か,その他か。創感染だから創からに決まっている,というような先入観を捨て去る)

 以上について徹底的にデータを集めて分析するが,最も重要なものは3番目の「感染源は何か」である。逆に言えば,この診断・判断が正確にできる医者が必要なのである。


 その上で,個々の感染源別に対策を考える。例えば,縫合糸膿瘍が多いのであれば縫合糸を血管結紮の糸も含めてモノフィラメントの吸収糸にすればいいし,血腫が感染源のことが多いのであれば術中の止血とドレーン留置場所の工夫をすればいい。あるいは,膿がさらさらした黄色であれば感染源となっているのは脂肪細胞の中身の可能性が高いので,脂肪組織を縫合糸で縫合しないようにし,脂肪組織にsuction dranageを留置して死腔を作らないようにすれば問題は解決する(縫合糸で脂肪組織がちぎれ,そこが感染源となっているから)。こうすると,効果的な対処法が導き出せる。

 要するに,術後創感染について抽象的・建前論的に考えるのでなく,現実に起きている創感染を一例,一例,具体的に分析し,具体的な原因に応じて対策を考えればいいということだ。

(2008/10/15)