前脛骨筋腱:完全露出症例の治療経験

岡山市民病院 整形外科/木浪 陽


 木浪先生から次のような症例の経過と症例写真を投稿していただきました。これも劇的な治り方をしています。同様の症例でお悩みの先生は是非試してみてください。

 64歳女性。合併症として重症糖尿病+ASO
 2008年10月1日、右足関節内果偽関節に対し、骨移植術・プレート固定術を施行した。10月9日、創部が壊死し、10月13日、デブライドメントし前脛骨筋腱が5cmほど完全に露出した。足関節内外側には以前の手術創(感染後)があり、またASOがあるため、形成外科でも手術は困難とされた。以後の経過は以下のとおりである。

 10月17からVAC療法を3週間施行し、残った壊死組織は適宜除去した。
 11月9日よりハイドロサイトでの湿潤療法を開始し、形成外科のすすめでフィブラストスプレーも併用した。足関節のROM訓練も開始した。
 12月14日、腱がだいぶ肉芽で覆われてきた。全荷重で歩行も開始した。また過剰な肉芽部分にはデルモベート使用開始した。
 12月26日創縮小し浸出液の量が少なくなったので、ハイドロサイトからプラスモイストへ変更し、退院、自己創処置とした。
 1月14日、新しい瘻孔出現し排膿あり、内部に少し壊死組織残存、それをデブライドしザイボックスを内服で2週で投与した。
 2月4日 瘻孔は閉鎖した。
 2月27日 わずかに欠損部残存している。足関節のROMをすると創がたくれるため以後の上皮化には時間を要した。
 4月22日 創上皮化完成した。
 足関節のROM(背屈・底屈)は今回の骨移植術前のレベルと同じに保たれた。ちなみに骨癒合も問題なく、独歩されている。


10月9日 10月9日 10月13日


10月17日 10月26日 11月9日


11月26日 12月10日 12月14日


12月26日 1月14日 2月4日


2月27日 4月22日


足関節進展 底屈


 以下も木浪先生のコメントです。

 VAC療法は湿潤療法の1つだと思っていますし(多少肉芽の増殖が早い印象で、入院中の人限定でしています)、フィブラストスプレーはおまじない程度と考えています。純粋な夏井流ではありませんが、手術的被覆は不能と判断された前脛骨筋腱完全露出が、足関節のROM訓練しながら、保存療法で治ったという症例です。足関節を背屈すると浮き上がってくる前脛骨筋腱でも、その滑走が良好に再現されたのは驚きでした。
 最初の骨折型も複雑で通常の足関節脱臼骨折ではなく整形外科的にも苦労したり、手術の皮膚切開のデザインにもかなり悩んだりと、その辺を画像提示すると焦点がぼけるので割愛いたしますが、治って本当によかった!。

詳しい経過を知りたい方は以下を参照してください。

 2007年7月3日、歩行中に車にはねられ、右足関節脱臼骨折(内果・外果・後果)と左足関節内果骨折・距骨体部骨折(以後左側の治療については割愛)を受傷した。
 当院搬入時、HbA1c13.5 BS470と無治療DM合併していた。インスリンで血糖を200台にコントロールし、7月17日手術(内果プレート・外果プレート・後果スクリュー)施行した。
 8月2日、感染併発したため、洗浄・デブライド後、プレートを抜去しスクリューへ変更した。閉創困難であり、一部開放創とし、VAC療法2週・湿潤療法4週で内側・外側ともに創閉鎖した。その後外来followした。独歩可能であったが、内果のみ骨癒合遷延し、超音波治療を行った。
 2008年10月1日 内果の偽関節に対し、骨移植術とプレート固定術を行った。その時のHbA1c9.5 BS150であった。内側の皮膚の状態はあまり良くなかったため、前方に皮膚切開を行った。
 術後、皮膚壊死を起こし(10月9日)、デブリすると前脛骨筋腱が5cmほど露出した(10月13日)。感染は明らかではなかったが、MRSAが保菌状態であった。プレートはかろうじて露出しなかった。
 形成外科にコンサルトし、動脈の評価もし、大学の形成外科のカンファレンスなどでも相談してもらった。周囲の条件が悪いため局所での有茎皮弁は不可能で、下腿の動脈は膝窩動脈以下に多発性に狭窄があり遊離血管付皮弁なら膝上の動脈につなぐ必要があり、また骨・腱の状態によっては骨・筋膜も同時に含めることになり、現実的にはかなり困難な手術で成功率も低いとのことであった。

(2009/04/27)

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