患者さんは千葉県在住の11ヶ月の女児。5月20日にティーカップのお湯で右前腕~右手背~手指にかけ手熱傷受傷。近くの総合病院形成外科に入院して治療を受けていたが,5月22日に主治医より
これは3度熱傷であり,皮膚移植が必要だ。皮膚移植をしないと野口英世のようになり,一生手を使えなくなる。すぐにでも手術しなければいけない。という説明を受けた(母親談)。
なお,この主治医は「フィブラストスプレーを水疱内に散布」していた。
初診時の背側 | 初診時の掌側 |
さて,この症例は「3度熱傷で植皮が必要」でしょうか? ⇒⇒⇒アンケート結果です
初診時,創面を水疱膜が覆っていたため,これを除去した。その結果,2度熱傷と思われる創面が顔を出した。
初診時:水疱膜を除去したところ どうみても2度の浅い熱傷にしか見えない。 創面はプラスモイストでミトンを作って被覆した。 |
5月28日の状態 手背全体,母指,示指,中指,小指で表皮再生が認められる。 |
6月1日 | 6月5日 | 6月22日 瘢痕を残さず,治癒した。 |
繰り返すが,初診の状態は創面を水疱膜が覆っていて,創面は全く見えていない。創面が見えない状態でなぜ形成外科主治医が「これは3度熱傷,植皮しなければ野口英世」という説明をしたのか,私には全く理解できない。ちなみに,この病院は400床規模の東京都内の総合病院であり,3名の形成外科医が常勤している。うち2名は卒後10年選手であり形成外科専門医である。
恐ろしいと思うのは,この医師たちはこれまで同様の症例に対し「これは3度熱傷,植皮しなければ野口英世になる」と説明し,実際に植皮をしてきたと考えられることだ。まさかこの一例だけに,こんな説明をしたとは到底考えられないのだ。
これまで同科で行ってきた植皮症例のうち,本当に植皮が必要で手術したのは何例で,不要な植皮を行ったのは何例だったのだろうかと考えると恐ろしくなる。
繰り返すが,この症例のご両親が形成外科主治医の説明に疑問を持たなかったら,もう既に植皮術をされていたのである。この事実は重いと思う。
熱傷学会や大学病院の形成外科は,全国各地の病院で行われている熱傷に対する植皮について,
必要のない植皮ばかりする医者を「皮剥ぎ医者」と命名しよう。
(2008/06/23)