手指の麻酔,ばね指のステロイド局注
【手指のブロック麻酔】
詳しくはこちらをご覧頂きたいが,オリジナルは佐賀大学整形外科の園畑教授が開発・発表された方法である(日本手の外科学会雑誌18巻4号 Page476-479,2001)。下図のようにMP関節掌側のシワの真ん中にキシロカイン(もちろん,エピネフリンの入っていないもの)を皮下注射するだけという極めてシンプルにして効果的な方法だ。
なお、園畑先生は自分の指に針を刺しまくって「痛くないポイント」を発見された、と聞いている。すごい先生だと思う。真に尊敬できる医者とはこういう人だろう。
Tipsをまとめると次のようになる。
- 注射針は皮膚に垂直に刺す。
- キシロカイン(R)の量は指1本あたり1.5~2.0mlくらい。
- 深さは皮下,すなわち皮膚表面から3~5mmの深さでよい。
- 酒精綿消毒は不要。少なくとも私は消毒したことがないし,感染が起きたこともない。
- 注射針は26Gより細いものを選ぶ。注入速度もできるだけゆっくりする。痛みは注入速度に比例して強くなるからだ。
- 右利きの場合,左手の母指と示指(あるいは中指)で患者の指の根本を強くつまみつつ針を刺すと,少しは針刺入の痛みを減弱できる。
- 注射後は最低でも3~5分くらい待つ。十分に時間を置かないと麻酔の効き方が不十分となる。
- 指掌側全体,指背側の遠位(おおよそ,DIP関節より遠位)はこれだけで麻酔可能。
- 小児の場合は,29~30G針付きシリンジ(テルモのマイジェクタ(R)など)で0.5mlほどで麻酔し,足りなければその注射の穴から刺して追加する。
- 足趾の麻酔も同じ。
- 手の母指,足の第1趾では2.5~3.0mlくらい必要。さらに,これらの指の背側では神経背側枝の分布が優位なことがあるので,背側枝のブロックも必要。MP関節背側の皮下に2mlくらい浸潤麻酔をするとブロックできる。
- 手の母指は他の指と対立位を取っているので,正中の位置を間違えないこと。
- このブロック法では「指背側の基節部~中節部の真ん中」は麻酔できない。この部位は背側枝の支配領域なので当たり前である。従って,この部分の傷の処置では通常の局所麻酔で対処する。
- 自分の指で安全ピンなどでつついてみて実験するとわかるが,この部分は他の部位より痛覚が鈍い。
【ばね指のステロイド局注】
- 注射薬はリンデロン懸濁液(R)かケナコルト(R)がよい。つまりどちらも懸濁液だ。ただ,注射針が29Gより細い場合,ケナコルトだと詰まりやすいのが欠点のため,筆者はリンデロン懸濁液を使っている。
- 「他の病院で注射してもらったが全然効かなかった」というのは大体,水溶性ステロイドのようだ。個人的な印象では,水溶液と懸濁液は別物,というくらいの違いがあるようだ。
- リンデロン懸濁液の場合,指1本当り1/2Aでよいようだ。
- 注射針を刺す部位は上述の部位と同じ。つまり,MP関節掌側のシワの正中。
- 注射針は45°位に寝かせて針刺入部より近位(このあたりが腱鞘の入口になる)を狙う。
- 酒精綿消毒は不要。少なくとも私は消毒したことがないし,感染が起きたこともない。
- 深さは皮下,つまり「腱鞘上」でよいようだ。慣れると「腱鞘内」に打てるようになるが,「腱鞘上」と「腱鞘内」では効果に違いはないようである。ちなみに腱鞘はかなり硬い組織なので,注射針で貫くときにかなりの抵抗があり,「これが腱鞘だな」とわかるはずだ。
- 注射後は特に注意点はなく,普通に使わせている。もちろん,入浴も可。
- 私の経験では,この注射1回でほとんどの患者さんは翌日か翌々日までに症状がなくなり,半分くらいの患者さんは1回の注射で治療終了となっている。
- それでも症状が消えない場合には,1週間くらい置いてから再度注射(1週間という間隔については根拠レス)。複数回注射しても症状が取れない場合には手術を考える(複数回とは何回か,という質問はしないでください)。
- ドケルバン腱鞘炎(手首撓側の腱鞘炎)も治療法は同じ。
(2010/09/27)
左側にフレームが表示されない場合は,ここをクリックしてください