症例:73歳女性。経過は次の通り。
何のことはない,「金属が見えてましたけど,釣りのテグスを入れておいたら2年かかったけど治っちゃいました」というだけの症例ですね。金属が露出している手術創でもきちんとドレナージを続けておけば,金属を抜去しなくても創が閉じるし,創感染を起こすこともない,ということです。肝要なのは「きちんとドレナージすること」だけです。
なぜ,これだけで傷が閉じるのか。金属の周辺は膿だらけ,細菌だらけなのになぜそれ以上炎症が波及しなかったのか。
恐らく,きちんとドレナージができていれば,「創内⇒創外(体外)」への体液と膿の流れができます。物理的に考えれば,その逆の流れ(体外から創内へ)は絶対に起こりません。しかも,ナイロン糸ドレナージと紙オムツの組み合わせは吸収力抜群で,しかもドレナージが止まりません(このあたりが,持続吸引との最大の違い)。
その結果,膿が吸い出されてスペースができ,深部から肉芽が上がってきてこのスペースを埋めます。もちろん,金属の表面に肉芽は上がりませんので,周囲から肉芽が増生していく形式ですから,通常の創面より肉芽増生の速度は遅く,遅々としたものだったと思われます。さらに,創内の細菌の増殖速度と肉芽増生速度の競合となり(何しろ,限られたスペースの陣取り合戦ですから),肉芽増生はさらにゆっくりとしたものになったと思われます。20分に1度分裂する細菌は,栄養があれば48時間で,地球と同じ重さにまで増殖できる生物ですから,それと競いながら自分の領地を広げていく肉芽も大変なんでしょう。だから,「治るのに時間がかかるのは当たり前」と考えるべきなんでしょう。
以上を図にするとこうなります。
いずれにしても,治療としてはループ状にしたナイロン糸を入れておくだけですから(ループにしたほうが抜けにくいし,ドレナージ孔も塞がりにくい),治療は素人にもできます。万一,本当に感染したら,その時プレートを抜けばいいだけのことですから,こういう症例でお悩みの方,一度試してみる価値はあると思います。
そうそう,「釣具店のテグスを利用」というのもアイデアものかな? こんなことを書くと「医療材料でないもので治療をするなんてけしからん」と頭から湯気を出して怒り狂う「医学界の海原雄山先生」がいらっしゃると思いますが,合理的・科学的に考えれば,既に膿で一杯のところに滅菌物を使うなんて馬鹿げてますよね。
「膿が出ているところに滅菌物を使う」というのは要するに,「患者の使うトイレなんだから,ウンコを拭く紙は滅菌紙を使うべき。お尻を洗う水も滅菌しよう」というのと同じ発想でナンセンスです。もっと,合理的に考えましょう。
(2011/02/14)