巻き爪(pincer nail)の治療
陥入爪(incurved nail, ingrown nail)と巻き爪(pincer nail)は全く別の疾患であり,両者は厳密に区別されるべきなのだが,医者でも病名を間違って使っていることが多い。両者の違いは次のとおりである。
- 陥入爪(ingrown nail)
- 巻き爪(pincer nail)
- 爪全体が丸く丸まっている。
- 化膿することはまれである。つまり「陥入爪は爪が曲がっているから化膿するのだ」という説明が嘘であることが分る。
- 末節骨の先端が突出していることが多い。これが原因と説明されることが多い。つまり,爪の病気でなく末節骨の病変ではないかという気がするが,私にはよくわからない。
- 次のような高度な変形例になると,これはもう手術するしかないと思う。第1例目くらいになると形状記憶合金や超弾性ワイヤーでも爪の形を修正するのは無理でしょう。
- 痛みがある場合には手術が必要だが,痛みがなく爪の変形だけの場合には治療は不要である。
【巻き爪(pincer nail)の治療例】
症例1:50代女性。このくらいの巻き爪でも,きちんと手術すればそれなりに平坦な爪が生えてくることがわかる。
症例2:60代女性
【巻き爪の治療】
ここでは簡単に述べることにする。詳しい手技は形成外科の教科書などに載っている。なお,入院は不要であり,術後の疼痛もあまり大したことはないようで,2日くらいすると普通に歩いている患者さんが多い。
- 局所麻酔下に丁寧に抜爪。このとき爪床を傷つけないように細心の注意をはらう。
- fish mouthに皮膚切開。
- この切開から末節骨上面に到達し,これまた細心の注意を払って爪床と末節骨の間を剥離する。特に,骨突出部の剥離で爪床を傷つけないように注意。剥離の範囲は,爪甲の半分くらいまででよい。
- 突出している部分をリウエルで削り,骨表面を平坦にする。
- 剥離した爪床先端をtrimmingして爪床が平坦になるように残った皮膚に縫合し,形を整える。
- アルギン酸塩被覆材(アルゴダーム,ソーブサン,カルトスタット)を貼付し,フィルム材で密封。
- 5分ほど患肢挙上させ,出血が止まっていることを確認して帰宅させる。抗生剤は不要である。
- 翌日,アルギン酸塩被覆材を除去して患部を適当に洗い,ハイドロサイトかプラスモイストで覆う。ハイドロサイトのほうが厚いのでクッションになり,より痛くないようだ。
- 以後,1日1回のドレッシング交換を行い,浸出液が出なくなって爪床が上皮化したら,とりあえず治療終了。あとは爪が生えてくるのを待つのみ。通常,1ヶ月後くらいから爪半月の部分に爪が伸びてくる(症例2の35日目でようやく爪半月の部分に爪が伸びてきたことが判ると思う)。
実際に手術をしてみると,1と3の操作がやや難しいくらいで,十分な解剖学的知識と繊細な手術手技があれば誰にでもできる手術だと思う。
(2011/04/14)
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