症例は60歳男性。以前から近医で糖尿病の治療をうけている。
2週間前から右第5趾に傷ができて皮膚科医院を受診し,抗生剤内服とゲンタシン軟膏塗布で治療を受けていたが,排膿が多くなり,骨髄炎の診断で当院を紹介された。
初診時の状態。右第5趾を押すと膿がかなり出てきて,レントゲンでは中節骨は融解し,基節骨骨折と骨融解像が認められる。
初診時(3月4日) | レントゲン写真 |
局所麻酔下に創内からペアンで遊離している骨片を掴んで除去した。なお,皮膚の追加切開は加えていない。その後,ループ状ナイロン糸を創内に留置し紙オムツで被覆。
出てきた骨片 | ループ状ナイロン糸 | 3月7日の状態 |
翌日から,創周囲の発赤などは消退した。3月9日,創内から遊離骨片が自然排出された。その後もループ状ナイロン糸でドレナージを続けた。入浴時には創部も一緒に風呂に入れて洗い,抗生剤は初診時から投与していない。幹部の安静もさせず,普通に歩行させていた。
遊離骨片なし |
3月下旬にドレナージ用の糸を自分で抜いてしまい,様子を見ていた。傷は数日で自然にとじたが,4月4日,指背側に傷ができて膿が出たため受診。深いポケットになっていた。再び,ループ状ナイロン糸を創内に留置したが,ドレナージが十分できているため,抗生剤処方はしなかった。
4月4日 | 深いポケット |
4月7日,白い腱のような組織が傷から自然に排出された。その後もループ状ナイロン糸でのドレナージを続け,4月下旬には浸出液が出なくなり,傷が閉じて完治した。
5月6日 |
同様の症例は少なくないと思うし,開放骨折後に同様の骨髄炎を起こすことも稀ではないが,このように,
遊離骨や壊死した腱は必ず自然に排出されるようだ。重要なことは,それまでに膿が中に溜まらないようにドレナージ・ルートを確保すること。
入浴に関してだが,「傷からバイキンが入らないように入浴しちゃ駄目」というのはナンセンス。もう既に,創内は細菌で一杯だからだ。この時点で,外から細菌が入り込もうにも,入り込む余地はない。これは要するに,家に泥棒が入っているのに「外から泥棒が入らないように戸締り用心!」しても意味が無いのと同じである。
こういう症例を複数経験してしまうと,「骨髄炎は怖い感染症だ。骨髄炎になったら指を切断しなければ治らない」という「医学の常識」の方が間違っているのではないか,という気がしてくる。
ちなみに,こういう症例を提示すると「それは骨が小さいから助かったのだ。大きな骨は話が違う」という「大きい骨と小さな骨は別物」という反論してくる整形のお医者様が多いが,大きな骨と小さな骨の境界をどこに引くのかという話を彼らから聞いたことは一度も聞いたことがない。
多分これは,「広範囲熱傷はそれ以外の熱勝とは別物」という熱傷専門医と同じ意識であろう。
(2011/05/09)