犬咬傷による手背皮膚軟部組織欠損


 症例は70代女性。自宅の飼い犬に餌をやろうとして右手を噛まれて受傷。同日,当科を受診した。まさに「飼い犬に手を噛まれる」である。右手背に広範な皮膚軟部組織欠損を認め,一部で伸筋腱が露出していた。

 局所麻酔後に患部を洗浄し(麻酔せずに洗浄したら痛いのは当たり前である。創部を洗浄するなら局麻をしてから),可及的に裂創部を縫合し,アルギン酸塩被覆材で被覆した。破傷風トキソイドを投与し,抗生剤(セファゾリン(R)の点滴を行った。翌日,創部に感染症状を認めなかったため,以後は抗生剤は投与せず,患部は創傷被覆材(当初はティエール,その後はハイドロサイト)で被覆し,積極的に右手を使うように指導した。

 約40日後,右手背は完全に上皮化し,右手関節,MP関節に関節拘縮,瘢痕拘縮は認められず,両手のROMに差はなかった。

4月4日 4月4日 4月7日 4月15日

4月21日 4月28日 5月16日


 このような「組織欠損型」の動物咬傷は感染することは少ないようだ。創面が広く口を開けているため良好なドレナージが得られ,「液体たまり」ができないためだろう。

 「手背の全層皮膚欠損は直ちに皮膚移植をしなければ運動障害を起こす」というのが形成外科の常識であるが,どうやらそれは嘘のようだ。患部を動かしながら上皮化させると瘢痕拘縮も関節拘縮も起きない,というのが新時代の常識である。

 ちなみに,この症例に皮膚移植をしたらどうなるか。皮膚移植後はギプスかシーネ固定が必要であり,手背では10日〜2週間,固定が行われるはずだ。70代の患者で2週間,手を固定すると関節拘縮が起こることは形成外科医なら誰でも知っているとおりだ。つまり,「皮膚移植をしない」方が結果的に手の機能を損なわない治療となるわけである。

 このような症例を見ても,まだなお皮膚移植をする医者がいるとしたら,正気の沙汰ではないと思う。


 ちなみに,この症例は7年ほど前の症例であるが,なぜ手を握ってもらった状態の写真を撮っておかなかったのかと悔やんでしまう。「両手のROMに差がない」ことを証明する写真を撮っておくべきだったと思う。

(2011/09/29)

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