症例は東京都在住の29歳女性。自宅でヘアドライヤー使用中に意識消失発作を起こし,熱風が右足背に当たった状態で家人に発見された。直ちに都内の●●大学病院皮膚科を受診し,通院治療を受けていた。同科ではゲーベンクリーム+ガーゼで治療していた。
手術しないと治らないと言われたが,説明に不安になり,ネットを検索して当科を受傷後14日目に受診した。
当科では当初はOpWTで,その後はプラスモイストで創部を被覆した。なお,ドレッシングは全体を一つに覆うのみとし,第1,2趾間にガーゼを挟むようなことはしていない。
創面全体を壊死組織が覆っていたが,局所の炎症症状(=発赤,疼痛)がなかったため外科的デブリードマンは不要と判断し,自然融解させた。その結果,壊死組織は2週間で消失し,この間,感染は一度も起きなかった。
70日目ころからスポーツを再開し,100日ほどで上皮化が得られた。100日間,感染は起こらなかった。10ヶ月後,軽度の瘢痕拘縮を認めるが趾位は異常なく,普通にスポーツを楽しんでいて日常生活でも不自由は全くないとのことである。
初診時: ゲーベンべったり! |
初診時: ゲーベンを洗い落とす |
4日目 | 10日目 | 18日目 |
39 | 67 | 93日目 | 107日目 | 309日目 |
「足背Ⅲ度熱傷は皮膚移植をしないと治らない。足背Ⅲ度熱傷は自然治癒することはない。早期に皮膚移植をしないと歩行障害を起こす」というのが熱傷治療のセントラル・ドグマであるが,この症例においては嘘だったようだ。
(2012/03/19)