爪下血腫の治療


 8年ほど前,「爪下血腫はナイロン糸ドレナージで治療」と書いたが,その後,ドレナージしなくても大丈夫であることがわかったので,久しぶりにバージョンアップすることにした。

 症例は39歳男性。ドアに右環指をはさみ,救急外来を受診した。当直医は18G注射針で爪に穴を開けて血腫を除去した。しかし,帰宅してから痛みがひどくなり,翌日,当科外来を受診した。

 爪下血腫が再発していたため,局所麻酔下に18G注射針で爪甲基部に数カ所穴を開け,穴の間を眼科剪刀で切って開窓した。穴の大きさは3×3mm程度あれば十分。血腫を押し出した後,プラスモイストで患部を被覆して,軽く圧迫。翌日受診してもらったが,血腫の再発はなかった。以後は数日間,プラスモイストでの被覆を続け,浸出液が出なくなった時点でドレッシング終了とした。爪甲は生着した。

当科初診時の状態
前日開けた穴はふさがっていた
爪甲基部を開窓 翌日の状態
血腫再発はない


【18G針で穴を開ける治療は有効か?】
 教科書ではこの方法が推奨されていたと思うが,実は有効な治療法ではないようだ。翌日診察するとほとんどの症例で爪下血腫が再発していたからだ。これはどうやら,18G針で開けられた穴はすり鉢状であるために容易に塞がってしまうためと思われる。

【局所麻酔は必要か?】
 これは絶対に必要である。爪床は痛みに極めて敏感な組織だからだ。完璧な操作をするためにも,局所麻酔は必須である。

ナイロン糸ドレナージが不要な理由】
 爪下血腫の再発を防ぐためには,十分なサイズのドレナージ孔(=3×3mm)が確保され,血液を吸収できる被覆材料で爪甲を覆うだけで十分である。
 この意味で,ガーゼは被覆材料として意味がないことがわかる。ガーゼは吸収した血液が空気に触れて乾燥して固まり,この時点で「血液の吸収」がストップしてしまうからだ。その点,プラスモイストに吸収された血液は乾燥せず,吸収力の限界まで血液を吸収してくれ,血腫は再発しにくいと考えられる。

(2012/04/20)

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