症例は22歳女性。右耳介上部のピアス孔が盛り上がってきたため受診。直径1センチ,高さ8ミリのケロイドを認めた。
局所麻酔下にケロイドを切除し,単純縫縮を試みたが,次回の変形をきたしたため縫縮を諦め,患者に開放創として治療する旨を説明し,同意を得てアルギン酸塩被覆材で創面を覆うのみとした。
術後3日目からはハイドロコロイド被覆材の被覆のみとし,14日目にほぼ上皮化した。耳介の変形は認められず,瘢痕拘縮も生じなかった。
手術翌日 | 3日後 | 8日後 | 14日後 |
ピアス絡みのケロイドは結構多く,その大半は耳垂部である(耳垂にピアス孔を開けるのが一番多いから当然だ)。この症例は解剖学的に言えば「舟状窩上部」のピアス孔に発生したもので,比較的珍しいかもしれない。
耳垂部のケロイドの場合,単純に切除縫縮することで治療できるが,この例のように耳介上部に発生した場合,どのようにして創部を閉鎖するかが形成外科医の腕の見せ所となると思う。10年前の私だったら迷わず,耳介後面全体を皮弁として挙上し,回転皮弁にして閉鎖したと思うし,形成外科の教科書的にはそれが正解だろう。
だが今では,そういう皮弁手術はあまりに大袈裟すぎると感じる。たかが直径1センチの傷を閉鎖するのに,耳介後面全体を皮弁にするのはやり過ぎだと思う。ハエを潰すのに猟銃を持ち出す,チーズを切るのに牛刀を持ち出す,隣のコンビニに行くのにヘリコプターで行くようなものだ。ハエを潰すならハエ叩きで十分なのだ。
耳介後面上部の直径1センチのケロイド・皮膚全層欠損はこのように手術しなくても治ってしまう。恐らく,直径1.5センチでも,2センチでも治るだろう。
耳介後面全体の皮膚欠損ではどうか? 多分,同じ方法で治療をしてみて,瘢痕拘縮(=耳介の変形)が起きたら瘢痕拘縮の手術をすればいいだけのことだ。難しく考えることはないと思う。
何しろ人体は,陰嚢の皮膚完全壊死でもほぼ完璧な陰嚢が再生するくらいの能力を潜在的に持っているのだから。
(2012/05/14)