50代男性。10年前に火災に巻き込まれて熱傷を受傷し,近くの総合病院皮膚科で入院治療を受けた。顔面は軟膏による保存的治療,両側上肢は網状植皮で治療されている。
交通事故で当科を受診した際,熱傷瘢痕を認めたため写真撮影させていただいた。
顔面 | 顔面:側面 | 下眼瞼 | 右前腕 | 左前腕 | 拡大 |
顔面の皮膚は固く,色素沈着と色素脱失が認められる。下眼瞼外反を認め,口も開きにくい。前頭部は瘢痕性禿髪の状態である。オトガイ~頸部は短縮している。
両側前腕の網状移植された皮膚は10年を経過してもウロコ状・網目状であり,醜形を呈している。また,移植皮膚の部分の知覚鈍麻を認める(ちなみに,湿潤治療で再生した皮膚は全例,知覚は正常である)。
深い顔面熱傷を従来の治療(軟膏治療,皮膚移植)で治療をすると,下眼瞼は外反し,口は小さく開口障害があり,鼻翼は瘢痕拘縮で平坦となり,オトガイから頸部にかけてのラインは平坦と,どれも似たような顔になる。要するに「治療によって個性を失う」訳である。この症例と比べてみてほしい。
この「従来治療で治療した顔面熱傷患者の顔は,互いに似通っている」という減少を他に見たことがないだろうか。これは先天体表異常症候群や染色体異常症候群に見られる減少に類似している。例えば,Treacher-Collins症候群の患者さんはどれもよく似た顔になるが,それぞれの親兄弟とはあまり似ていないし,21-trisomyもCat-cry症候群も患者同士はよく似ているが,親兄弟とはあまり似ていない。
要するに,ある種の疾患は「患者同士は似通うが,それぞれの親兄弟とは似ていない」のである。
実は,従来治療法(=消毒,軟膏ガーゼ,皮膚移植)で治療した顔面熱傷患者さんにも同じことが起きていると言えないだろうか。要するに,「熱傷前のそれぞれに個性的な顔立ちに戻す」のではなく,「個性を失った顔にする」のが従来の熱傷治療のゴールだったのである。
(2012/06/18)