症例:1歳7ヶ月男児。
8月16日,〇〇県に帰省中に転倒して前額部裂創。直ちに某市立総合病院救急室を受診し,テーピングで創閉鎖した。8月18日,同院外科を受診したが,外科では縫合した方がいいと言われ,直ちに縫合が行われた。
しかし,同日帰宅後に高熱が出て,翌日受診したところ縫合部から大量の膿が排膿されたため入院となった。その後,創縁の皮膚の色調不良となり8月27日にデブリを行い,皮膚が大きく欠損した。
その後,帰京したが,「湿潤治療に一縷の望みを託します。縫合しなければよかったと反省しきりです」という内容の紹介状とともに,8月30日に当科を受診。
前額部に直径2センチほどの皮膚軟部組織欠損層を認め,潰瘍底は骨膜が広く露出していた。
母親に過去の治療例の写真を見せ,このくらいの欠損でもかならず治ること,2ヶ月以内に絶対に上皮化が得られること,半年後にはほとんど目立たなくなることを説明して安心させ,湿潤治療の原理を説明し,プラスモイストで創部を被覆した。最初の数日は毎日通院してもらい,その後は週2回程度の通院とし,その間は両親にプラスモイストの交換をしていただいた。
8月30日(初診) | 9月3日 | 9月6日 |
9月14日 肉芽で平坦になった |
9月18日 | 9月21日 デュオアクティブETの被覆に変更 |
10月2日 | 10月10日 瘢痕拘縮は起きていない 平坦で陥凹なし |
ご両親は「息子の写真をぜひ公開して下さい。同じような怪我で悩んでいる人も,この息子の写真を見たら安心すると思います。人助けになるんなら,いくらでも協力します」と仰られている。ありがたいことである。
この症例同様,広範な前額部の皮膚欠損でも正しく治療すれば瘢痕拘縮は起きないことがわかる。
現在は直射日光を避けるように指導し,経過観察中である。1か月後,2ヶ月後の経過写真を随時追加していく予定である。
なお,この症例が教えてくれるように,受傷後数日してから創を縫合するのは極めて危険である。上記の創感染はいわば,起こるべくして起こったと思う。さらに,前医では排膿後にアルギン酸などで創処置を行なっていて,その後デブリードマンを行ってさらに傷が拡大したようだが,デブリをせずにアルギン酸塩被覆材を使い続けていれば,これほど悲惨な状態にはならなかったと思う。顔面は血流がいいので,多少血流が悪いように見えてもそのまま乾燥を防いでいれば復活することが多いからだ。
(2012/10/17)