症例は40代女性。7月29日に都内の某美容外科クリニックで腋臭症手術を受けたが,術後,創部の皮膚がすべて壊死した。医師は患者に「穴あきポリ袋と母乳パッドで覆っておけばいい」と説明したが,なぜそれで傷が治るのか,いつ頃治るのかという説明が全くなかったため,不信感をもち,ネットで調べて当科を8月8日に受診した。
当科では,いつものように湿潤治療の原理を説明し,当初は吸収力の高いズイコウパッドで創面を被覆した。
8月8日 穴あきポリ袋で覆っていたため,壊死組織は融解しつつある |
8月8日 |
8月10日 | 8月10日 融解が進んでいる |
鑷子で摘むと出血させずに自然に取れる 無理にデブリードマンしないことが重要 |
8月17日 | 8月17日 |
8月31日 | 8月31日 創中心部に皮膚が生き残っていた |
9月7日 この頃から被覆材はプラスモイストに変更 |
9月7日 |
9月28日 | 9月28日 |
10月26日 瘢痕拘縮はなく上肢を挙上できる |
10月26日 軽度の瘢痕拘縮はあるが上肢は挙上できる |
特に治療のコツというほどではないが,壊死組織が付着している時期から,一日になんども両側上肢を十分に挙上させることが重要。
安静にして患肢の動きを制限すると,早期の創治癒(上皮化)が得られるが瘢痕拘縮により患肢は挙上できなくなる。一方,両側上肢を常によく動かして治療すると,創治癒(上皮化)は遅れるが,上肢は挙上できる状態で上皮化する。
「早い治癒で運動障害がある」治療法と「治癒は遅れても運動障害がない」治療法の二者択一となるが,私は患者さんにどちらにするか選んでもらっている。もちろん,前者を望む患者はほとんどいないが・・・。
医者はともすれば「早く治すほうが患者のため」というが,これは余計なお世話である。医者の価値観(=早く治った方がいい)を患者に押し付けてはいけないと思う。
(2012/10/30)