これまで何度か「ナイロン糸によるドレナージ」を紹介してきたが,最近はほとんど「ループ状にしたナイロン糸」である。ちなみに,最初にこの方法を考案されたのはきよすクリニックの伊藤先生であり,私はさらに簡便化して利用している。
症例を供覧して方法を図説する。
症例1:23歳女性。前日,自宅の飼い犬に左手母指球を噛まれ,直ちに病院を受診。消毒をしてゲンタシン軟膏を塗布し,抗生剤の処方を受けたが,翌日になっても痛みが取れないため翌日,当科を受診。
創部に圧痛と発赤を認めたため,局所麻酔下に創口を開いて中に溜まった膿を出し,3-0ナイロン糸数本をループ状にして創内に留置し,プラスモイストで創部を被覆した。翌日受診してもらったが疼痛・発赤は消退していた。
ナイロン糸は滅菌せずに使用している。既に創内は感染して膿で一杯なのだから,「滅菌物を使わないとバイキンが入って感染する」という論理は破綻している。
また,ナイロン糸の固定は絆創膏のみで十分であり,これで抜けることはないようだ。
ナイロン糸を入れたところ | 赤の点線は創内のナイロン糸を示す ループ状なので抜けにくいというメリットがある |
この経過を見てもわかるように,この症例では「消毒と抗生剤軟膏と抗生剤内服」をしたのにもかかわらず,創感染が起きている。つまり,動物咬傷では「予防的抗生剤投与」は全く効果がないことは明らかだ。もちろん,動物咬傷だけでなく,他の外傷でも術後でも同じ事で,抗生剤の予防的投与に意味は無いと想われる。
症例2:10歳男児。前日夕方,他人が連れていた中型犬に右前腕を噛まれ,直ちに当院救急外来を受診し,水道水洗浄,ガーゼ保護,抗生剤処方を受けた。
翌日当科を受診したが,痛みがひどく発赤を認めたため,局所麻酔下に創口を広げてループ状ナイロン糸を留置した。翌日には痛みも発赤も消退していた。
症例3:70歳女性。前日夜,自宅の飼い猫に左下腿,左足背を噛まれ,翌日痛みのために当科を受診。
左足背外側近位と遠位に疼痛と発赤を認め,局所麻酔下にループ状ナイロン糸を留置。下腿にも傷が多数見られたが,こちらには痛みはなかったため,プラスモイストで覆うのみとし,オーグメンチンを処方し,破傷風トキソイドを投与した。
翌日には痛みは消失した。
左足背近位 | 左足背遠位 | 左下腿 |
症例4:12歳男児。自宅の飼い犬に右示指を噛まれ,直ちに消毒して傷絆創膏を貼っておいた。翌日,痛みがひどいため,当科を受診した。
右示指基節部尺側側正中に咬創を認め,高度の発赤と疼痛を伴っていた。局所麻酔下に創口を広げてループ状ナイロン糸を留置し,プラスモイストで覆い,オーグメンチンを処方した。翌日には症状は軽快した。
初診時の状態 |
ループ状にしたナイロン糸ドレナージのメリットは次の通り。
また,ナイロン糸がなければ釣り糸(テグス)でも代用可能である。
(2013/01/28)