症例は40歳女性。9月10日に右環指をドアに挟み指尖部切断。直ちに埼玉県内の某日赤病院整形外科を受診し,composite graft (=切断端を元の位置に戻して縫合するだけの治療。残念ながら,多くの例は壊死する)を受けた。
その後,断端遠位部が壊死したため,追加手術(骨を削って指を短くする手術)が必要と言われた。その説明に不安になり,ネットで検索して10月10日に当科を受診。
当科では湿潤治療について説明し,以前の同様症例の経過写真を見せて見通しを説明し,まず安心してもらった。そのうえで,水道で患部を洗い,プラスモイストで創部を覆った。ワイヤーと縫合糸は直ちに抜去した。
1週間後に再診してもらったが,当科受診前は痛みが強くて夜も眠れず,食欲もなくなって体重が4キロ減少(ちなみに細身の女性である)したとのことだが,プラスモイストに変えてからは痛みが直ちになくなり,眠れるようになって食欲も戻ったそうだ。
また,治療終了時の再生した指尖部の知覚は正常であり,知覚鈍麻や知覚異常は認めなかった。
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指尖部切断の治療は大きく次の4つに分かれる。
上述の症例で行われたのが2番めの composite graft である。再接着術のような高度な手術手技はいらないし(何しろ乗っけて縫うだけ),とりあえず局所麻酔さえできれば誰でも行えるので,広く行われているようだ。また,大人では生着率が低いが(参考文献),乳児では生着率が高いため(参考サイト)好んで行なっている先生も多い。
だが,composite graft には致命的欠点があることに,多くの医者は気がついていない。たとえ生着したとしても知覚鈍麻が長期間(・・・おそらく一生)が残ることだ。そのため,せっかく生着したのに「感覚がないので危なくて仕事ができない。これならないほうがマシだ」と患者さんに文句を言われたことがある。恐らく,多くの患者さんは,同様の不便を感じていながらも「でもせっかく先生が頑張って付けてくれたんだから,文句を言ってはバチが当たる」と,文句を言っていないだけではないかと思う。
その点,このサイトで推奨している湿潤治療では完全切断で断端を元に戻さなくても,ほとんど元の形に戻っているし(その1,その2),何より知覚は正常で知覚鈍麻の症例は過去15年間で1例も発生していない。
私は指は「動きと知覚」の両方が正常であって初めて指として機能すると考えているので,知覚鈍麻をきたすcomposite graftは治療としては認めない。
もちろん,「感じが悪くても動かなくても,指が付いているだけで幸せ」という患者さんもいると思うが,そういう指では仕事はできないしむしろ邪魔,という患者さんもまた少なくないと思う。
(2013/02/05)