糖尿病性壊疽:湿潤治療と糖質制限のコラボで完治!


 症例は43歳男性。1年前から口渇感を覚えるようになったが,特に病院は受診していない。仕事はトラック運転手でご飯,麺類が大好きで,仕事中に甘い缶コーヒーを一日に5本以上飲むような生活をずっと続けていた。
 2012年11月22日に突然左足が腫れて痛みで歩けなくなり,26日に近医を受診。血糖値400mg/dl以上,HbA1c 14.4 で糖尿病性壊疽の診断で,11月30日,当院紹介となった。


 当科初診時の状態。

足背外側に発赤 第5趾の皮下膿瘍 足底側にも膿瘍が広がっている

 直ちに膿瘍を切開・排膿を行い,抗生剤の点滴投与を行った。創部は「OpWT(穴あきポリ袋*紙おむつ)で被覆した(鳥谷部先生のサイトに勝手にリンクしています)。第5趾足底側は暗紫色だった。


 同時に内科も受診し,未治療の高度糖尿病として入院となり,血糖管理・減量目的にて糖尿病サポートチームの介入も開始。入院時,身長183cm、体重88kg、BM I126、HbA1c(NGSP) 15%であった。
 当院の栄養管理士は糖質制限に非常に熱心で,同日より「光が丘33ダイエット」に基づく低エネルギー・低炭水化物・満腹感を重視した減量食事指導を行い,職場復帰後も実行可能なチーティングデイ(騙しの日)を取り入れた食事治療を行った。


 切開直後から痛みはなくなり,発熱などの全身症状も起こさなかったが,足背,第5趾はその後も壊死が進行し,12月7日に追加切開を行った。創部の処置は「水道水洗浄,浮いてきた壊死組織のみ切除,被覆はOpWT」のみであり,大規模なデブリードマンは行わなかった。

12月4日 12月7日 12月11日
このくらいの壊死組織は
切除しなくても良い

 足背の切開部は深部から肉芽組織が上がってきて,やがて創面全体を覆った。
 12月20日頃,3kgの減量に成功したことから患者の自己管理意識は高まり、糖質制限による食事療法は継続可能な食習慣となった。

12月18日 2013年1月4日 1月18日 1月22日


 一方,第5趾は全層壊死となったが,炎症症状も骨髄炎の症状も見られないので, 「壊死組織が自然に浮いてとれてくるまで経過観察。骨髄炎などの症状が見られたらすぐにデブリ」 との方針にした。その後は特に感染もこさず,1月25日に「引っ張っても取れそう」な状態になったため,無麻酔で壊死組織を切除した。壊死した皮膚とともにそれに固着している末節骨,中節骨,基節骨遠位が一塊に取れた。

12月28日 1月22日 1月25日 取れた壊死組織と骨 1月29日 レントゲン写真

 その後,足背は上皮化し,第5趾も短縮はしたものの上皮化が得られ,3月19日に当科での治療は完了した。

2月1日 2月1日(第5趾) 2月12日 3月19日 3月19日

 また,2月初めには体重80kg、BMI 24と目標体重への減量に成功し、血糖コントロールもHbA1c 8.0%と改善傾向にあった。3月初めには体重80kg、BMI 24、HbA1c 6.1%と目標体重維持、血糖コントロール改善を確認し糖尿病サポートチームの介入を終了した。
 現在,内服薬を1剤のみ服用しているが,これも投薬終了の方向とのことである。


 12月7日,12月11日の状態を見ると「麻酔下にデブリを行い,壊死組織を根こそぎ除去しないといけない」と考えてしまうが,これは不要である。以前説明したように,デブリードマンとは壊死組織を除去するのが目的ではなく,ドレナージのルートを確保することが目的だからだ。壊死組織が残っていても,ドレナージのルートが確保できていれば,その壊死組織を除去する必要はないと考える。

 また,ドレナージが得られているかどうかは「局所の炎症症状の有無」で判断できる。つまり,腫脹や発赤があればドレナージができていないと考えるべきだし,壊死組織があっても腫脹も発赤もなければドレナージは十分にできていると判断できる。

 デブリードマンとは単に「局所の感染症城に対する治療手段」であるが,ともすると,デブリードマンすること自体が「目的」と勘違いしてしまう。「手段の目的化」だけは絶対に避けるべきだ。


 それにしても,当院の管理栄養士を中心とした「糖尿病サポートチーム」は素晴らしい。こういう管理栄養士,栄養士ばかりだったら,世の中から糖尿病患者は一掃され,「低カロリー+高糖質+低脂肪」の食事指導とインスリンによる糖尿病治療は過去のものとなるだろう。

(2013/03/25)

左側にフレームが表示されない場合は,ここをクリックしてください