インスリンとエントロピーをまとめてみます。
生体は、エネルギーを使って、必死にエントロピー増大則に抵抗している。
糖質はエネルギーになるが生体の構成材料になれず、生体の秩序化(エントロピー低下)に全く貢献できない。むしろ、急激な血糖上昇はエントロピー増大そのものであり、インスリンはその場をしのぐためにこきつかわれる形で疲弊していく。
結果、溜まった脂肪も、インスリンが高い状態が続けば単なる無駄なエネルギーとなり、時間とともに酸化されて、やはりエントロピーは増大していく。
こうしてみると、糖質制限の理論的正しさが、エントロピーという概念で説明できそうです。
「糖質を摂れば、確実にエントロピーを増大させ死期を早めますが、それでも糖質とりますか?」 という結論になると思います。
(この記事のアドレス・・・http://www.wound-treatment.jp/new_2015-05.htm#0530-06:00-2)
食材のエントロピーについて、こう考えます。
例えば、氷・水・水蒸気、エントロピーの高い低いはどうか。水分子のもつ運動量がエントロピーに反映されるので、一番低いのは氷、次は水、一番高いのは水蒸気となります。
だからと言って、氷を食べればひとのエントロピーは下がるかと言えばそうではないでしょう。氷と体温では温度差が大きく、体内で激しく熱の移動が起こります。このとき、総体としてエントロピーは増大します。
ある系において、熱の移動が起これば、系全体として必ずエントロピーは増大します。これは、
①
|
熱は必ず高いところから低いところに流れる。
|
②
|
流れる熱量(ΔQ)は、発する側も受けて側も同じである。
|
③
|
エントロピーの変化ΔS=ΔQ/T(絶対温度)で表せる。
|
で説明できます。
つまり、[氷を食べる→体内で熱の移動が起こる→一時的にエントロピー増大する→増大分のエントロピーは尿(水)として捨てられる]
しかし、失った熱を埋め合わせるために熱の産生、移動が起こり、結局体内のエントロピーは増大します。
よって、エントロピーの低い氷を食べたからと言って、ひとはエントロピーを低く保てるわけではないということです。むしろ、増大します。水分補給を氷でし続ければ、エントロピーは増大し続けて、死を迎えるでしょう。
難しい物理のことは全くわかりませんが、実用的な観点から言えば、生体の秩序を乱すかどうかで考えればいいのではないでしょうか。
秩序を乱すものは「高エントロピー食材」と認定しましょうということです。
糖質や酸化油、トランス脂肪酸などは代表的な高エントロピー食材と考えます。
逆に、秩序維持に役立つものは、低エントロピー食材です。
(この記事のアドレス・・・http://www.wound-treatment.jp/new_2015-05.htm#0530-06:00-3)
エントロピーということばが曖昧になっているのは確かですね。
本来医学専門用語だった「アレルギー」も、ひとによっていろんな使われ方してますし、小学生でも普通に知っているでしょうし、医者とお母さんがたとの間にも認識にズレがあるように感じています。
究極的には医学自体も十分解明できていないと言えるでしょう。
ぼく自身、エントロピーについての理解は感覚的です。
ただ、理想気体におけるエントロピー量の方程式を思い出すと、物質中の原子や分子の粒子数、各粒子の運動エネルギー、運動可能空間が決定因子となっていたと記憶しています。
これを、ひとまとめにしてしまうと、エントロピーというのは、ある孤立系における「乱雑さの総量」と言い換えられそうです。
そして、系を開放して熱の移動が可能になれば、高温系でのエントロピーは低下するが、低温系でのエントロピーは増加します。ただし、両系全体としては、先のメールで示しましたように、エントロピーは増大します。
生体は、化学エネルギー(食糧)を酸化(燃焼)させることで、ATPに変える。一部は、熱エネルギーとして逃げていく。ATPを介して力学的エネルギーに変えていくといった熱機関の一種とするなら、熱力学の法則に縛られているはずではないかと考えました。
でも、生命現象はエントロピー増大に逆らっているように見えます。生命=秩序(非乱雑さ)維持に他ならないからです。
では、どうやって?
ひとつには、各分子のもつ運動エネルギーを抑えるため、熱エネルギーを体外に放出することが大事でしょう。
もうひとつですが、生物の中で最も大きな細胞といえば、卵子です。ヒトの細胞で最大な細胞も卵子らしいですし、イクラとかダチョウの卵とかみても、うなづけます。
卵子の大きさは、とりあえず胚が育つのに必要なエネルギーと、細胞が大きくなりすぎるためによるエントロピー増大とのトレードオフで決まっているのではないでしょうか。
つまり、栄養いっぱい詰め込んでおきたいけど、詰めすぎるとエントロピー最大で崩壊する、そのギリギリのところで決まっているのではないかと。
その証拠とまでは言えませんが、卵は受精後、すぐさま分裂を開始します。別にとりあえず大きくなってもよさそうなのに、細胞分割をおこないます。
受精卵は体内にあり、最初は血流も乏しく放熱が難しいので、代謝活動が始まった途端、細胞分割してエントロピーの増大を防ぐしかないのではないでしょうか。
つまりもうひとつの方法ですが、細胞膜による「分離」ではないでしょうか。混ざった2種類の流体を放置しても「分離」することはない、というのはエントロピー増大則の表れですが、生体は、これに逆らい、混ざった細胞成分をきっちり分けていきます。もちろん、エネルギーを使ってでしょうが。
この細胞膜の「分離」機能が、エントロピー維持に鍵を握っているのではないかと思えてきます。
細胞膜の機能とエントロピー。
細胞膜の機能こそが、生命=秩序維持に最も重要な因子ではないでしょうか。
ひとにおけるエントロピーも細胞膜の機能も簡単には定量化できまでん。
ただ、細胞膜と言えば、脂質二重構造です。
血液中の脂質プロファイルを測定すれば、そのひとの細胞膜脂質の構成を推測でき、炎症起こりやすい=秩序乱れやすい=エントロピー増大しやすいかを、ある程度反映しているのではないかと考えて、現在データを集積中です。
注目するのは、ω6脂肪酸とω3脂肪酸の構成比率です。
これは、糖質摂りすぎ、リノール酸の多い精製植物油の摂りすぎ、穀物で太らせた獣肉の摂りすぎ、魚油・海藻類の摂らなさすぎを反映すると考えます。
結果、エントロピー量や細胞膜機能とどの程度関係あるかは全くわかりませんが、ただ臨床やるだけではつまらないので、こんことも考えながら、やってます。もちろん、検査費用は自腹です。
(この記事のアドレス・・・http://www.wound-treatment.jp/new_2015-05.htm#0530-06:00-4)
先生の仰る通り、糖質制限で頭がよくなったような気がしないでもないですね(笑)。もう68歳にもなりましたが大昔勉強した熱力学を思い出させて頂きました。
確かにエントロピーについての誤解が大いに目立ちます。特に「エントロピー増大の法則」が誤解されています。
この「法則」は、「宇宙は膨張している」ということが前提です。逆に「宇宙は圧縮している」を前提にすると「エントロピー減少の法則」が成り立ちます。
先生の仰る通り地球上ではエントロピー減少はどこでも、いつでも起こりえます。日常においても自動車エンジン・冷暖房装置・火力発電所などなどエントロピー増大と減少の連続的な繰り返しです。
さて、シュレディンガーの言う「負のエントロピーを食べる」ですが、以前私は「生命熱機関説」などとトンデモ仮説をたてましたが、生命体の恒常性を説明するのにうってつけだと思ったからでした。 また、シュレディンガーの言う負のエントロピーは、これは私の勝手な想像ですが、恒常性を説明したものと思います。
古くて超最新の外燃機関にスターリングエンジンというのがあります。海上自衛隊の最新鋭潜水艦にこのエンジンが使用されておりまして、オーストラリアへのこの潜水艦の輸出(いいも悪いも)が話題になってますが、皆様ご存じだと思います。
このエンジン、生命体の活動によく似てるん ですよね。 このエンジンの玩具も沢山売られています。永久機関(手のひらでクルクル回り続ける)の手品ができます。
要はカルノーサイクルの応用で高効率エンジンです。
生命維持を考えると、「冷やす」ということも念頭に置いていたほうがいいかも知れませんね。
「スターリングエンジンの玩具」ってこういうのでしょうか。
(この記事のアドレス・・・http://www.wound-treatment.jp/new_2015-05.htm#0530-06:00-5)
「インスリンとエントロピー」に関しては、先生のまとめで一段落でしょうか。
地球が冷えてエントロピーが低下する過程で一度しか生命誕生の機会がなかったというのは面白いと思いました。エディアカラやカンブリア紀には急激にエントロピー低下を招く要因があったのか、と考えたくなります(あくまでエントロピー低下は説明用で原因とはいいがたいと思いますが)。
さて、シュレディンガーの本(岩波文庫)が見つかりましたので、エントロピーの関連個所を読み飛ばしてみました。
「負のエントロピー」に関しては、シュレジンガー自身も若干弱気のようですね。わざわざ注を付けていて(147ページ)、
「負エントロピーに関する私の議論は物理学者の仲間から疑義や反駁を受けました。」「もし私が物理学者だけの気に入るように話を進めていたらエントロピーの代わりに自由エネルギーについて論ずべきであったということです。」
などと書いています。
さらに訳者解説の注(214ページ)にも似たようなことが書かれています。
「負エントロピー」という言葉は、その直後の原注にも関わらず、やっぱり誤解を招きやすい言葉だ
とあって、エントロピーには熱力学と情報理論の2種類のものがあり、
この両者が分子生物学などの大学教授などによっても、しばしば混同され、過誤や混乱を助長しているからだ。私はたまたま最近(2007年)出版された通俗科学書ベストセラーものの一つに、この混同と過誤の誠に見事な標本を見つけたので、ここに引用する
として、ある新書の一部が引用されていました。
それにしても、シュレジンガーは本書をまともに読めば(一部略)分かるように、タンパク質のような有機高分子の秩序を負のエントロピーの源だなんて言ったのではない,と続けられています(この辺りはどうかな、と思いますが)。
今回のトピックは頭を動かすうえで良い機会と思いました。トピックの提供者と場の運営、コメントとまとめをしていただいた先生に感謝です。
(この記事のアドレス・・・http://www.wound-treatment.jp/new_2015-05.htm#0530-06:00-6)
そういえば、先生は、夏場いっぱい歩いても脱水にならないとおっしゃっていました。糖質制限していると脱水症状が出にくいということでうよね。
脱水って、「水の問題」かと思っていましたが、もしかすると「脳におけるエントロピーの問題」? つまり、もともと糖質過剰摂取傾向のひと、言い換えるとエントロピー溜まりぎみのひとは、熱の放散がしにくい環境におかれると、たちまち脳におけるエントロピーの限界に達してしまうという解釈です。
とすると、水分補給に糖質たっぷりのイオン飲料は危険ですね。
ガン細胞も不思議です。
代謝活動が活発なので、エントロピー溜まりそうですが、ある意味寿命がないとも言われます。この場合は、激しい分裂増殖でエントロピーを低く維持しているのでしょうか。
そういえば、ガン細胞は高温に弱いということで、温熱療法というものがあったように記憶しています。ガン細胞だけをターゲットにエントロピーを増大できたら、簡単に死滅させることができそうですが、そんな方法はあるでしょうか。
話はそれますが、精巣がぶら下がっているのも、冷却効果によるエントロピーの増大抑制なんでしょうか。
絶対揺るがない法則から生命を見直してみると、全く違った解釈ができて面白いですね。
これも、夏井先生のおかげです。50歳すぎて、科学小僧のような状態になり、興味好奇心が泉のように湧いてきます。
(この記事のアドレス・・・http://www.wound-treatment.jp/new_2015-05.htm#0529-06:00-6)
先生のまとめを拝読いたしました。個人的に引っ掛かりを感じたのは以下の点です。
◆
|
一般的な考えからすると、細菌も熱力学第2法則には従っているのではないでしょうか。エネルギーを取り込み、排せつ物を出して、何らかの形で「生きているもの」でこの法則を逃れられるものがあるとは思えません。
|
◆
|
エントロピーが低い食材と言うことが可能かどうか。「消化利用するのにエネルギーが低くて済む食材」ならば分かります。先のメールに書かせていただいた通り、エントロピーは系の状態を示す指標なので、系の外部からエネルギーのように取り入れることはできないと思います(一般教養レベルの知識で書いていますので明明白白な誤りであればご容赦ください)。
|
◆
|
牛馬やパンダの存在をどう理解するか。「草や竹はエントロピーが低いのでしょうか、高いのでしょうか」。草も生きているので「低い」と理解すべきか(蛋白質や脂質よりは高い)、あるいは、消化利用するために蛋白質や脂質よりエネルギーを余計に要する(胃腸内細菌の力を借りる)とすべきでしょうか。
|
良い機会ですのでシュレジンガーの本を探し出して再読してみようと思っています。
(この記事のアドレス・・・http://www.wound-treatment.jp/new_2015-05.htm#0529-06:00-8)
言葉は独り歩きします。その結果,本来の意味とかけ離れた使われ方をするようになることは珍しくありません。エネルギーとかカロリーなどはその最たる例ですし,エントロピーもその一つと思われます。
自然界には一方向にしか進まない現象があります。「熱いお湯と冷たい水を混ぜるとぬるま湯になるが,ぬるま湯がひとりでに冷たい水と熱いお湯に分かれることはない」というのがその例です。あの『マックスウェルの悪魔』では運動エネルギーの大きな水分子を赤球,小さな水分子を白球とし,混ざり合った状態と分離した状態の「場合の数」を計算し,確率的に後者しか起こりえないことを説明しています。熱力学では。「混ざり合った状態」はエントロピーが大きい,「分離した状態」はエントロピーが小さい,と定義したわけです。
「熱いお湯と冷たい水が分離している状態」はエントロピーが小さく,「両者が混ざり合ったぬるま湯」はエントロピーが大きく,自然界ではエントロピーが増大する方向に反応が進む,というのが熱力学第二法則(エントロピー増大則)です。
熱力学や物理学の世界では「エントロピー」というのは確固たる基礎概念・共通概念であり,誤解が生じる余地もなければ誤用されることもありません。水素原子が水素原子であり,ベートーヴェンがベートーヴェンであるように,エントロピーはエントロピーです。
なぜ,熱力学の世界で誤解が生じないかというと,エントロピーという概念の定義部分に「熱力学(と統計力学)では」という但し書きが書かれていて,それは物理学者の間では暗黙の了解になっているからです。
ところが,「グローバル化して世界は混沌としてきた。これがエントロピー増大則である」というように説明する社会学者がいたりするから話は混乱してきます。「エントロピーは熱力学の現象を説明するための概念である」という「但し書き」を無視して,社会現象を説明するのにも使ってしまったからです。しかも始末が悪いことに,なぜかこの説明はしっくりきてしまうです。その結果,物理学の外で「誤解/誤用されたエントロピー」がひとり歩きする事態が生じます。
恐らく,シュレディンガーが考えた「生命体は負のエントロピーを外部から取り入れることでエントロピーを小さく保つ」という「エントロピー」も,実は「誤解/誤用されたエントロピー」ではないかと思われます(私ごときが大天才シュレディンガーに文句を言っていいのだろうか)。もちろん,シュレディンガーは物理学者であり,エントロピーの意味を正しく理解していたはずなのに,なぜか生物のことを考えているうちに「これって熱力学のエントロピーと同じだよね」と思いつき,その思い付きに囚われてしまったのかもしれません。
エントロピーが減少する現象は多数見られます。
例えば,原始太陽系の元になったのは巨大な分子雲であり,それが重力で互いに引き合って集合し,中心部が太陽となり,残りは扁平な原始惑星円盤を形成し,そこから惑星が誕生したと考えられています。最初の分子雲は「エントロピー最大」状態で,現在の太陽系(太陽と幾つかの惑星,小惑星,衛星に分離)は「エントロピー最小」状態であり,あたかも熱力学第二法則に反しているように見えます。
では,何がエントロピーの小さな状態にしたかといると,重力,つまり万有引力の法則です。万有引力の法則のために分子雲の中に濃淡が生じ,やがて分子が集まった部分とスカスカの部分に分離し,万有引力によりさらに反応が加速度的に進み,太陽と惑星が分離し,太陽の周りを惑星が回っている「エントロピー最小の状態」で安定したわけです。
つまり,太陽系の進化の原動力は万有引力の法則であり,その結果としてエントロピーは減少しました。
地球についても同様で,万有引力の法則で微惑星同士が集合し衝突することで原始地球が誕生しました。引力は質量に比例し距離の二乗に反比例するので,少しでも大きな塊ができればさらに多くの微惑星を引き付けることになり,通常,同一軌道内では1個の惑星が形成されます。
46億年前のできたてホヤホヤの地球はマグマの塊みたいなもので,エントロピーは最大でした。その後,周囲の宇宙空間に熱を発散することで表面から次第に冷えていき,中心部の核とそれを取り巻くマグマ・オーシャンという二層構造になり,エントロピーは低下します。さらに温度が低下すると三層構造(中心核,マントル,地殻)となり,表面温度が100℃以下になった時に液体の水が存在できるようになり,海が誕生します(これが43億年前)。現在の地球はこのような多層構造であり,エントロピーは地球史上最小となっています。地球は誕生以来,エントロピーは一貫して低下していますが,これは温度が低下するとともに融点の高い物質から順に分離していった結果です。
つまり,地球進化の原動力は,周囲宇宙空間への熱エネルギーの放出です。
以前紹介した『生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像』では,43億年前から38億年前の地球自体の変化の中で,「泡に包まれた有機物(=周囲に比べエントロピーが小さい)」が形成され,それが選択され,生き延びていった条件が(たまたまタイミングよく)成立していた,と説明しています。そして地球は宇宙空間に熱を放散し続けながらよりエントロピーが小さい状態に進化していきますが,新しく生まれた「原始生命」はそういう環境の変化の中で,よりエントロピーが小さい状態に変化し,より生命体らしく進化していったと説明しています。
つまり,地球における生命の誕生と進化は,地球進化史と表裏一体であり,地球進化のある一時期の条件のもとで生命はただ一回誕生したことになります。つまり,生命誕生はただ一度しか起きなかった奇跡的イベントだったことになります。現在の地球は「生命を育む」環境ですが,「ゼロから生命を生み出す」環境ではないのです。
熱力学のエントロピーは反応が進む方向を説明してくれますが,エントロピーの増減そのものが反応を進めるわけではありません。
私の解釈(違っているかもしれないけど)では,エントロピーとは「物の状態」を表す数値で,長さとか面積とか速度と同じです。「長いものを食べたから身長が伸びる」ことがないように,エントロピーが小さいものを食べても自分自身のエントロピーが小さくなるわけではありません。
生物は「体を維持するための材料」と「エネルギー源となる物質」を取り込み,エネルギー源となる物質に含まれる自由エネルギーを酸素呼吸などの代謝サイクルに乗せてATPに変え,体を維持しているだけのことです。エントロピーという言葉を持ち出す必要はありません。
(この記事のアドレス・・・http://www.wound-treatment.jp/new_2015-05.htm#0529-06:00-9)
前回のメールに関してコメントいただきありがとうございます。心から光栄に思います。
調子に乗ってはいけないと思いつつ、ちょこっとだけ続きを考えました。
細胞をすごく単純化して考えると、細胞は、「自己複製情報系」と、エネルギー産生やたんぱく合成などの「エネルギー・物質代謝系」から構成されていると考えられます。
細胞ひとつですと、代謝活動に伴い熱エネルギーが産生され、すぐさまエントロピー最大に陥り、細胞崩壊に至ると思います。白血球なんかがそのイメージでしょうか。とくに好中球は寿命が時間単位らしいですし。
そこで、生命(細胞)は考えたのではないでしょうか。この方法では、エントロピー増大の法則に支配されたままになってしまう。何とか支配から逃れられないだろうか。
エントロピー増大に抑制をかけるためには、細胞を大きくするより、小さな細胞を増やした方が、単位体積あたりの表面積が大きくなり、「熱エネルギー」という形でエントロピーを放出しやすくなるし、「分離」という形で細胞ひとつ当たりのエントロピーを低下させることができる。
多細胞生物の出現の必然性(?)がここにあったのではないでしょうか。と同時に、細胞の増殖・分化成熟を促すインスリン様物質が登場し、生命はエントロピー増大の支配から逃れ始め、寿命延長に成功したのではないでしょうか。
そして、ここから長い長い進化の歴史が始まった(?)。
すなわち、生命の進化の歴史は、宇宙の絶対法則である「エントロピー増大の法則」からの脱却だったのではないでしょうか。
ダーウィンの自然淘汰というのも、その時その時の環境において、エントロピーを低く維持できる生物種の勝利だったと言い換えることはできないでしょうか。
そういった目で見ると、いまのヒトは、ものすごい勢いで、地球全体および自己体内のエントロピーを増加させていないでしょうか。
糖質制限(インスリン追加分泌抑制)は、その流れに一矢報いるものとなるのでしょうか。
風呂敷広げすぎました。
あくまで、軽いのりでの思考なので、厳しい批判はご容赦ください。
(この記事のアドレス・・・http://www.wound-treatment.jp/new_2015-05.htm#0528-06:00-2)
素朴な疑問の一つは、エントロピーは食べられる(取り入れる)ことのできるものかということです。
普通に考えると、温度、圧力などのように、状態を表す量の一つと思われ、外界からエントロピーを熱エネルギーのように直接取り入れられるとは思えません。あくまで系の状態を表す指標ではないでしょうか。直接計測もできないと思います。
一つの表し方としては、
S=logW
的なものがあり、この場合、Wは系が取りうるケースの数と考えればよかったと思います。発生から人間になるまでを追えば、何にでもなれる胚(Wが大。iPSもこの一種か)から、機能を限定された一つの働きをする末端の細胞(Wが小)へ変化してゆくわけで、取りうる可能な状態が、大→小へとなるため、エントロピーが減少するプロセスといえるのかもしれません。
いったん体が出来上がると、それぞれの細胞はその維持を図ることになり、そのためエネルギー(糖類、脂肪酸でしょうか)を取り込み、そのエネルギーを使って自身を作り替えると同時にその機能(神経、骨、肝臓そのほか)を果たしてゆくことになると思います。この際、完全に非可逆の過程(エントロピー変化=ゼロ)はありえず、いわば少しづつエラーが生じることになり、その結果エントロピーが増加し、やがて崩壊につながることになると想像します。
このプロセスでは、エントロピーの別の見方をすることができると思います。
⊿S=⊿Q/T (Qは熱エネルギー、Tは温度)
つまりエントロピーの変化のためにはエネルギーの出入りが必要ではないかと。この意味で、エントロピーを変化させるためにはエネルギー変化が必須であって、両者は分かちがたいのではと思われます。少なくともエネルギー争奪が先に来ないことには、エントロピー変化は起きないのではないでしょうか。
上記のように通常の細胞活動では、各細胞のエネルギー取り込み/排出において⊿S=0になっていると思われますが、⊿Sが+になってゆくと(幾分かは修復されるにせよ)崩壊への道筋をたどることとなります。逆に+であることが崩壊を示しているとも言えます。
インスリン(+IGF)が直接エントロピーに関与するかどうかですが、これらは細胞の数を増やすことや細胞へのエネルギー供給に関与するホルモンであり、機能分化に関与するものではないこと(正しいでしょうか)を考えるとエネルギー供給/取り出しの面(⊿Q)からエントロピーに寄与していると思えます。
(この記事のアドレス・・・http://www.wound-treatment.jp/new_2015-05.htm#0528-06:00-5)
私の考えをまとめてみます。
◆
|
生物でエントロピーが低い状態とは「生きている」状態,エントロピーが高い状態とは「死んでいる」状態。死んで死体が腐敗(=細菌や微生物による分解)するとエントロピーは大きくなり,土に還った時にエントロピーは最大になる。
|
◆
|
細菌には「個体の死」という概念はないが,それ以外の生物には「個体の死」が必ずある。つまり,細菌以外の生物は結局,「エントロピー増大則(熱力学第二法則)」には勝てない。
|
◆
|
生物がエントロピーが小さい状態(=生きている状態)を維持するためには,細胞,組織,器官を常に「スクラップ&ビルド」するしかない。これが「動的平衡」
|
◆
|
動的平衡を維持するためには,①細胞や組織を作るための材料,②材料を使って細胞や組織を組み立てるためのエネルギー,の2つが必要である。
|
◆
|
これら2つは自分では生み出せないので外部から取り入れるしかない。これが「摂食行動」の本質的な意味。
|
◆
|
蛋白質や脂質,炭水化物を加熱すると変性し,最後は炭化してエントロピーは最大となる。炭化したものを摂取しても炭素しか摂取できず,「体を作る材料」は1種類のみとなり食材としての価値は最も低い。つまり,蛋白質も脂質も炭水化物も,過熱すればするほど「体を作る材料の種類」が減少し,「エントロピーを低く保つための食材」ではなくなっていく。
|
◆
|
非加熱の蛋白質と脂質はエントロピーが低い食材であり,体の動的平衡を維持するための素材(=栄養素)を最も多豊富に含む食材と考えられる。しかも,それ自体が動的平衡を維持するためのエネルギーとなる。つまり,結果的に「エントロピーの低い蛋白質と脂質を食べることで,体はエントロピーを低い状態に維持できる」ことになる。
|
◆
|
穀物や砂糖などの糖質は「細胞や組織を作る材料」をわずかしか含まない食材であるが,非加熱状態のデンプンはβデンプンであり,動物にとっては食物繊維の一種であり消化・吸収できない。
|
◆
|
βデンプンを加熱するとαデンプンとなり,吸収できるようになる。人類は大量の加熱デンプンを食べた最初の生物だが,それが高血糖をもたらし,インスリンの大量分泌を起こすことまで予測して食べ始めたわけではなかった。その結果,何が起こったかは皆様ご存知のとおり。人体・人類は大災厄に見舞われた。
|
◆
|
穀物は「体を作る材料」をわずかしか含まないが,穀物を精製することで,そのわずかな素材さえも除去される。
|
(この記事のアドレス・・・http://www.wound-treatment.jp/new_2015-05.htm#0528-06:00-6)
昨日紹介した
「インスリンとエントロピー」というメールは実に刺激的で,私もさまざまに想像を膨らませています。
現在,私が考えているのは,「地球最初の生命体にとってエネルギー獲得とエントロピー低下,どちらが優先課題だったのか?」,「単細胞生物から多細胞生物になるためには十分にエントロピーを下げないといけないはずだが,そのために必要なエネルギーはどこから調達したのか?」,「エディアカラ紀の生物とカンブリア紀の生物では,エントロピーは後者の方が小さいと思われるが,その違いはなぜ生まれたのか?」・・・などについてです。
初期生物にとってエネルギー争奪とエントロピー争奪,どちらが最優先課題だったのでしょうか。もしかしたら地球上の生命体は,エントロピー争奪戦を通して,結果的に進化してしまったのかもしれません。
ちょっと補足すると,私が一番最初に「エントロピー」という概念に出会ったのは,
『炭水化物が人類を滅ぼす』のあとがきに登場する『マックスウェルの悪魔』。中学1年生の私にはいささか難しかったですが,その魅力的な語り口と絶妙の比喩のおかげで,私を科学の世界に導いてくれた名著です。
「生命とエントロピー」の関係を一番最初に看破したのはシュレーディンガー
(有名なパラドクス,「シュレーディンガーの猫」の提唱者)。量子力学を作り上げた巨人の一人ですが,1944年に出版した『生命とは何か―物理的にみた生細胞』では物理学者の目から生命現象を見直した時,全く新たな知の地平が切り拓けることを,これまた見事な筆致で説明していきます。これぞ比類なき名著。
(この記事のアドレス・・・http://www.wound-treatment.jp/new_2015-05.htm#0527-06:00-6)
研究職でも何でもない素人です。まず「エントロピー」の理解から苦労しましたが、未知の知識への理解を増やして思考の世界を広げるのは楽しいですね!
「エントロピー」は「(不可逆の)分散・発散・崩壊」の尺度なので、「生命におけるエントロピーの増大」は「生命の崩壊」…差し詰め「死に近づくこと」でしょうか? 「分散・崩壊」の対義語は「秩序化・結晶化」になるので…
◆
|
生命は、生命活動によるエントロピーの増大によって破綻していくものである(細胞の崩壊→老化→死)
|
◆
|
生命はエントロピーの増大に抵抗するために、増大したエントロピーの体外への排泄と自己組織化(秩序化・結晶化)による修復のシステムを開発・発達させた(=寿命の延長)
|
◆
|
自己組織化による修復システムの一端にインスリン様物質が存在する(単純な有機物を複雑な細胞や組織に変換(秩序化)することで、エントロピーを低下させるもの)
|
◆
|
恒常性の維持をより効率的に行うには、エントロピーの増大因子(≒老化の原因となるもの)を削減し、修復の必要性を最小限に留めなければならない(修復システムを摩耗させないため)
|
…と解釈して、まとめてみました。4項目の意味を逆転させて考えると、
◆
|
エントロピーの増大因子を回避することで、修復可能である限り最も若い状態を長く維持できる(肉体年齢の若年化・健康寿命の延長)
|
という説も有効でしょうか?ユニークで興味深いアプローチだと思います!
ただ、その方法論である「動物食にしろ植物食にしろ、最低限の加工や加熱で、なるべく命の見える形で食する」という食餌法なのですが、「加工や加熱」を極力控え、生きたままの食材を頂く食餌法で「ローフード(Raw Food)」と呼ばれるものがあります。
ちなみにローフードでは、加熱による寄生虫や病原性細菌への対策や、加熱調理によって吸収が効率化される栄養素を蔑ろにしてしまうことになるので、「良い食餌法」とは言い難い面があります。
「ゼロはダメ、過剰なのもダメ」という前提の元に「低エントロピーダイエット」の理論を教育・実践出来るレベルにするには、「エントロピーの増大が少ない食材」の選別はもちろん、「エントロピーが増大しない調理法」を食材毎に確立し、体系化して提示しなければなりません。
加熱系に発酵系に乾燥系に…調理法の多様化に対して科学、特に栄養学の解明は十分ではなく、理論を構築するのは容易ではないように思いますが…
ひとまず。「生活様式の分化・多様化の果てに長期生存に成功した者」の生活様式からもヒントは得られると思います。
何せ私たちは「生命の分化・多様化の果てに生存繁栄に成功した生物」です。
「エントロピーの増大を回避する機構」を「生命」の維持のために発達させた結果、人類が繁栄した。…という現代を得たのだから、「エントロピーの増大を回避する手法」を「生活」の中に組み込んでいた結果、彼らは長期生存に成功した。…という説も成立するはずです。(結果論から得られる回答は「統計学的に有意な説」ですが、生命科学で証明可能か検証する価値はあると思います)
最近だと「肉食シニア」をはじめ、「肉食系老人は元気で長寿!」というのを頻繁に見かけるようになりましたね。(肉食系老人は「腹八分」を気にしていないような気がするのですが、気のせいでしょうか?)
とりあえず一般人たる私は、「暫定的な方法論は糖質制限の継続でいいや」という所に落ち着こうと思います。こだわりが過ぎて、多様化していく世界を楽しめなくなる状態もまた、精神的ストレスという意味でエントロピーが増大してしまいそうですので。
(この記事のアドレス・・・http://www.wound-treatment.jp/new_2015-05.htm#0527-06:00-7)
インスリンとエントロピーの関係について考察しました。
小児科領域では、耐糖能異常の母体から巨大児が産まれやすいことはよく知られています。インスリンの細胞増殖作用が関与していると考えます。これは、単純な有機物から複雑な細胞や組織を構成することになるので、エントロピーについては低下させていることになるでしょうか。
一方、生命現象というものは、シュレディンガーの「生体は負のエントロピーを食べている」に表れるように、エントロピー増大の法則に逆らう現象です。
ここで、ひらめきました。
動物は、インスリンによってエントロピー増大の法則に抵抗しているのではないかと。(植物は、地球上で最もエントロピーの低いと言われる太陽光を取り入れて生命を維持していると考えます。) 糖質、とくに精製したものは、とりわけエントロピーが大きい物質ではないかと。
確かに、インスリン分泌がなくなれば、例え糖質ゼロでも他の臓器が正常であったとしても、生体の恒常性は維持できず、数日内に破滅を向かえるでしょう。(ただし、インスリンが多すぎても、蓄積エネルギーが無駄に増えるだけで、やはりエントロピーは徐々に増大し破滅を向かえるでしょう。)
とするなら、地球上に動物種が誕生したかなり早い段階からインスリン様物質は存在していたのではないでしょうか。
インスリン様物質、すなわちエントロピーを低下させる(増大にブレーキをかける)ものがなければ、エネルギー産生のたびにどんどんエントロピーは増大し、あっという間に死を向かえるはずです。その場合は、分裂様式によってさっさと遺伝子を残す方法をとらざるを得ないでしょう。少なくとも悠長に有性生殖などしている時間はないのではないでしょうか。
インスリン様物質は、動物種がエントロピー増大に抵抗しながら寿命を伸ばし進化していく過程で重要な役割を果たしたのではないでしょうか。
現在のヒトにおいては、糖質や精製植物油などが高エントロピー食材の代表的なもので、インスリンや抗酸化システムで、エントロピー増大に必死で抵抗しているのではないでしょうか。
あげる、いためるなどの高温調理も食材のエントロピーを増大させてないでしょうか。
エントロピー増大が局所的に制御不能になれば、その組織の構造や生理機能は破綻し病気となって現れるし、全身に及べば死を迎えるのではないでしょうか。
とするなら、動物食にしろ植物食にしろ、最低限の加工や加熱で、なるべく命の見える形で食するのが最もエントロピーが増加しにくいダイエットではないでしょうか。
名付けて「低エントロピーダイエット」ですが、理論としてどうでしょうか。トンデモ理論でしたらどうぞご容赦ください。
(この記事のアドレス・・・http://www.wound-treatment.jp/new_2015-05.htm#0526-06:00-4)