1. なぜ人間は牛乳を飲んではいけないのか
先に「現代牛乳の魔力」で詳しく述べたように、妊娠した牛から搾られている現代の牛乳には大量の女性ホルモン(卵胞ホルモン<エストロジェン>と黄体ホルモン<プロジェステロン>)が含まれている。クリーム・バター・チーズなどの乳製品には女性ホルモンがさらに高濃度で存在する。私は、この女性ホルモンが女性の乳がんと男性の前立腺がんの最大の誘因であると考えている。
人間がこのようなホルモンたっぷりの牛乳を飲むようになったのはたかだかここ7、80年前のこと(1930年ごろから)に過ぎない。乳製品消費量の増えた1950代以降、欧米で、尿道下裂・停留精巣・精巣悪性腫瘍などの小児期男性生殖器異常*1が著しく増えた。同時に、肺がん*2・大腸がん・乳がん・前立腺がん・卵巣がん・子宮体部がんなどの悪性腫瘍も著しく増加している。日本でも、生まれたときから乳・乳製品を飲んだり食べたりした人々(1960年以降に生まれた人たち)が大挙して50代に突入している(日本はほぼ30年遅れて欧米の跡を追っている)。
*1デンマークのスカケベック(Skakkebaek)は、精巣腫瘍、尿道下裂、停留精巣などの男性泌尿生殖器の異常や成熟してからの精子の質・量の低下には共通の要因が関わっているとして精巣発育不全症候群(testicular dysgenesis syndrome、TDS)という概念を提唱した*。スカケベックは共通要因として外因性内分泌かく乱物質(環境ホルモン)を想定しているが、いわゆる環境ホルモンにこのような力はない。
*Skakkebaek NE, Rajpert-De Meyts E, Main KM. Testicular dysgenesis syndrome: an increasingly common developmental disorder with environmental aspects. Hum Reprod 2001;16: 972-8.
*2肺がんの最大の原因はもちろんタバコである。喫煙者は男性>女性であるから、当然のことながら肺がんは男性に多い。しかし、非喫煙者に限って比べてみると、肺がんは女性に多い*。女性ホルモン(エストロジェンとプロゲステロン)が肺がんの発生に関与しているからである。非喫煙者の肺がんは間接喫煙(受動喫煙)によるものだという意見もあるが、現在増えている肺がんはほとんどが腺がんである。腺がんには女性ホルモンに感受性を示すものがある。現在の世の中にはタバコを極重悪人に仕立て上げ、責任のすべてをタバコに押し付ける風潮がある。
*Marquez-Garban DC, Mah V, Alavi M, Maresh EL, Chen HW, Bagryanova L, Horvath S, Chia D, Garon E, Goodglick L, Pietras RJ. Progesterone and estrogen receptor expression and activity in human non-small cell lung cancer. Steroids. 2011;76 :910-20.
42歳で乳がんになり、乳房切除、放射線照射、抗がん剤治療を経験したイギリスのジェイン・プラント(Jane Plant)教授は、乳製品を完全に断ちきることによって、再発・転移をくり返す乳がんを克服した。プラント教授は、科学者の眼で自らの乳がんを省察し、類い稀な帰納的推理力を駆使して「乳がんは乳・乳製品によって起こる」という結論に達し、2000年に『YOUR LIFE IN YOUR HANDS』(日本語版『乳がんと牛乳ーがん細胞はなぜ消えたか』)という感動的な書物を著した。プラント教授は「中国人に乳がんが少ない」「中国人は乳製品を食べない」という素朴な事実から、直感的に「乳がんは乳製品によって起こる」という仮説を導き、厖大な文献考察によってその仮説を検証した。ただし、プラント教授の「牛乳ー乳がん」説の中核をなす物質はエストロジェンではなく、乳・乳製品に含まれているインスリン様成長因子1(IGF-1)である。
下垂体前葉が分泌する成長ホルモンは、細胞分裂を促して成長を促進するホルモンとしてよく知られている。成長ホルモンの成長促進作用は、このホルモンの直接作用ではなく、その刺激で肝臓などから分泌されるインスリン様成長因子-1(IGF-1)によってもたらされる間接作用である。成長ホルモンそのものはヒトとウシで異なるが、その刺激によって産生されるIGF-1はヒトとウシで同一である。したがって、乳・乳製品の摂取によって人間の体内に増えるIGF-1は人に対しても成長促進作用を示す。
IGF-1は70個のアミノ酸からなるポリペプチドで、牛乳には4〜50ng/mlのIGF-1が含まれている[1]。酪農業界の代弁者は、「唾液のIGF-1が消化管で分解される。だから、牛乳のIGF-1も消化管で分解されるはずだ。牛乳中のIGF-1が吸収される(血液に入る)ことはない」などと反論する。この反論はもっともらしく聞こえるが事実は異なる。
牛乳と唾液は違う。牛乳のIGF-1は、カゼインというタンパク質に保護されているため、胃液と消化液による分解を免れるのである。ポリペプチドであるIGF-1の吸収メカニズムは明らかではないが、乳・乳製品の摂取によって血液中のIGF-1が増えることは周知の事実である。乳・乳製品中のIGF-1がそのまま吸収されるだけでなく、カゼインなどの牛乳成分がIGF-1の体内産生を促すという意見もある。たとえば、450mlの牛乳を18ヵ月間飲んだ女の子(12歳)の血中IGF-1濃度は150mlの牛乳を飲んだ同年齢の子どもに比べて10%高かった[2]。また、タンパク質含有量が等しい無脂肪乳(1500ml)あるいは低脂肪肉(250g)を8歳の男の子に7日間与えた実験で、牛乳群の血中IGF-1濃度が肉群にくらべて19%増えたという事実は、牛乳によって血中のIGF-1が上昇することのよい証拠である[3]。さらに、モンゴル・ウランバートルの46名の学童(10〜11歳)に1日710mlのアメリカの超高温殺菌の市販牛乳を1カ月にわたって飲ませたところ、血液中IGF-1濃度が290・9から358・3nmol/mlへと23%上昇したという報告もある[4]。
赤ん坊の細胞分裂を刺激するようにデザインされた物質を、成熟した人間が口にしたらどうなるか。ミルクに含まれているIGF-1は、細胞の分裂増殖が最も盛んなとき(子どもでは乳児期と思春期。おとなではがんに罹ったとき)にその力を発揮する。離乳期を過ぎた人間は牛乳などを飲んではいけないのである。
2. 乳がんは欧米の風土病である
乳がんはアジアに比べて欧米に圧倒的に多い病気である(図)。この図は1997年までの欧米(アメリカ・イギリス・カナダ・デンマーク)とアジア(日本・タイ)の乳がん罹患率(IARC<国際がん研究機関>のデータ)を示している。欧米とアジアの罹患率の差は歴然としている。なぜ、欧米とアジアでこんなに違うのか。人種による差でないことは移民研究で明らかになっている。乳がんの少ない日本から乳がんの多いアメリカに移住した日本人が現地の生活を取り入れると、アメリカ人並みに乳がんに罹りやすくなる。つまり、遺伝(人種)ではなく、欧米人の生活(食生活)そのものに乳がんの原因があるのだ。欧米とアジアの食生活で最も大きく異なるのは乳・乳製品の摂取量である。欧米人は大量の乳製品を口にする。一言で言うと、バターとクリームの香りに満ちた食生活(バタ臭い食品を食べる)が欧米における乳がん流行の原因なのだ。乳がんは欧米の風土病である!
上に述べた欧米とアジアの国々の間で乳・乳製品の消費量を比較してみる(図)。資料は国連食糧農業機関(FAO)がネットで提供している世界各国の食糧消費データである。乳がん発生率と同様、乳・乳製品の一人1日当たりの平均消費量には欧米(500〜800g)とアジア(日本は200g未満、タイは100g未満)の間に歴然とした差がある。食生活の欧米化とはバター・クリームの香りがする食事を食べるようになったことだという私の物言いがお解りいただけるだろう。
近年、乳がんが全世界に蔓延するようになった。アメリカの週刊誌『タイム(Time)』は2007年、「なぜ、乳がんが世界中に広がっているのか(Why Breast Cancer Is Spreading Around The World)」という特集を組んだ(10月15日号)。乳がんの発生がアジア・アフリカにまで広がったのは乳・乳製品の消費が世界的規模で拡大したからである。バターとクリームの香りが全世界を覆うようになったからである。西洋文明が世界を制覇したと言うこともできる。欧米の食生活(乳文化)は文明の象徴であり、アジア・アフリカの憧れである。しかし、タイム誌は「乳がんと乳・乳製品」の関係に一言も触れていない。
アジアでは、乳・乳製品の消費拡大が豊かになった証しと受け止められてきた。世界文明の中心(中華)と自負する中国の指導者までが西洋の乳食文化に強い憧れを抱いているようだ。2006(平成18)年に上海で開かれた世界酪農会議の会場には温家宝首相の「私には夢がある。それはすべての中国人、とくに子どもが毎日500ミリリットルの牛乳を飲むことだ」という言葉が大写しで掲げられていたという(畜産情報ー今月の話題ー2007年2月 http://lin.alic.go.jp/alic/month/dome/2007/feb/wadai1.htm)。牛乳生産量が年間3000万トンを超え、今や中国は世界有数の牛乳の生産国である。
4. いち早く欧米の乳食文化を取り入れた日本で乳がんが急増している
日本で、乳がんと診断され乳がんで命を落とす女性が年々増えている(下図)。女性に発生するがんのうち、乳がんは発生率(罹患率)で1位(死亡率は大腸がんに次いで2位)を占めるようになった。この図には年齢調整罹患率と死亡率の年次推移が示されている。乳がん罹患率の作図には国立がん研究センターのがん対策情報センターがネットで配信している地域がん登録に基づく全国推計値(1975〜2004年)を用いた。一方、乳がん死亡の動向は、厚生労働省の人口動態統計に基づいて作図した(図の乳がん死亡率は1958〜2008年)。
乳がんの罹患率(図の●、人口10万対)は1975(昭和50)年に21・7(患者数1万1123人)であったが、29年後の2004(平成16年)には62・0(5万549人)とほぼ3倍に増えた(患者数は4・5倍の増加)。この図で明らかなように、とくに最近(2000〜2004年)の罹患率の増加が著しい。2000(平成12)年の罹患率は52・2(患者数3万7389人)であったから、2000=2004年の4年間は毎年、人口10万当たりの罹患率が平均9・8、患者数が平均1万3160人も増えたことになる。ただし、「罹患率が増えた」という表現は適切ではない。「乳がんと診断され治療を受ける女性が増えた」と表現したほうがよい。検診によって「乳がん」患者が発掘されたのである(次章の「乳がんの過剰診断」を参照)。
人口10万人当たりの乳がん死亡率(上図の◯)は、1958(昭和33)年の5・3から2008(平成20)年の11・9とこの50年で2・2倍に増えた。年齢調整死亡率が増えているということは、人口の年齢構成の変化による見かけ上の増加ではなく、日本の女性が乳がんで死亡する確率が確実に増えていることを示している。1958年の乳がんによる死者は1692人であったが、2008年には1万1797人が乳がんで死んだ。過去50年間で死亡者数は約7倍になっている。
下図に日本女性の乳がんの年齢別罹患率を1975年から5年ごとに示した(2005年の罹患率データが得られないので、2004年のデータを参考としてつけ加えた)。各年齢層の乳がん罹患率が年々高くなっていることがお分かりいただけるだろう。
この図を見ると、日本女性の乳がん発生は、30〜34歳、35〜39歳、40〜44歳、45〜49歳と、年齢とともにほぼ直線的に増えている。乳がん発生のピークは45〜49歳という更年期に近い年齢層にある(ただし、2004年の罹患統計では、45〜49歳に加えて、60〜64歳にも罹患率のピークがある)。2000(平成12)年に45〜49歳の女性は、1951〜55(昭和26〜31)年の生まれで、子どものころから乳・乳製品の味と香りに慣れ親しんできた。おそらく、トーストした食パンで朝食を済ませ、パンと牛乳からなる学校給食をとるようになった最初の世代だろう。
一般に、がんという生命にかかわる病は生殖年齢を超えた個体を襲うものである。ところが、女性に特有のがん(乳がん・卵巣がん・子宮がん)は比較的若い、生殖可能年齢の女性が罹る(精巣がんも20〜30歳の青年男子に好発する)。その理由はこのようながんの発生に性ホルモンがかかわっているからである。しかし、命を奪うような病気が子どもを産める年齢層の女性に好発するということはそもそも進化の原則に反する。現代日本人の生活は何かが誤っているのだろう。
5. 乳がんの芽は思春期にできる
30代〜40代の女性に発生する乳がんの端緒は思春期にある。この時期には乳腺細胞が猛烈な勢いで分裂・増殖する。その増殖速度はがん細胞の増殖に比せられるほどに速い。細胞分裂はDNAの複製であるから、急激に分裂増殖するときにはDNAの変異(複製の誤り)が起こりやすい。つまり、乳がんの多くは思春期にその芽ができる。思春期に摂取した乳・乳製品が乳腺細胞の分裂増殖を刺激するために、乳がん(の芽)の発生を促すのである。
女の子の思春期は乳房の膨らみで始まる。10歳ぐらいになると、思春期の始まりがTシャツ姿にはっきり見てとれる。思春期に乳房が大きくなるのは、本来、内因性のIGF-1と女性ホルモンが乳腺細胞の分裂・増殖を刺激するからであるが、外来性(乳・乳製品由来)のIGF-1と女性ホルモンも乳腺細胞の分裂・増殖を助長する。
乳がんの芽は誰にでもできる。しかし、乳がんの芽が必ずしもすべて命にかかわるような乳がんにまで成長するわけではない。乳がんになる女性は16〜20人に一人ほどである。その後の数十年の生活が乳がんになる・ならないを決める。牛乳から体内に入る外因性のIGF-1と女性ホルモンは、すでにできている乳がん細胞の分裂と増殖を刺激して、乳がんの発生を促す。
乳・乳製品は、最終身長を伸ばすわけではないが、思春期の到来を早めこの時期の身長を伸ばす。上図は、文部科学省の学校保健統計に基づいて、1950(昭和25)年と2005(平成17)年の5〜17歳の女子の各年齢における平均身長をプロットしたものである。
17歳(高校3年)女子の身長は1950年に152・7cmであったが、55年後の2005年には5・3cm伸びて158・0cmになった。一方、11歳(小学6年)女子の1950年と2005年の身長差は15・2cmもある。つまり、小学校入学時(6歳)に8・0cmであった身長差は11歳で15・2cmに広がるが、17歳には5・3cmに縮まってしまう。このことは、最近の女の子は身長の伸び始めるのも早いが、伸びの停まるのも早いことを示している。それに対して、1950年の女の子は身長が低かったものの、14歳(中学3年)を過ぎてもなお身長の伸びが続いていた。しかし、最近(2005年)の女の子の身長は思春期(14歳)を過ぎるとほとんど伸びない(このことは後に「牛乳と子どもの身長」でもっと詳しく述べる)。
思春期の身長と乳がんの罹患率との間に興味深い関係がある。上図は、1948〜74年の10歳(小学5年)の女の子の平均身長を横軸に、それから30年後の年齢調整乳がん罹患率を縦軸に目盛ったものである(たとえば、1948年の身長に対して1978年の乳がん罹患率が目盛られている。●に付いている数字は乳がんの発生年次)。10歳の身長と30年後の乳がん罹患率の間には相関係数0・96という高度の相関関係がある。この関係は10歳という思春期の始まりの身長が高くなるほど乳がんの発生が増えることを示唆している。しかし、縦軸の乳がん罹患率は10歳の女の子の30年後の罹患率ではなく、30年という間隔を置いた日本女性全体の乳がん罹患率である。
上図は右縦軸に14歳(中学3年)の身長、左縦軸にそれから約30年後の45〜49歳の乳がん罹患率を各年次ごとに目盛ったものである。この図は、思春期に女の子の身長が高くなるほど、数十年後に乳がんの発生が多くなることをより直接的に示している(ただし、これらはいずれも乳製品と乳がんの間に相関関係があることを示しているが、因果関係を示すものではない)。
欧米の研究で、思春期にほっそりと背が高い女の子は将来乳がんになる確率の高いことが知られている[5,6]。思春期に急に背が伸びて胸が膨らんだ女の子には乳がんの芽ができやすいのだろう(なお、乳腺組織の発育と乳房の大きさは比例しない。乳房の大小は蓄積する脂肪組織の多寡による)。
日本の乳がん対策は「早期発見・早期治療」である。日本では、老人保健法による保健事業として乳がん検診(視・触診)が1987年に導入された。2000年には50歳以上に対するマンモグラフィ検診が始まっている(2004年からは40歳台も検診対象となった)。昨今、乳がん治療が格段に進歩したと言われる。手術・放射線・抗がん剤(従来の殺細胞型抗がん剤にホルモン剤・分子標的薬が加わった)によって、早期に発見された乳がんは治療によってほとんど100%治ると言われている。こんなに診断・治療が進歩したというのなら、そろそろ乳がんで死亡する女性が減ってしかるべきではないか。それなのに、乳がん死亡は増える一方である。先に乳がんの罹患率と死亡率を示したので、下図に乳がんの患者数と死亡数(ともに実数)の年次推移を示した。
乳がんが驚異的な速度で増えているのは前述の通りである。縦軸の尺度が患者数(0〜50000)に合わされているので、上図では死亡数の増加が緩慢に見える。挿入図では縦軸の死亡数が0〜12000に目盛られている。この挿入図をご覧になれば、いかに急激に乳がん死亡が増え続けているかがお解りいただけるだろう。これが日本の「乳がん対策=早期発見・早期治療」の現状である。
乳がん死亡を年齢別にみると、死亡率のピークは55〜59歳にあり、罹患率のピークとの間に10年の開きがある(下図)。乳がんで死亡するのは患者4人のうちの1人(25%)と言われるのは、乳がんが再発なしに5年あるいは10年経過した場合を一応の治癒(寛解)としているからである。しかし、がんはその本来の性質からして、完全治癒ということはあり得ない。乳がん患者を40年間追跡すると、結局80%は乳がんで死亡するという暗い報告もある。
上図を見ると、乳がん死亡率は70歳過ぎにもう一度急激に上昇する。高齢の女性に乳がんが増えるからではない。いったん鳴りをひそめていた乳がんが、免疫力の衰える高齢期になって命を奪うほどに猛々しくなるのだろう。たとえ治療によって延命が可能であっても、数十年も再発の恐怖に怯えて過ごすことになる。乳がんになった女性は単に死が近づいていることに悩むのではない。乳房という女性のシンボルが瑕つく悩みは我々男には想像できないほど深いものだろう。比較的若い女性に発生する乳がんという病(やまい)は本人だけでなく、家族など周りの人々の生活にも大きな影響を与える。
6. 牛乳中の成長因子と女性ホルモンが乳がんの原因となる実験的証拠
現代の牛乳は、妊娠した乳牛から搾られているので、多量の女性ホルモンを含んでいる。市販の低脂肪牛乳が飲用で女性ホルモン作用(ラットの子宮肥大試験陽性)を示すことは先に述べた(「現代牛乳の魔力」)。牛乳の女性ホルモンが乳がんの発生に大きな役割を果たしている証拠をつぎにお目にかける。
日本で市販されている女性ホルモン入りの牛乳がDMBA*誘発乳腺腫瘍(腺がん)に対して強い発生促進作用をもつことがラットを用いる動物実験で確認されている[7]。この研究は、市販の低脂肪牛乳がDMBA-乳がんの発生にどのような影響を与えるのか観察することによって、思春期に発生した乳がんの芽が乳・乳製品によって本物のがんになるという仮説を検証しようとしたものである。動物実験だから確証にはならないが、この研究を少し詳しく紹介する。
*DMBA(7,12-ジメチルベンズアントラセン)は強力な発がん化学物質で、雌ラットに高い割合でエストロジェン依存性の乳腺腫瘍を発生させる。
まず、80匹の雌ラットに5mgのDMBAが与えられた(数日で乳がんの芽ができる)。次いで、4群に分けられたラットはそれぞれ4種類の異なる液体(低脂肪牛乳、人工牛乳、硫酸エストロン水溶液、水)で飼育され、DMBA-乳がんの発生経過が20週にわたって観察された(ラットの乳がんの発生経過は触診で確認できる)。人工乳は、牛乳のカゼインタンパク質の替わりにアミノ酸強化グルテン、乳脂肪の替わりにココナッツオイル、乳糖の替わりにデキストリン・マルトースが用いられ、タンパク質・脂肪・炭水化物それぞれの含有カロリーが低脂肪牛乳に等しくなるように調整された。また、硫酸エストロン水溶液は、その1mlが0・1マイクログラムの硫酸エストロン(牛乳に含まれているエストロジェン)を含むように調整された。実験に低脂肪牛乳が使われたのは、「観察された牛乳の影響は乳脂肪によるものではないか」という誤解を避けるためであった。なお、「牛乳」群と「人工牛乳」群、および「硫酸エストロン」群と「水」群の飼料はそれぞれ摂取エネルギーが等しくなるように工夫されている。その研究結果の一部を下図に示す。
DMBA-乳がんの発生は、発生率(上)、発生腫瘍数(中)、腫瘍の大きさ(下)のいずれにおいても、 [低脂肪牛乳] = [硫酸エストロン] > [人工牛乳] = [水] であった。比較すべきは、 [低脂肪牛乳] と [人工牛乳] 、 [硫酸エストロン] と [水] である。低脂肪牛乳は、人工牛乳に比べて著明に、DMBA-乳がんの発生を促進した。その影響の強さは0・1マイクログラム/mlの硫酸エストロン水溶液に匹敵した。さらに興味深いことに、低脂肪牛乳によってラット血清中のIGF-1が増加した。牛乳は、エストロジェンとIGF-1の恊働によって、乳がんの発生を促進するものと解される。
7. 乳がんにならないために・・・
たとえなっても乳がんで死なないために・・・
がんという病気は、時間の経過とともに進行し、いずれ他の臓器に転移して命取りになると固く信じられている。このため、できるだけ早くがんを見つけて切りとり、残存するがん細胞を放射線や抗がん剤で叩くという「早期発見・早期治療」が現代医学の主流となった。たしかに、かつて多数の日本人の命を奪った結核という感染症に対して早期発見(ツベルクリンと胸部X線撮影)・早期治療(ストレプトマイシンなどの抗生物質)が有効であった。それは結核が外来の細菌による病気であったからである。敵は明白であった。敵を殲滅すればやがて病は癒えた。しかし、がんは内因性の病気である。敵と味方の区別がつかない。敵を攻撃すれば味方も傷つく。敵も味方も同根である。がんという病気に対しては感染症に効果的であった早期発見・早期治療の理論は通用しないのである。
乳がんは体表近くに発生するから比較的早期に発見されやすいということもあって、乳がん関連団体は「乳がんで死なないために検診(マンモグラフフィ)を!」と早期発見の必要性を声高に叫ぶ。なんとか検診率をあげようと懸命である。健康な女性に乳がん検診を勧める方々は本心からマンモグラフィが乳がん死亡を大幅に減らすと考えているだろうか(次章の「乳がんの過剰診断」を参照)。乳食文化の欧米ならともかく、日本の乳がん対策までがあまりにも早期発見(=検診)に偏りすぎている。乳がんは予防が可能な病気である。一次予防(病気にならないこと)が二次予防(病気を早く見つけること)に勝ることは言をまたない。プラント教授は『乳がんと牛乳ーがん細胞はなぜ消えたのか』(径書房、2008年10月)において次のように述べる。
長いこと私たちは、何パーセントかの女性が乳がんになるのは仕方がないという考えを疑いもせずに受け入れてきた。乳がんにならずに済む方法があるなどとは考えてもみなかった。だから、医学・科学・政治・経済のあらゆる分野で、莫大な資金と労力が、乳がんという病気をできるだけ早期に発見して速やかに治療するということにだけ費やされてきたのだ。しかし、実際は違う。私たちは、タバコを吸えば肺がんに、過度の日光(紫外線)に当たれば皮膚がんになる危険性が高くなることを知っている。だから、肺がんや皮膚がんを避けるための行動を自分で選択することができる。しかし、乳がんに対しては無力感に陥るばかりだ。乳がんを避けるのにどうしたらよいのか誰も教えてくれないから、具体的な予防行動を何一つとることができないのだ。もちろん、年齢が高いこと、母親・姉妹に乳がん患者がいることなどが乳がんの危険因子であることは十分知られている。しかし、このようなことはすべて、自分ではもはやどうしようもないことではないか。乳がんは、できるだけ早いときから乳・乳製品を摂らないことで予防できる。たとえ乳がんになっても、乳・乳製品を絶つことで転移・再発を抑えることができる。
21世紀になっても、日本では乳がんの発生と死亡が増えている。これは先進国と言われる国々の中では珍しい現象である。欧米では前世紀の終わりごろから乳がん死亡が減りはじめた。死亡率が低下しただけではなく乳がんの発生そのものが減ったのである。昔から欧米人の命を最も多く奪う病気は心筋梗塞(冠動脈硬化症)であった。欧米の医学界は冠動脈硬化の予防に心血を注いだ。最も重視したのは飽和脂肪(動物性脂肪)の摂取量の減少であった。
乳・乳製品は欧米人の主食(日本人のコメに相当する)である。乳脂肪(飽和脂肪)は欧米人の主要な脂肪源であったから、その摂取減少は欧米の重要な健康施策であった。1970年頃から、欧米の人々は低脂肪牛乳・低脂肪チーズ・マーガリンを選択するようになった。これによって欧米人の心筋梗塞は見事に減少しはじめた。アメリカを例にとると(http://cacancerjournal.org)、85歳未満のアメリカ人の死因の第一位は断トツであった心疾患が1990年代の後半にはがん死亡を下回るようになった(下図)(ただし、85歳以上では心疾患による死亡が圧倒的に多いから、アメリカ人全体での死因の一位は心疾患である。また、心疾患死亡の減少には治療技術の進歩も大きく貢献している)。欧米で起こった食生活の変化は乳がん発生の減少という思わぬ二次的効用をもたらした。しかし日本では相も変わらず、健康のためにと政府が乳・乳製品を勧めているから、乳がんの発生と死亡が増えつづけるという珍しい国になったのである。
「なぜ、日本の若い女性に乳がんが増えているのか」と問われると、ほとんどすべての専門家が「日本人の食生活が欧米化したからだ」と言う。日本の「がん対策推進基本計画」(2007年)でも、「食生活の欧米化によってがん患者が増えている」という文言が繰り返されている。何度も言うようだが、「食の欧米化」とは日本人がバター・クリームなどの乳製品を口にするようになったことをいうのである。食の欧米化が乳がん増加の原因なら、食生活を変える(乳・乳製品を食べない)こと以外に、日本女性が乳がんという病から逃れる方法はない。しかし、正統派と目されるがんの専門家は、早期発見・早期治療という虚しいお題目を唱えるだけである。厚生労働省も渡りに船とばかりに検診を強調する。
ある乳がん専門医は「あなたやプラントさんに言われなくても、乳製品が乳がんの原因の一つだということは知っているよ。毎日乳がん患者を診ていれば、どんな人が乳がんになりやすいのか判るのだ。ただ、現在のように乳製品が溢れている社会で、乳製品を止めなさいなんて言うことはできない。だから、我々は早期発見に力を入れているのだ。乳がんは治るから、乳がんになったって早く発見して治療すればよいのだ。乳がんになってしまった患者に好きな乳製品を止めなさいなどと言うのは残酷だよ。乳がん患者に最善の治療を施すのが我々専門医の仕事だ」と語った。
なるほど、そういう物言いもあり得るのか。たしかに「乳がんになる確率が高いからといって好きなパン*やケーキ・アイスクリームを止めるなんてことはできない」という女性もいるだろう。その一方で、「乳がんになる可能性が高くなるのなら、パンをごはんにして牛乳を使ったケーキやアイスクリームを食べないようにする」という女性もいるだろう。乳・乳製品を止めても身体に不都合なことは何一つないのだから。同じことはたばこと肺がんの関係についてもいえる。喫煙が肺がんに結びつくと知って喫煙人口は減りつつあるが、それでもタバコを吸い続ける人がいる。それは個人の自由だ。同じように、乳がん患者が乳製品を食べ続けるのもその人の自由だ。しかし、乳・乳製品が乳がんの誘因だと判っているのなら、医師は少なくとも自分の患者にそのことを知らせるべきだ。どうするかは患者の選択に任せればよいのだから。
*ここでパン食について少し触れておきたい。病院で多数の乳がん患者に接した幕内秀夫氏は『乳がんから命を守る粗食法―免疫力を高め、発症・再発を防ぐために!』(二見書房、2004年1月)において「乳がんの80%は朝食にパンを食べている人に発生する」という。ごはん(水分60%)に比べて、パン(35〜38%)はパサパサしているから、飲み物がないとのどを通らない。「パン+緑茶」という人はまずいないだろう。たいていは「パン+コーヒーあるいは紅茶」だ。トーストした食パンにバターを塗るという人もいるだろうし牛乳を飲むひともいるだろう。朝食にパンという人はバターの香りが好きなのだ。困ったことに、日本人が好む食パンそのものにバターが含まれている。香りづけのために、パン生地を作るのにバターを使うからである(マーガリンで代用することもあるが、これにもバターが加えられている)。バターは女性ホルモン(卵胞ホルモンと黄体ホルモン)の宝庫だから、日本人女性には要注意の食品である。女性が好んで食べるものに○○ワッサンというパンがある。このパンを作るのに強力粉を300g使うとすると、無塩バター150gと牛乳150gを使う。小麦粉に牛乳を加えてこねて作ったパン生地でバターを包んで焼いたのが○○ワッサンである。だから私はこのパンをドクロ(髑髏)ワッサンとかドク(毒)ワッサンと呼んでいる。乳がん患者が最も避けなければならない食品の一つだ。西洋のパンは本来、小麦粉、イースト、塩、水の4つがあれば作ることができる。バゲット・パリジャン・バタールなどのフランスパンがそれである。洋食に縁の薄い私でも時々はフランスパンを食べる。どうしてもパンを食べたいという女性には本物のフランスパンをお奨めする。しかし、パンの間にチーズを挟んだり、バターを塗ったりしてはいけない。つけるとすればオリーブオイルだろう。ニンニクのみじん切りをまぶしたオリーブオイルとメイプルシロップはフランスパンによく合う。
もちろん、乳製品を摂らなければ、絶対に乳がんにならないというわけではない。タバコを吸わないひとが肺がんになるように、乳製品を全く口にしなくても乳がんになることはある。しかし、乳製品を断つことによって乳がんになる確率は確実に小さくなる。
『乳がんと牛乳』の著者・プラント教授は、ご自身が乳がんになるまでは、牛乳・乳製品の愛好者であった。健康によいと信じていたからである。乳がんになる前は、低脂肪牛乳を大量に飲み、たくさんの乳製品を食べていた。料理には脱脂粉乳やバター・クリームを使ったし、低脂肪チーズとヨーグルトもよく食べていた。乳・乳製品はプラント教授の主要なタンパク質源であった。乳がんの真犯人に気付いたとき、プラント教授は一切の乳・ 乳製品を直ちに止めることにした。バター・チーズ・ヨーグルトはもちろん、乳製品を含むほかの食品も全て流しとごみ箱に捨てた。市販のスープ・ケーキ・クッキーなど、いかにたくさんの食品が乳・乳製品を材料として作られているかを知って改めて驚いた、とプラント教授は『乳がんと牛乳』で述べている。
プラント教授が勧める乳がん予防の食事の基本は、乳製品(乳牛の肉を含む)を食べない、大豆製品をたくさん食べる、新鮮な野菜・海草・果物を食べるという3点に尽きている。乳製品を食べないというこのプラント・ダイエットの実践は、元来が「穀物+大豆+野菜・果実・海草(+魚)」からなる食生活を送ってきた日本人にはそんなに難しいことではない。「日本人と牛乳」で述べたように、日本には、古来、牛乳を飲み乳製品を食べるという食習慣はなかった。とはいえ、世の中に乳製品が溢れている現在、「乳がんの主犯=乳・乳製品」というプラント説を心底から納得しなければ、たとえ乳がんになっても完全な「乳断ち」は至難であろう。「プラント説」に心から納得したら、一切の乳製品を止めてみよう。「乳断ち」が乳がん死を免れる最善の方法である。
もし万が一、あなたが乳がんになってしまったら! 誤解しないでいただきたい。上に述べたことは、乳製品を断ちさえすれば治療をうけなくてもよいなどと言っているのではない。乳房の近くに重要な臓器がないので、乳がんは他臓器に転移しなければいくら大きくなったところでそれだけで命にかかわることはない。だからといって、いつまでも放っておくわけにはいかない。手に触れるようなしこりが胸にできたら、腫瘤を摘出してもらうのが妥当である。放射線・抗がん剤・ホルモン剤などの治療は医師と相談して決めることになる。自分のことだから、自分自身が納得して治療方針を決めることだ。この点で、プラント教授の『乳がんと牛乳』は役立つ。プラントさんは次のように述べる(文章の中の「私」はプラントさん)。
乳がんになった人に是非知っておいて欲しいことがある。手術、麻酔、放射線、抗がん剤などはいずれも患者の心身に多大な苦痛を強いる。患者には息抜きが必要で、さもないと治療をあきらめて一切を投げ出すことになりかねない。とくに化学療法は苦しく、白血球の著しい減少をもたらすこともある。肉体的にも心理的にも、日常生活において治療に備える必要がある。私が行った食事療法(基本は、乳製品を断ち、全粒粉・豆類・野菜・果物を中心とする食事に切り替える)は私の身体を支えてくれた。
がん患者には、がんになったのは自分が悪かったのではないかと感じる人が多い。たとえば、遺伝的に問題があったのではないか、自分の性格のせいではないか(今までの研究によると「がん性格」などというものはない)、過去の行動の過ちが原因ではないか、など。これは誤りである。乳がんになったのはあなたが悪かったからではない。
がん治療では患者に次から次へといろいろな処置が行われる。最後には何がどのように行われているのか分からなくなってしまうことすらある。がん患者は心理的に追いつめられている。絶え間なくいろいろな処置を受けていると、自分で考える力を失って「もうどうでもいい」と感じてしまう。しかし、患者が自分で自由に判断する意思を持ってはじめて医師と建設的なパートナーシップが築けるのだ。私は医師に任せきりにはしなかった。私は、自分を絶えず死の恐怖に駆り立てる巨大なC(C = Cancer、がんのこと)の本体を見つけようとあらゆる努力をした。
乳がんの治療には、専門医(外科、放射線治療、抗がん剤治療)がそれぞれ違った役割を担っていることを理解することが大切である。患者を診療する医師は標準的な治療しか行わない傾向にある。標準的な治療は、いわゆる統計学的な「証拠に基づいた治療」で、あくまで万人向きである。他のひとに有効な治療が必ずしもあなたに有効であるとは限らない。医療訴訟が多くなったから、医師はますます標準的な治療から離れられなくなった。少しでも標準医療から逸脱した治療を行って失敗すれば訴えられてしまうからである。
乳がんとうまく対処するためには患者と医師の関係が決定的に重要である。不安と心配は当然であるが(私などはいつも恐れおののいていた)、健康を取り戻したいという気持ちを強く医師に訴え、どんな治療の選択にもすべて、自分の責任で関わることを医師に伝えることだ。良いお医者さんを見分けるために私が作った簡単なチェック表をお目にかける。
良いお医者さん
- 世間の常識があって、ものごとを明快に説明してくれる医師。
- 人のために尽くすことが自分の天職だと考えている医師。
- 常に最新の知識・情報を取り入れている医師
- 技術に優れている(たとえば、問診・視診・聴診・触診・打診によって全身の検査ができる)医師。
- 食事などのライフスタイルの行動変容について、パートナーとして患者の相談にのってくれる医師。
知識や技術が優れていることは医師として当然である。いかに知識や技術に優れていても常識のない医師はお断りである。患者の質問に、笑ったり、怒ったり、わけの分からない専門用語で煙に巻く医師も困りものだ。代替療法を頭ごなしに否定せず、食生活などの日常生活についても患者の相談に乗ってくれるお医者さんが望ましい。
お医者さんの説明がすべて理解できないと、医師と患者の共同作業である診断や治療はうまく運ばない。お医者さんが聞いたこともない言葉を使ったら、どういうことなのかもっとやさしい言葉でもう一度言い直して欲しいと頼むことだ。言葉が分かったら、どんなに細かいことでも納得できるまで、場合によっては図に描いてもらって、詳しく説明を受けるべきだ。理解が深くなれば、あなたの発言が診断や治療の方向に影響を与えるようになる。私は繰り返し繰り返し医師に質問した。医師も、私を納得させるために辛抱強く答えてくれた。
乳がん治療を受けるときには次のことを確かめておく必要があると思う。よい医師ならこのような質問にも時間をかけて答えてくれるだろう。
- その治療法の最終的な成功率はどのくらいか。そもそもこの場合の「成功」とはなにをいうのか。再発がないことか、死亡にいたらないことか。これを自分の乳がんにあてはめるとどうなるのか。
- 他に受ける治療法があるのか。治療の良し悪しはどうやって比較するのか。
- どんな副作用があるのか(一般的なものだけでなく稀に起こるものも含めて)。
- この処置を受けたあと、自分の生活の質はどうなるのか。
最後にもう一言。日本で乳がん患者が増え、乳がんで命を失う女性が増えたのは乳・乳製品の消費量が増えたからである。すなわち、乳がんのほとんどは乳害である。日本では農林水産省・厚生労働省・文部科学省が結託して、牛乳を飲まないと「丈夫な子どもが生まれない」「背が伸びない」「骨粗鬆症になって寝たきりになる」と脅して、ホルモン入り牛乳の飲用を国民に強要してきた。つまり、日本女性の乳がんは国策官製乳害である。
牛乳は、今まで日本人が経験したことのない味と香りをもたらした舶来の嗜好品である。業界が「美味しい牛乳」「美味しいバター」「美味しいヨーグルト」「美味しいチーズ」と宣伝するのは一向に構わない。消費者が自分で判断すればよい。しかし、政府が「健康のために」と国民に強要するような食品ではない。一国の政府が国民に「嗜好品」を強要するとはどういうことか!
以上乳がんを中心に述べたが、男性の前立腺がん・精巣がん、女性の卵巣がん・子宮体部がんの発生に乳・乳製品が大きく関与しているという報告がある[8,9]。別の機会に乳・乳製品と前立腺がんとの関連について述べることにする。
文 献
1) Collier RJ, Miller MA, McLaughlin CL, Johnson HD, Baile CA. Effects of recombinant somatotropin (rbST) and season on plasma and milk insulin-like growth factors I (IGF-I) and II (IGF-II) in lactating dairy cows. Domest Anim Endocrinol 35:16-23, 2008.
2) Cadogan J, Eastell R, Jones N, Barker ME. Milk intake and bone mineral acquisition in adolescent girls: randomised, controlled intervention trial. British Medical Journal 315: 1255-1260, 1997.
3) Hoppe C, Molgaard C, Juul A, Michaelsen KF. High intakes of skimmed milk, but not meat, increase serum IGF-I and IGFBP-3 in eight-year-old boys. European Journal of Clinical Nutrition 58: 1211-1216, 2004.
4) Rich-Edwards JW, Ganmaa D, Pollak MN, Nakamoto EK, Kleinman K, Tserendolgor U, Willett WC, Frazier AL. Milk consumption and the prepubertal somatotropic axis. Nutrition Journal 6: 28-35, 2007.
5) Ahlgren M, Melbye M, Wohlfahrt J, Sorensen TI. Growth patterns and the risk of breast cancer in women. N Engl J Med 351: 1619-26, 2004.
6) Michels KB, Willett WC. Breast cancer - early life matters. N Engl J Med 351: 1679-81, 2004.
7) Qin LQ, Xu JY, Wang PW, Ganmaa D, Li J, Wang J, Kaneko T, Hoshi K, Shirai T, Sato A. Low-fat milk promotes the development of 7,12-dimethylbenz(a)anthracene (DMBA)-induced mmammary tumors in rats. International Journal of Cancer 110: 491-496, 2004.
8) Ganmaa D, Li XM, Wang J, Qin LQ, Wang PY, Sato A. Incidence and mortality of testicular and prostatic cancers in relation to world dietary practices. International Journal of Cancer 98: 262-267, 2002.
9) Ganmaa D, Sato A. The Possible role of female sex hormones in milk from pregnant cows in the development of breast, ovarian and corpus uteri cancers. Nedical Hypotheses 65: 1028-1037, 2005.
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