皮膚欠損を伴う外傷(擦過傷や挫傷)の治療について講演をすると,よく出てくる質問に「普通の外傷の治療はよくわかったけれど,火傷の治療の場合はどうなの?」というのがある。つまり,「すりむき傷と火傷では原因が違っているのだから,治療法も違っているはずだ」という意識が一般的なのではないだろうか。
医学部の授業では外傷の治療についての講義は外科でほんのちょっと,おざなりで行われている程度であり,その上,熱傷の治療・講義だけは伝統的に皮膚科で受け持っていることが多いため,一般外傷と熱傷が別々に扱われる結果となり,医者の方でも「熱傷と普通の外傷は全然別物なんだよね」と思い込んでしまうのではないだろうか。
またどうしても,従来(?)の皮膚科医の傾向として,「熱傷には○○軟膏」「褥瘡には△△軟膏」という具合に,各原因ごとに治療法を考えがちになってしまうような気もする。
だが,これらの治療は原則的に同じである。
褥瘡治療に使える被覆材なら熱傷の使っても有効であるし,熱傷治療に使って有効な軟膏は,擦過傷の治療に用いても同様に有効なのだ。分けて考える方がおかしいのだ。
褥瘡,熱傷,擦過傷,挫傷,創縫合後の創離開,骨が見えるほどの皮膚軟部組織欠損創・・・はすべて「皮膚欠損創」である。皮膚欠損創という一つのカテゴリーの中に含めることが可能だ。違っているのは,受傷原因,創の深さ,合併損傷の有無などであり,創傷治癒という面からは本質的な差はない。
つまり,ここで述べている「傷を消毒しない,傷を乾かさない」という治療原則は,すべての「皮膚欠損創」で共通するものであり,これを応用すれば,どんな傷でも治癒させることは可能だ。
もちろん,実際の治療をする上では,上述のさまざまな「皮膚欠損創」はその受傷原因,病態によって「湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)」以外のものが必要になる。例えば,受傷直後の熱傷であれば創部を冷却しなければいけないし,褥瘡だったら体位交換とかスキンケアが重要になってくるだろうし,骨が見えるほどの裂傷だったら,神経や血管の縫合が必要になることもある。
しかし,こと「皮膚欠損」の治療に関する限り,そこには「傷は乾かしてはいけない,消毒してはいけない」という原則が唯一の治療原則であり,すべての「皮膚欠損創」に通じるものである。
褥瘡も熱傷もすりむき傷も,皮膚欠損という大きなカテゴリーとして捉えるべきである。受傷原因別に治療法が変わると考えるほうがおかしい。
例えば手指の熱傷では軟膏とガーゼで治療するよりは,薄いハイドロコロイド(デュオアクティブETやテガソーブTHIN),あるいはハイドロポリマー(ティエール)を指の長さに合わせて切り,指一本をくるりと巻くようにすると,指の動きは制限されず,厚いガーゼもいらないので非常に快適であり,しかも軟膏治療の半分くらいの日数で治癒する。
大腿部や体幹の熱傷で水疱が破れてしまい,浸出液が多い場合は,ポリウレタン(ハイドロサイト)を傷に直接あてると非常に快適だ。
3度熱傷にしたって,「これは皮下脂肪にまで及ぶ皮膚欠損創なのだな」と考えれば,ハイドロコロイド(デュオアクティブなど)でもポリウレタン(ハイドロサイト)でも有効だろうと思いつくはずだ。実際,直径10センチくらいまでのそれほど範囲が広くない3度熱傷の場合,ポリウレタンなどで被覆しすると30日くらいで上皮化が得られ,植皮術を行った場合の治療日数の合計と,ほとんど差はない。
(2001/12/08)
さて,筆者が日々行っている外傷の治療法について説明する。旧来からの治療法しか知らない目には,恐らく,トンデモナイ事をしている医者だ,と映ることだろう。だが,実際にやってみるとわかるが,この通りにすると,信じられないほど速く,しかも全く痛みのない治療が可能になる。
外傷患者が初めて受診した時(=受傷時)
初診時の状態 | 血腫を取り除き,カルトスタットで被覆。 | 5日目の状態。創はほぼ,上皮化している。 |
受傷1日たってから受診した状態 | 局所麻酔下にブラッシングをして異物を除去 | 5日後の状態。創は完全に上皮化している。 |
翌日からの治療
(2001/11/03)
私の外来の見学者が多くなりましたが,ほとんどの人が回診車(処置車というのかな?)の写真を撮影していくため,ここで大公開しちゃいます。何かの参考になれば幸いです。
なお,各製品については商品名も明記していますが,これらの製品がいいというわけでなく,私が勤めている病院でたまたまその商品を入れていたから今も使っているだけですので,そこらへんは誤解なきようにお願いします。
まず,回診車の全体像。
これが回診車最上段の様子です。最も使うものを並べています。上から見ても,滅菌カストも鑷子立ても消毒薬入り万能壷も見当たりませんね。
(2003/11/12)
次のような質問を頂いた。
「創洗浄に関して,このサイトでは生理食塩水(生食)より水道水を推奨されていますが,組織傷害性を考えれば生食を使うべきではないでしょうか。あれほど消毒薬を攻撃しているのに水道水を推奨するのは,論理的に矛盾していると思いますがいかがでしょうか?」
実に鋭い指摘である。こういう本質を突いた質問,大歓迎である。
まず,創を洗浄する目的とは何だろうか。実は創面を洗うのでなく,創周囲の皮膚を洗うことの方が重要だ。むしろ,創表面はよほど汚れていない限り,洗う必要はないし,圧をかけて洗ったり,こすったりすることは御法度と考える。肉芽を痛めつけたり,せっかく創面に広がりつつある上皮細胞を傷つけるからだ。
では,なぜ傷周囲の皮膚を洗うかというと,皮膚が汚れていては発赤などの症状が正確につけられないし,皮膚の汚れ(浸出液,溶けたハイドロコロイド,ワセリンなど)を洗い落とすことで皮膚のトラブルをかなり回避できるからだ。だから,「皮膚は洗うが,傷そのものはあまり洗わない」のが正解である。とはいっても,皮膚を洗えば必然的に創面も濡れてしまうが,ここは,「皮膚は積極的に洗うが,創面は結果的・消極的に洗ってしまった」くらいに考えた方がいいと思う。
さて,水道水洗浄か生食洗浄かと考える場合,以下の問題を複合的にとらえる必要がある。
これらの観点から,水道水と生理食塩水について比較してみよう。
まず,値段の問題。もちろん,大量に気軽に使えるかという問題だが,もちろん,水道水洗浄の勝ちである。
次に,水道水と生食での組織(細胞)傷害性の問題。「細胞内液との浸透圧差のために,細胞が破壊されるんじゃないの?」という疑問である。もちろん,生食でも細胞内液よりは浸透圧が低いことには変わりはなく,細胞は破壊されるわけであるが,両者を比べれば,生食の方が安全と言える。
さてここで,細胞障害性をとるか物理的洗浄をとるかである。細菌汚染の可能性が強い創で細菌の除去を最優先に考えていれば,「細胞障害性に目を瞑って物理的洗浄を優先」すればいいし,感染の危険が低い創であれば治癒を最優先して「物理的洗浄は無視して細胞障害性を優先」と考えればいいと思う。要するに,最優先の項目は何か,ということだ。
ちなみに,水道水,生食,消毒薬の3つを比較すると,組織傷害性については
洗浄時の痛みも,洗浄する液体と神経末端との浸透圧格差が作用しているだろうから,生理食塩水の方が水道水より痛みが少ないのは当然だろう。だから,水道水で洗うなら「ちょっと痛いですよ」と一言添えて洗うか,きっちりと局所麻酔をして痛みを取ってから洗うか,どちらかを選べばいい。
さらに,洗浄後の心地よさという問題もある。生理食塩水で洗った後,そのままにしておくとネトネトベタベタして気持ちが悪いのだ。「俺はベトベトなんて気にしない」という人もいれば,それを気にする人もいるだろう。だから後者のタイプの患者さんには,生理食塩水洗浄後にそれを水道水などで軽く洗ってあげた方がいいと思う。
医療に必要なのはバランス感覚だと思う。治療効果にばかり目を奪われて,それが苦痛を生み出しているのにそれに気がついていなかったら間違っているし,苦痛を少なくしようとして治療効果がなくなるのも間違い。また,効果はあるが値段が高いというのも困る。「生食の方が痛くないから,生食を大量に使って洗うのがベスト」と考えて,これを病院全体,日本全体で始めたらとんでもないことになるからだ。
そして,生食で洗うか水道水で洗うか,などの問題で迷ったら,「この患者さんで最優先すべき問題は何か」と考えると解決の糸口が見えてくるはずだ。
「傷もきれいに治したい,創感染を起こすのも困る,できるだけ痛みを取ってあげたい,治療期間も短くしたい」と常に最善の医療を求めるのは大事なことだが,結局,収拾がつかなくなることが多いようだ。だからこういう時は,問題点を全て列記し,最優先の問題は何かを考え,まずそれに対処する。そして,その問題点が解決したら,次に優先すべき問題に対処する。そしてそれを,一人一人の患者さんで個別に決めるのである。大抵の場合は「感染予防→早期の創治癒→傷跡もきれい」という方向性になるはずだ。だから通常は〔感染源の除去とドレナージ→湿潤治療→上皮化の後の遮光やテーピング〕という順番で治療法を選択することになると思う。
また,「迷ったら面倒な方」という思考法も有用だ。これは私の先輩医師が教えてくれた教えだが,この教えを守っていれば,大体は間違うことはないはずだ。ドレーンを入れるか入れなくてもいいか迷ったら面倒な方(ドレーンを入れる)でいいし,圧迫していいかしなくていいか迷ったら面倒な方(圧迫する)でいい。ま,人生全般に通じる思考法かもしれないが・・・。
(2005/10/20)
複数のナイロン糸を創内に挿入し,毛細管現象でドレナージを図る方法を当サイトでは「ナイロン糸ドレナージ」として紹介してきた。これは主に動物咬傷では威力を発揮する治療法だが,動物咬傷以外にも応用が効く簡単な方法である。
【原法】
「3~5本の3-0ナイロン糸(縫合糸)を創内に入れ,抜けないように絆創膏固定する」という方法。今から10年ほど前に開発。ちなみに,ナイロン糸は未滅菌のものでいいし(創内は既に膿,つまり細菌で一杯なのだから,滅菌物を入れるのはそもそもナンセンス),釣り用のテグスでも代用可能。釣り用テグスでは3号くらいの太さのものがいいようだ。
【変法】
原法では「糸がチクチクしてちょっと痛い」という訴えがあり,それに対してきよすクリニックの伊藤先生が「ループ状にして入れれば痛くない」というシンプルな解決法を2008年に考案。これで「チクチク」はなくなった。
【コヨリ法】
考案者は伊豆下田診療所の細井先生で,外来見学にいらっしゃった際に教えていただいた(2013年7月)。
治療例:60代女性。
7月14日早朝,自宅の猫に下腿を噛まれた。腫れてきたため,同日夜,救急外来を受診した。当直医は創内を高圧で洗浄し,SBT/ABPCの点滴とオーグメンチン錠を処方。15日に再受診したが,痛みは強くなり,発赤の範囲も拡大。別の当直医はナイロン糸ドレナージを行った。16日,当科を受診したが,既に発赤の範囲は狭くなっていたが,まだ圧痛があったため,局所麻酔下に創の深さを探り,1センチ以上深いことがわかったため,数本の「コヨリ状ナイロン糸」を留置した。17日には発赤も圧痛も完全になくなった。
【ペンローズドレーン vs ナイロン糸ドレーン】
【ナイロン糸ドレナージについての質問】
(2014/06/17)
手術創のドレッシングはどうすべきだろうか。これは下記のような手術創,縫合創の状態によって状況が変わってくると思う。
まず,きれいに縫合されている創の場合。きれいに,といっても術者の個人的な技術により差があるが,死腔がなく創縁がきちんと合わさっていて(創縁皮膚の内反や外反がない),感染の心配もまず考えられず,創縁にか割緊張も強くない,という創,つまり大部分の外傷縫合創,非汚染手術の縫合創がこれに相当するとしてもいいと思う。この場合は極論すると,ドレッシングはしてもしなくてもいいと思うし,何でドレッシングしても大差ない。ドレッシングなし(つまり縫合糸が剥き出し)でもガーゼで覆っても,フィルム材で閉鎖してもテーピングだけでも,あまり差はないようだ。
もちろん,最善の結果を求めるのであれば,もちろんフィルム材がベストだろうし,浸出液や出血がちょっと心配,という場合はガーゼが便利だ。創縁にかかる緊張が強い場合はテーピングのみかテーピングとガーゼの組み合わせ,あるいは「最良のテーピング材料」という意味でのフィルム材で広く覆うというのも理に適っている(細い絆創膏よりは幅の広い絆創膏の方が緊張を取る効果が強いし,それならフィルム材がもっと効果的だから)。
この場合のガーゼはあくまでも余分な浸出液や血液を吸収するという意味で使っているので(皮膚欠損創でないから浸出液を吸収しても「創の乾燥」は問題にならないはず),滅菌ガーゼを使う必要はなく,未滅菌ガーゼでもティッシュペーパーでも構わないと思う。
縫合糸が剥き出しでも別にいいのだが(口唇裂の術後はテーピングだけであるが,赤唇部の縫合糸は剥き出しのままである),糸が衣服に触れてチクチクするという場合は,ガーゼでも覆っておけばいい(しつこいようだが,これも未滅菌ガーゼでいいと思うし,ティッシュペーパーで覆っても構わないだろう)。
次に,創縁が挫滅されていたり,一部に皮膚欠損創を合併している場合。砂利道で転倒し,深い裂傷の周囲に挫創がある場合がこれ。この場合は,縫合した後に,挫創部分を被覆材で一緒に密封した方がいいようだ。この場合の被覆材としてはアルギン酸,ハイドロファイバー,ポリウレタンフォームがいいが,ハイドロコロイドでは時々,発赤などが起こる事があるようだ。
汚染手術の場合,あるいは創感染の可能性が強い場合は,ドレナージを中心に考え,ドレッシングはガーゼのみでよいと思う。そして感染の危険性がなくなってから,皮膚欠損があれば湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)にするのがベスト。
ドレーンやカテーテルについては以前論じた通りだが,閉鎖式ドレーンの場合はドレーン刺入部はフィルム材で密封閉鎖でいいだろうし,開放式ドレーンの場合は浸出液を吸収するのがメインなのでやはりガーゼが最適だろう(個人的には,浸出液が出ているのであれば,このガーゼは未滅菌であっても逆行性感染は起こらないと思っている)。
(2003/12/21)
通常の外傷はきれいな裂傷ばかりでなく,創縁,あるいは創周囲の皮膚が挫滅されていたり皮膚欠損があったりすることが多い。この場合,いくらきれいに創を縫合しようとしても皮膚欠損が残ることになる。このような縫合創は被覆材の良い適応となる。
先日,「周囲に皮膚欠損がある縫合創を被覆材で閉鎖するとき,縫合糸も一緒に密封すると感染が起きませんか」という問い合わせもあったので,それについても触れることにする。
まずいつものように症例提示。
症例は男子高校生。修学旅行中に砂利道で転倒し,顔面に多発裂挫傷を受傷。旅行先の病院で縫合処置などを受けた後,地元の病院を受診するように言われ,受傷後2日目に当科受診。旅行先の病院では鼻翼部などを縫合し,前額部にはアルギン酸を貼付していたが,フィルムドレッシングで密封されていなかったため,アルギン酸が乾燥してしまって「痂皮様」になってしまい,これをはがす際,かなり痛かったようだ。
やはり,アルギン酸を使用する場合は,必ずフィルムドレッシングによる密封が必要である。
この例のように,創縁が挫滅されていてうまく縫合できない,あるいは皮膚欠損があって縫おうにも縫えない,という傷は案外多いと思う。こういう場合,無理して縫合する必要はないし,むしろ,無理やり縫合せずに被覆材で密封した方が,結果的に出来上がりはきれいになる。
縫合後の処置であるが,縫合翌日は必ず被覆材をはがして傷を観察し,異状がなければ(出血している,血腫を作っている,明らかな発赤がある・・・),直ちに創部を洗わせ(上記の例では石鹸で顔を洗わせた),また被覆材で密封。患者が治療法を理解してくれれば,自宅で患者自身に「洗顔→被覆材交換」をさせても,まったく問題は生じない。
用いる被覆材の種類であるが,出血している場合にはやはりアルギン酸がベスト(もちろん,フィルムドレッシングで必ず密封)。もちろん,出血がなければ薄めのハイドロコロイドも使いやすい(これ単独で使えるから)。
なお,きれいに縫合できたために縫合部分からの浸出液が少ない場合,ハイドロコロイドだと縫合糸にくっついてしまうため,剥がす時に痛みがあるかもしれない。こういう例では,アルギン酸やポリウレタンの方が使いやすいかもしれない。
ハイドロコロイドは上記のFig.3のように浸出液でゲル化すれば縫合糸にくっつかないため,ハイドロコロイドを剥がす時に痛くないようだ。
「縫合糸は異物なので感染源になるのではないか? それなのに密封してもいいのだろうか」という疑問も生じると思うが,縫合糸がモノフィラメントの糸であればまったく問題はない。
縫合糸を大きく二つに分けると「編み糸」と「モノフィラメント糸」になる。
この中で,感染源になる危険性が高いのは「編み糸」の方。どうも,繊維の間に細菌が入り込んでしまうと,貪食細胞が繊維の中に入り込めないため,細菌を排除できないためらしい。逆に「モノフィラメント糸」は表面がツルツルのものが多く,細菌がくっつきにくいのだろう(このため編み糸に比べると結紮がほどけやすい)。実際,縫合した絹糸の周囲が発赤することはよく目にするが,理由はこれにある。
ここで提示した例はナイロン糸で縫合しているため,縫合糸膿瘍の形成の危険性は小さいので,何の問題もなくハイドロコロイドでの湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)を行った。
「無理やり縫合するより,うまく被覆材を使った方が,結果として傷はきれいになる」というのは外傷を扱う外科医にとっては,日常診療を非常に楽にしてくれると思うんだけど・・・。
(2002/06/07)
皮膚の再生が完了(=上皮化が完了)した後でも,実は創は変化途上なのである。一般に,創の状態が安定するのは上皮化完了/抜糸終了から3ヶ月くらいかかり,それまでは刻々と変化するものである。
例えば,擦過創やヤケドが上皮化した直後はこのようになっている。浸出液が出ていなくて,ピンク~赤い皮膚で覆われていれば上皮化完了である。
というのが一般的な説明だが,「顔面熱傷で,上皮化直後から直射日光に当てまくった6歳女児は2年間の経過観察で色素沈着も瘢痕化も起きていない」ことから考えると,「ヤケドした後は直射日光に当てていけない」というのは医学都市伝説の一つ,つまり「見てきたような嘘」にすぎないかもしれない。
症例は60代女性。2005年7月22日に熱湯で上腕~中部外側に熱傷受傷。当科で治療を行い,8月4日に上皮化したが,毛穴に一致して黒ずんだ色素沈着が認められた。この時点で治療終了となった。
それから半年後,偶然にも当科を受診されたので撮影させていただいたのが右側の写真。周囲の皮膚と同じ色調・質感で,ごくわずかに色素脱失という状態だった。患者さんによると,2005年の夏は特に遮光するわけでもなく,腕を出して生活していたそうである。つまり,色素沈着部位を日に当てまくって生活していたわけだが,この患者の場合には色素沈着は自然に改善したことになる。
そういうわけで,例えばヤケドして上皮化した後に遮光するかしないかには次の2つの考えがあるろ思う。どちらを選ぶかは患者さんの人生観次第である。
また,上皮化完了直後の皮膚は乾燥気味なので(理由は恐らく,皮脂腺の機能がまだ正常に戻っていないためだろう),一日数回,白色ワセリンを塗布して乾燥予防をしたほうがいい。
また,「傷をきれいにする軟膏」 としてヒルドイドソフト(R)を処方されている先生が多いが,これは基本的に保湿剤でなく乾燥剤なので使用すべきでないし,薬理学的に考えても 「傷を目立たなくする効果」 はないと考えられるし,私自身もヒルドイドが肥厚性瘢痕に奏功した症例は一例も見たことがない。もちろん,鰯の頭程度の薬効はあるかもしれないが・・・。ちなみに,小林製薬の 「アットノン」 という薬も成分はヒルドイドと同じなので,これまた効果は鰯の頭程度であろう。
このように説明すると「遮光クリームもクリームですよね。と言うことは乾燥剤じゃないですか?」という鋭いツッコミを入れる人がいると思うが,実はこれは正しいツッコミである。遮光クリームは確実に皮膚を乾燥させるのだ。要するに,「色素沈着予防を優先させるか,皮膚の乾燥を防ぐほうが重要か」 のトレードオフであり,色素沈着予防も皮膚の乾燥予防も,という選択肢はないと思われる。
色素沈着でなく色素脱失になって,白っぽくなることも多いが,この場合も数年の経過で周囲の皮膚と同じような色に戻ることがほとんどだ。
なお,下記のような商品もある。透明で薄いフィルムであり,顔に貼っても全く目立たないし,UVカットの効果も抜群なようだ。貼ったままお風呂にも入れるので,小さな子供が貼ったままプールに入っても大丈夫と思われる。
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縫合創は抜糸直後は硬い感じがするはずだ。これが柔らかくなって安定するまでにおよそ3ヶ月かかる。逆に言えば,3ヶ月未満の傷は未成熟であり,可塑性があるということになり,この期間に 「傷を開く方向」 に力が持続的にかかると傷が広がってきて,「抜糸直後は線状だったのに,次第に幅が広がってきて1センチくらいになっちゃった」 になるわけだ。
これを防ぐにはテーピングをして傷の拡大を防ぐしか方法がない。
傷が盛り上がって治った状態を肥厚性瘢痕(あるいはケロイド)と呼ぶ。厳密には別物だが,一般には同じに考えていいだろう。治療法は次のようになる。
(2012/11/20)