ところが,数字は数字なるが故に一人歩きしてしまう。これが問題だ。
熱傷を治療するあなたはどんぶり勘定で例えば24%なんていう数字を算出し、それをカルテに記入するはずだ。別の医者はどんぶり勘定の55%という数字をカルテに書き、別の医者は14%という数字を記載する。
そして,後世の医者が過去の治療症例を分析して治療成績に関与する因子を分析する研究をしたとする。すると24%という数字は「23でも25でもない24」として統計処理されることになる。その研究は「熱傷面積による生命予後の分析」というタイトルで学会で発表され,論文が学会雑誌に掲載されることになる。
しかしこの論文を書いた医者は「熱傷面積はどんぶり勘定で出した(テキトーな)数字だ」ということに気が付かないのだ。24%という数字をみると誰でも、「これは厳密な計算で出し24という数字なんだ」と思ってしまう。そして,そのような論文を集めて「熱傷治療の総説」を書く教授がやがて現れ、各論文は引用文献の一つとなる。この頃になると、個々の原著に当たって「この数字はどうやって出したものなのだろうか?」と気にする医者は一人もいない。
なぜこうなるかというと、後生の研究者には「どんぶり勘定で出した数字」も「厳密に出した数字」も見分けがつかないからだ。しかも熱傷の場合、どの論文(研究)も熱傷面積を「9の法則」で出しているのである。だから、後生の研究者は個々の論文に書かれた熱傷面積の数値の正当性を検証するなんて面倒なことは絶対にしない。疑い始めたらあらゆる論文が信用おけないものになるからだ。
ところが、そのような「どんぶり勘定数値」を元に統計処理を行った論文でも,「きちんと統計処理をしている科学的に正しい論文」と認識され,エビデンスの一つに加えられていく。これが「数値の一人歩き」現象だ。くどいようだが、どんぶり勘定で出した数字も厳密に出した数字も見分けがつかないからだ。
(2011/07/04)