日高敏隆さん,都筑卓司さんの思い出


 日高敏隆さんが亡くなった。私が勝手に「科学読み物の師」と仰いできた一人である。もう一人の師匠,故・都築卓司さんとともに,どれほど多くのことを教わったか言葉に尽くせない。都築さんからは物理学の,日高さんからは生物学の面白さを教えてもらった。どちらの先生にも,ついに直にお会いする機会は得られなかったが,お二人の文章は私にとって,万巻の書に匹敵する教科書であり,宝の山だった。科学ってこんなに面白いんだよ,君も一緒に研究してみようといざなってくれる彼らの本は,私がこの職業に就くことになった遠因だと思っている。

 日高さん,都築さんの本から教えてもらったのは,高度で専門的な内容を平易にわかりやすく,しかも妥協せずに伝える文章力の重要性だった。日高さんの『犬のことば』や都築さんの『マックスウェルの悪魔』は私にとって,まさに最良の教科書だった。彼らの文章を通じて私は,難しいことを難しく表現するのは誰でもできるが,難しいことをやさしく表現して伝えることがどれほど難しいく,そしてどれほど重要なことかを教えてもらった。

 だから今でも,ホームページの文章を書き終わってから,彼らの文章をときどき思い出す。そして,この二人のように,平易でわかりやすく,誤解のない文章を書けているのかと反省する。そして,まだまだ彼らの水準には及ばないなぁ,と嘆息する。

(2009/11/24)