《ダ・ヴィンチ・ウォー THE DAVINCI CURSE》 (2006年,アメリカ)


 世の中,下には下があるとか申しますが,これほど手抜きの戦争映画があるってのは,ある意味すごいなぁ,というか,何でこういうの作っちゃったの,とか,いろいろ考えさせてくれます。世の中,広いもんです。
 最初から最後まで何が起こっているのか意味不明・説明不十分なシーンが連続するため,「これって多分,こういう意味なんだよね」と観客の方が気を利かして「一を聞いて十を知る」くらいの想像力を働かせて初めて,一編の映画として完成します。つまり,観客の全面的協力が絶対条件ですし,見る人によってストーリーというか,事件の真相が違って見えるんですよ。

 おまけにこの映画,全然ダ・ヴィンチと関係ないじゃん。すごいなぁ。《ダ・ヴィンチ・コード》がヒットしたから,ダ・ヴィンチってタイトルを付けとけば,間違って見る人がいるかもしれないしさ,という魂胆が丸見えで清々しいです。


 これなら,《ダ・ヴィンチ・コート》もありだし,《ダ・ヴィンチ・今度》もいいだろうし,孤島の医者を主人公にした《ダ・ヴィンチ・コトー》ってのもありだし,新撰組なら《ダ・ヴィンチ・近藤》だ。
 間違ったら《ダ・ヴィンチ・混同》だし,株価が上がれば《ダ・ヴィンチ・高騰》。あまりにつまらなくて意識を失ったら《ダ・ヴィンチ・昏倒》だし,ダ・ヴィンチとルパン三世がコラボしたら《ダ・ヴィンチ・強盗》だ。何にでもダ・ヴィンチってつけちゃえ。

 《ダ・ヴィンチ・コットン》なら肌触りがよくて吸湿性が高そうだし,《ダ・ヴィンチ・ゴードン》なら機関車トーマスの新キャラみたいだ。
 そこまで行ったら,ダ・ヴィンチが僕の家にやってきたら《ダ・ヴィンチ・俺んち》だし,ダ・ヴィンチがよその家に行ったら《ダ・ヴィンチ・よそんち》。ダ・ヴィンチがどこに行ったか判らなくなったら《ダ・ヴィンチ・どこんち》だ。

 ダ・ヴィンチが発明した工具なら《ダ・ヴィンチ・レンチ》,ダ・ヴィンチがボーカルをしている人気グループは《ダ・ヴィンチ・レンジ》,一休さんにダ・ヴィンチに出演したら《ダ・ヴィンチ・とんち》(・・・もう,何がなんだか判らなくなってるぞ・・・)


 ま,そんな映画ですが,宣伝文はすごいです。

聖杯+テンプル騎士団+ヒトラー+ダ・ヴィンチという、今年のキーワードをふんだんに盛り込んだ高回転必至作?『ダ・ヴィンチ・コード』のミステリーに、戦争映画の迫力とホラー映画の驚愕が加味された、スーパーナチュラル・ミリタリー・アクション!ダ・ヴィンチによって隠された聖杯を、ナチスとアメリカ精鋭軍団が追う。

 わはは,全部嘘じゃん。聖杯もテンプル騎士団もヒトラーも最初にしか出てこないじゃん。ダ・ヴィンチに至っては「ダ・ヴィンチの呪い」とかいう亡霊なんだか怪物なんだか判らないチャチなものが出てくる程度。しかも,そいつが一体何なのか,最後まで説明なし。

 というわけで,ここで見なければ数年後には地上から消え去ってしまい,絶対に見られないであろうと考え,見たわけですよ。


 訳のわからんストーリーをまとめると,ヒトラーはオカルト好きで(これは史実らしい),実はテンプル騎士団(秘密結社というと必ず登場しますが,その正体はエルサレムに向かう巡礼を守ることから始まり,十字軍に参加する王侯貴族の財産を預かるのが主業務だったようです)の末裔なんだよ,と最初に説明されます。で,ヒトラーは聖なる槍(キリストさんのわき腹を刺した槍です)は持っているんだけど,聖杯を持っていないんでその在り処を探し回っていたんだと。
 で,場所は変わって東ヨーロッパの森。そこでアメリカ軍兵士がいて,ドイツ軍の秘密基地を爆破するという任務の途中,ドイツ軍の擬装戦車に出くわして戦闘になり,ドイツ兵一人を捕虜にして,その擬装戦車を作っている工場に向かうんだけど,何故かそこに一つの教会があって,薄気味悪い教会に入ると盲目の神父が一人いて,やがて奇怪な事件がおきて・・・ってな映画さ。

 ま,数々の低予算クズ映画を見てきたわけですが,この映画はその中でも群を抜いてますね。手間も金も,余計なものは一切省くというその製作姿勢は,清貧と言葉を思い起こさせ,すがすがしいばかりです。


 まず,主要登場人物が6人です。このうち,アメリカ軍は4人です。これ以上減らすと部隊にならないというところまで削っています。そして,メカがまたチャチです。途中で登場する戦車はまるでブリキのおもちゃ。おまけに情けないのは,機関銃を撃ったり手榴弾が爆発するときに銃口や地面が昭和30年代のアニメみたいにピカッと光るだけなんですよ。一応,CGなんですが,これほど安っぽい爆破シーンは滅多に見られません。トーキー映画だってもうちょっと派手だよ。おまけに,手榴弾を投げ込むシーンだって,下手投げでそこらに放るだけで,兵士達はお尻を向けるだけで物陰に隠れるわけでもありません。破壊力ゼロの手榴弾と思われます。

 それから,バックで流れる音楽,効果音がうるさい,ウルサイ,五月蝿い,迂屡磋夷! ちょっと静かにしろ,といいたくなります。おまけに,幻覚なんだか過去の回想だかわからないフラッシュバック・シーンがムチャクチャ多くて,うざったいです。


 新幹線の車中で見ましたが,途中で何度も意識を失いそうになりましたが,それでも頑張って頑張って,最後まで見ました。それを褒めてください。

(2007/01/01)

 新しい創傷治療   なつい
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